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世界的ピアニスト上原ひろみの魅力のひとつは、なんといっても一期一会の即興演奏の高揚感! 新しいチャレンジが化学反応をおこすように、未知の世界を創造していく。意外性、情熱、そして感動の高まりが巡り、2度と同じ体験はできない新境地へ誘ってくれる彼女が挑戦し続ける理由とは?
――伊藤なつみ(以下・伊藤)新プロジェクトのHiromi’s Sonicwonderを最新アルバム『Sonicwonderland』と共にスタートさせましたが、新たなチャレンジを始めようとする時のきっかけは何だったのですか?
上原ひろみさん(以下・上原):きっかけはベース奏者のアドリアン・フェローです。
アドリアンとは、2016年に当時やっていたトリオ・プロジェクトの代役として来てもらって、何公演か一緒に演奏したのですが、初めてとは思えない相性の良さがありました。そこから彼が演奏することを念頭に置いた曲を書きたい、一緒に演奏したい……と思わせてくれた、作曲家として火をつけられるようなプレイヤーだったというのが大きいです。その新しいバンドをやるにあたっていろいろ曲を書き進めて、音像がだんだんはっきりとしてくるなかで、その音像に近いミュージシャンたちを探して行き、このメンバーが揃いました。
――伊藤:アドリアン・フェローに、ラリー・カールトンと一緒に演奏しているドラム奏者のジーン・コイ、あとはトランペット奏者のアダム・オファリルという編成ですが、トランペットを入れるという発想はどこから?
上原:曲を書きながら、ベースとドラムのリズムセクションの他に、もう1つ楽器が欲しいなと感じていて。その楽器を何にしようかと、曲を書き進めるとともにずっと探していました。「ポラリス」という曲ができた時に、それがトランペットだって、本当にお告げみたいな感じでみえた(笑)。トランペット奏者で、音がすごくふくよかで深くて、少しダーク、そしてエフェクトペダルを使える……、そういうサウンドを探して行ったら、アダムを見つけました。
――伊藤:「ポラリス」を聴いていて、まさにトランペットが歌っているように感じていました。特にトランペットの旋律の後にピアノの演奏が来て、その旋律を拾ってトランペットがもう一度上がってくる、あの部分がすごく好きです。
上原:わぁ、ありがとうございます。
――伊藤:今回のアルバムは、どこかゲーム音楽やマーチング・バンドを思わせるような「ボーナス・ステージ」をはじめ、「ゴー・ゴー」や「トライアル&エラー」などから、上原さんの遊び心やチャーミングな部分が出ていると感じました。自分でもこれまでとは違うモードでやっている感覚はあったのでしょうか。
上原:このプロジェクトは、キーボードを弾きたいという欲求が強くあって始めました。キーボードって私の中でピアノとはまた違う位置にあって、自分の中ですごくユーモアに溢れた楽器なんです。なので、そういう要素は必然と増えていると思います。作曲するにおいても、この楽器はピアノと比べて音が伸びたり曲がったりしますし、音色も違いますし、その音が持っているインスピレーションが全然違うので、曲作りに関しても出てくるものが違ってきますね。
――伊藤:男性のヴォーカル曲「レミニセンス」も入っていますね。
上原:歌っているオリー・ロックバーガーは、シンガーであり、ソングライターでもあり、ピアノ奏者でもあるんのですが、バークリー音楽大学時代の同期で20年以上の仲なんです。ずっとお互いの活躍を応援し合ってきたのですが、2021年の初めにこの曲が完成した時にオリーの声が自分の頭の中に聞こえてきて。それで「一緒に作詞をしてくれない?」って連絡したら、「いいよ」って返事が来て、学生のノリですね(笑)。Zoomで交換しながら、一緒に作詞をしました。
――伊藤:自分らしくあるために、日々の生活で意識していることはありますか?
上原:精神か肉体のどちらかは、少なくとも健康に保つように心がけています。すごく疲れている時はすごく好きな人たちと会うとか、精神的にとても大変な時はたくさん寝るとか(笑)。どちらかがどちらかを支えられると思うんです。なので、どちらもダウンしないように、バランスを取るようには心がけています。自分の周りの健康な人を見ていると、本当によく寝ている。睡眠は何よりも一番お金がかからず、一番回復できて免疫を高めてくれる。だからちょっと疲れている時は、30分でも仮眠するようにしています。睡眠というものの素晴らしさを痛感しますね。
――伊藤:自分の感性を磨くために、たとえば美術館へ行ったり、他の芸術に触れたりする時間を作っていますか?
上原:他のクリエイターやアーティストの作品に触れるというのは自分が感化される瞬間でもあるので、時間がある時は、美術館へ行くのは好きですし、映画を観るのも好きですし、ライヴを観るのも好きです。あと、美味しいものを食べる。できるだけ現地の特産物などを食べようと心がけています。イタリアやフランス、スペインといった料理をとても愛している国へ行くと、彼らはプライドを持っているので、山の町で海のものを頼んだら、もう「これだからわかっていない」というようなすごい態度を取られる時がある(笑)。食にこだわりがある国に行くと、料理を運んでくるときの「これが世界一の料理だ!(The BEST of the WORLD!)」という自信が凄いですよね。素晴らしいと思うし、そういうところでもすごくインスピレーションを受けるんですよね。「これにしとけ!」って、頼みたいものを頼ませてくれないおじさんとかいますからね(笑)。そういう人との出会いが旅の醍醐味でもあるし、すごく楽しいです(笑)。
――伊藤:ツアーで世界各国を頻繁に回っている上原さんですが、上原さんにとっても幸せの軸とは何なのでしょう?
上原:公私問わず、挑戦することは自分の人生の充実に繋がるな思います。新しいことをやるというのはとても大変なことで、どうなるかわからないからワクワク感が大きいし、一から作らないとならないので達成感も大きい。予定調和がないというか、それが自分の探し求めたいものであるのか、と考えます。私は一年が経つのがあっという間だとは思いません。1月はあれをやって、2月はあれをやって、ひと月ひと月、ひとつひとつをコツコツやって、「今年は8か月過ごしてきたな」という感じがあるから、「もう8月だ」みたいなことは思わないですね。
――伊藤:手帳や予定表を見ながら振り返るのですか?
上原:だいたいその時期にいた大陸や国で覚えています。
――伊藤:素敵ですね。もしどこか日本ではない国に生まれるとしたら、どこの国がいいですか?
上原:どこだろう。ヨーロッパの大陸のどこかがいいなぁ。その国に生まれないと絶対にその国には住めないと言われている国があって、それがイタリアなんですよね。「イタリアに生まれていない人がイタリアに住むのは無理」って、イタリア人がみんな言うんですよ。私も数ヶ月くらいならいられると思うんですけど、10年住めるかといったらわからないですね。
――伊藤:実際にそれを感じたことはありますか?
上原:郷に入っては郷に従え(When in Rome, do as the Romans do)というのがありますけど、イタリア人の流儀という、びっくりするくらいのカルチャーショックを感じるのはイタリアが一番多いですね。ツアーでトラブルが起きた時に、「日曜日だし」って言われたり(笑)、21時に始まる公演で、20時58分に「デザートを食べる?」って言ってくるイベンターがいたり、南に行けば行くほど緩くなってきます。食べ物は美味しいし、人も素晴らしいですけど、行くたびに何かが起こるのでは?と、身構えますからね。この間もナポリの公演で機材業者がキーボードのペダルを会場に持ってくるのを忘れた時、ホテルの私の部屋にあるペダルを使おうと、ちょっとみんなが忙しそうだったから、私が自分で取りに行くことにしたんです。それで「誰か連れて行ってくれる?」ってお願いしたら、用意されていたのがバイクだったという。運転手に「はい!」ってヘルメットを渡されて、ものすごいスピードでガタンガタンと石畳を駆け上がって……。
――伊藤:映画みたい!(笑)
上原:『ローマの休日』ならぬ『ナポリのライヴ前』っていう(笑)。凄いなぁと思いました(笑)。
『Sonicwonderland』
1979年静岡県生。17歳の時にチック・コリアと共演。1999年ボストンのバークリー音楽院入学。在学中にジャズの名門テラークと契約し、2003年アルバム『Another Mind』で世界デビュー。2011年スタンリー・クラークとのプロジェクト作『スタンリー・クラーク・バンド フィーチャリング 上原ひろみ』で第53回グラミー賞「ベスト・コンテンポラリー・ジャズ・アルバム」を受賞。2013年アルバム『MOVE』の全米発売に合わせ、アメリカで最も権威のあるジャズ専門誌「ダウンビート」4月号の表紙に。日本人アーティストでは唯一となるニューヨーク・ブルーノートでの13年連続公演も成功させた。2020年からブルーノート東京でシリーズ企画「SAVE LIVE MUSIC」を展開し、公演回数は100公演を超えた。2021年「東京2020オリンピック開会式」に出演。2022年ワールドツアーを再開し、2023年映画「BLUE GIANT」では音楽監督を務めた。2023年9月、新プロジェクトHiromi’s Sonicwonderとしてのアルバム『Sonicwonderland』をリリース。
音楽ジャーナリスト・アメリカ文学研究
伊藤なつみ
デヴィッド・ボウイ、坂本龍一からマドンナ、ビョーク、宇多田ヒカル、ロバート・グラスパーなど、取材アーティスト数は数え切れないほど。『ユリイカ』2023年5月号に掲載の論考「ヒップホップ・フェミニズムの変遷」など、現在は黒人女性のエンパワーメントについても研究中。
STAFF
Music Journalist: Natsumi Itoh
Photos: Kayoko Yamamoto
Edit&Conposition: Kyoko Seko
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