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富山県、岩瀬地区の人気店の一つに、「GEJO」という鮨屋がある。大町・新川通りの一番奥、銅板に小さくGEJOと彫られた看板を掲げる古民家がそれだ。富山を愛しながらも好奇心の赴くままに世界を渡り歩いてきた料理人が作る独創的な寿司と料理は、彼の人生そのもののように自由な楽しさに満ちている。
鮮度抜群、魚種豊富の魚天国の富山の鮨屋といえば、“キトキト”の魚で握るシンプルな鮨を思い浮かべる人も多いだろう。
富山・岩瀬の大町新川通りの一番奥に位置する鮨屋、「GEJO」の鮨はひと味違う。
美味なる富山の魚を使うのはもちろんだが、加えて店主のアイデアや創意工夫がきらりと光る、ここでしか食べることのできない独創的な鮨なのだ。
“型にはまらない”自由でのびのびとした鮨のベースは、鮨職人としてはユニークな下條氏の歩んできた道にある。
高校を卒業した下條氏は料理の道に進み、地元・富山の日本料理店で働きはじめた。10年経ったころ、興味があったシャンパーニュ地方を巡る旅に出たのだが、そこで運命ともいえる出会いを果たす。とあるワイナリーで岩瀬の町再生の仕掛け人、「桝田酒造」の桝田隆二郎氏に偶然出会ったのだ。
二人はすっかり意気投合。下條氏が富山の岩瀬という場所に縁ができたのはこの旅がきっかけだった。日本に帰国したときに、桝田氏から「カーヴ ユノキ」をオープンする際に“手伝わないか”と声をかけられ快諾。
その後、海外に興味を持った下條氏はフリーランスで「カーヴ ユノキ」や「鮨人」(現在閉店)で働きながらも、合間を見つけてはフランスやスペインのワイナリーへ旅に出た。
下條氏は面白いと思えばすぐに行動に出た。あるときフランスのワイナリーの友人の紹介で、ブルガリアのプライベートシェフの話をもらったときも、二つ返事で飛んだ。
人との縁を大切にする人には、不思議と面白い人と巡り合う。そんな格言めいた言葉そのものを地で行く下條氏は、いい意味で時の流れに身を任せ、自分流に技術と知識を磨いてきたのだ。
そんな下條氏は、2020年に今の店をオープン。握る寿司のコースは、自由で楽しく、縁を大切にしてきた彼の人柄を感じることができる。
まずは富山を象徴するような白エビの握りが挨拶代わり。そこから数貫鮨が続いたのち、「ブリのしゃぶしゃぶ」などの一品料理を間に挟む。
こうした一皿には、鮨以外に日本料理やフランス料理を経験してきてきたからこその調理法、食材の合わせ方、色彩感覚が存分に発揮されている。
常連が楽しみにしている「GEJOキャビア」は、“宮崎・高千穂で作られているキャビアに感動して”誕生したスペシャリテだ。白エビやウニの上で輝く黒いキャビアは、オーク樽で作った満寿泉の貴醸酒を少し加えてマリネするのが下條流。これがまた、美酒を呼ぶ。
魚は、目の前の岩瀬港、新湊、魚津、氷見漁港から届く朝獲れのもの。富山に生まれ、富山を愛する下條氏が使う食材は、キャビアと、安曇野から届くわさび以外のほとんどが富山産だ。
器も同様に富山の工芸家のものを使用。同じ通り沿いに住む、陶芸家・釋永岳氏の器や、安田泰三氏のガラス細工などが料理を盛り立てる。
酢飯に使う米にもこだわりあり。有機農法で育てる富山の農家「土遊野」のコシヒカリと祖母が育てるコシヒカリをネタによって使い分ける。酢は飯尾醸造の赤酢を、塩は能登の珠洲の塩を使用。どの食材にも下條氏の思いがたっぷりとつまっている。
一捻りある鮨ネタもまた、さまざまな出会いから生まれたものだ。
さっと薪で燻香をつけたバイ貝は、スペインで店を営む友人・前田哲郎氏のところで食べた薪火で作る料理からヒントを得た。醤油はネタに合わせ、通常の煮切り以外に、シーバスリーガルの風味を加えた煮切りを用意。寿司ひとつひとつが創意工夫に溢れている。
氷見であがるマグロなど、数種の握りが続いた後に登場したのは立派な塗りの重箱と書きつけ。その由来を聞いてみると、今年の豊洲のウニの初競で、羽立Specialの生ウニ「暁」を2番で落札した時に授与されたものだという。
雲丹を宝珠として掲げる肉筆の龍をあしらった「暁 専用 木製総漆塗り箱 龍」は、漆琳堂創業1793年(寛政5年)から塗師屋業を営む漆琳堂8代目 内田徹氏によるもの。こうした日本の手仕事の素晴らしさを一人でも多くの人に知ってもらえたらと、羽立のウニの鮨を出す時に披露しているのだそうだ。
カウンター越しに下條氏の人生で出会ってきた宝物たちの話を聞きながら、ここでしか食べられない鮨と美酒に酔う時間は至極楽しい。
他では食べられない物語を感じる鮨と、型にはまらない生き方の下條氏に会いたいと、「GEJO」カウンターは国内外からのゲストで賑わっている。
STAFF
Writer: Misa Yamaji
Editor&Photo: Atsuyuki Kamiyama
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