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デイヴィッド・ホックニーの27年ぶりとなる大個展が東京都現代美術館で開催中。プール写真のコラージュが記憶に刻まれる巨匠の作品。その手法は進化をし続け、 2000年代に入ってからiPhoneとiPadを活用、アナログとデジタルを融合したスタイルで「今」を更新し続け、圧巻の大作に出合えることになった。
世界中が混乱し、多くの人々が新型コロナウイルスに翻弄されていた間も現代アートの巨匠デイヴィッド・ホックニーはフランス北部のノルマンディーの自宅で、日々、制作を続けていた。
2020年のロックダウン中、彼が手がけていたのは全長90メートルにも及ぶ新作『ノルマンディーの12か月 2020-2021年』。1年間にiPadで220点もの風景画を描き、それらを再構築して絵巻にした、季節の移ろいを連続的に描いた大作である。冬はいつか明け、生命の息吹を感じる春がやって来る。秋が来て、また冬が来ても、その次には必ず春が再び訪れる。
2020年3月には「春が来ることを忘れないで」というメッセージともに新作『No.118、2020年3月16日「春の到来 ノルマンディー 2020年」より』をオンライン上で公開。ヨーロッパでは春の訪れを告げる花、ラッパスイセンをモチーフにした作品である。
騒ぎはいつか終わる。そのメッセージに救われた人々がいる。
東京都現代美術館で11月5日(日)まで開催中の「デイヴィッド・ホックニー展」(主催:東京都現代美術館、読売新聞社)。日本では27年ぶりとなるホックニーの大規模な個展である。
150点ものホックニーの作品を所蔵し、世界でも有数のコレクションを誇る東京都現代美術館。開館まもない1996年に「デイヴィッド・ホックニー版画展」を開催したのが東京都現代美術館だった。今回の展示は元々、2017年にホックニー生誕80年を記念した回顧展がテート・ブリテン(ロンドン)、ポンピドゥー・センター(パリ)、メトロポリタン美術館(ニューヨーク)を巡回、「今度は日本で」と企画されたものだった。ところが2019年コロナウイルス感染症が流行し、延期を余儀なくされる。延期に次ぐ延期で、もはや中止かと関係者の心が何度も折れそうになったとき、あのメッセージが届いた。
結果的に予定通りの開催では展示できなかった、待望の新作が公開できることになった。
ついに春が来たのだ。先ほどのホックニーのメッセージに返信するかのように、今回、メインビジュアルに使われているのは『春の到来 イースト・ヨークシャー、ウォルドゲート 2011年』。ホックニーの故郷、イギリスのヨークシャー東部で2011年に制作された、幅10メートル、高さ3.5メートルの油彩画。今回、日本で初めて公開される。
そして会場で最初に目にするのはあのラッパスイセンの『No.118、2020年3月16日「春の到来 ノルマンディー 2020年」より』。当然、こちらも日本初公開である。
世界初公開の自画像もある。先日、86歳の誕生日を迎え、今なお現役のホックニー。絵画、ドローイング、版画、写真、さまざまな画材、技法で、60 年以上にわたり美術における表現の可能性を探っている。2000年代に入ってからはiPhoneとiPadを活用、アナログとデジタルを融合したスタイルで、「今」を更新し続けている。
今、なぜデヴィッド・ホックニーなのか。会場に一歩でも足を踏み入れれば、答えは明白。今こそ、ホックニーなのだ。 ホックニーと聞いて、プールを題材にした絵を思い浮かべる方も多いだろう。存命する世界中のアーティストの作品のなかで、最も高い落札価格記録である約102億円の 『芸術家の肖像画―プールと2人の人物―』は大きな話題になった。
今回も初期の『ビバリーヒルズのシャワーを浴びる男』(1964)や『スプリンクラー』(1967)といったカリフォルニアに移り住んだ時期の作品群、78年に手がけた「リトグラフの水」シリーズが展示されている。プールの水面のきらめきや水しぶき、光と水の瞬間に着目し、「リトグラフの水」シリーズでは版を重ねるという制作プロセスを踏んでいる。有名な「プール」もまた、彼の一部でしかない。
圧倒的な数の肖像画も手がけている。代表作と言えるのが今回、展示されている『クラーク夫妻とパーシー』(1970-71年)。 ほぼ等身大のふたりの人物が描かれた「ダブル・ポートレート」と呼ばれる構図もまたホックニー的と言える。
イギリスのウェストヨークシャー州ブラッドフォードに生まれ、ロンドンの王立美術学校で学び、ロサンゼルスに移住してからはアメリカ西海岸を描いた絵画で脚光を浴び、現在はフランスのノルマンディーで精力的に新作を発表し続けている。全8章で構成された展示を見ると、まるで時代ごとにホックニーが変遷を遂げているように見えるが、実は変わっていないこともある。
それは常に自分の身近にあるものをモチーフにしていることだ。表現するのは、今、目の前にあるもの。ホックニーは言う。「ありのままの自分であれ」。
そのせいか、50枚のキャンバスから成る巨大な作品『ウォーター近郊の大きな木々またはポスト写真時代の戸外制作』(2007)、36台の55インチモニターで四方を囲まれ、四季を鑑賞する映像作品『四季、ウォルゲートの木々』など、目を見張る作品の行ったこともない場所の風景にすら、どこか懐かしさを感じずにはいられない。そしてまた、あのメッセージを噛み締める。
春が来ることを忘れないで。
120点余りの作品が展示された日本で最も充実したホックニー展。「これまでの創作を網羅した展示だと思います。私の人生の大半を辿ることができます」とホックニー自身が太鼓判を押している。
デヴィッド・ホックニー/David Hockney 画家、芸術家。1937年イングランド北部のブラッドフォードに生まれ、同地の美術学校とロンドンの王立美術学校で学ぶ。1964年ロサンゼルスに移住し、アメリカ西海岸の陽光あふれる情景を描いた絵画で一躍脚光を浴びた。60年以上にわたり美術表現の可能性を探る試みを続け、現在はフランスのノルマンディーを拠点に、精力的に新作を発表している。2017年には生誕80年を記念した回顧展がテート・ブリテン(ロンドン)、ポンピドゥー・センター(パリ)、メトロポリタン美術館(ニューヨーク)を巡回し、テート・ブリテンでは同館の記録となる約50万人が来場するなど、ホックニーは現代を代表する最も多才なアーティストのひとりとしてその名を確立している。
WRITER
髙山亜紀
映画ジャーナリスト。現在は、ELLE digital、花人日和、JPPRESSにて映画レビュー、映画コラムを連載中。単館からシネコン系まで幅広いジャンルの映画、日本、アジアのドラマをカバー。別名「日本橋の母」。
STAFF
Movie Journalist: Aki Takayama
Composition: Kyoko Seko
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