個性で競う「クロノグラフ」の新鋭

高級時計においてもっとも有名な複雑機構がクロノグラフといえるだろう。時間をスタート、ストップ、リセットを行うメカニズムで、多くのパーツをケースに収納するために、どうしても大きくなってしまう外装を薄型・小径化していくのが最近のトレンドだ。またクロノグラフ機構だけでなく、プラスαの機構を組み合わせて、個性を出すモデルも多い。今年はそんなクロノグラフの新作がいつも以上に目立った。

まずは技術自慢のA.ランゲ＆ゾーネの新作クロノグラフからみていこう。

A.LANGE ＆ SÖHNE

2019年の発表から瞬く間に人気モデルとなったA.ランゲ＆ゾーネの「オデュッセウス」。ケース＆ブレスレット一体型のスポーティウォッチのオデュッセウスからクロノグラフモデルが登場した。

このクロノグラフウォッチにはよく見かける積算表示のインダイヤルがない。センターに同軸上で赤いクロノグラフ秒針とシルバーの60分積算計を備えるクロノグラフだ。6時位置のインダイヤルは3針のオデュッセウスを踏襲するスモールセコンドで、ブランドの象徴であるアウトサイズデイトと曜日表示のデザインの配置も変更することなく、クロノグラフ機能を追加してすっきりとしたデザインに仕上げた。

A.ランゲ＆ゾーネの時計がこれだけで終わるわけがない。このクロノグラフにはダイナミックリセットという機能が備わっており、クロノグラフをリセットする際にクロノグラフ秒針がすぐに帰零するのではなく、計測で進んだ分だけ何周も巻き戻る独自機能を備える。また2時位置と4時位置のプッシュボタンは、通常のクロノグラフの操作とは別に、リューズを1段引くとカレンダーの調整もできるようになっている。まさに能ある鷹は爪を隠すという格言がぴったりと当てはまる時計だ。

美しいクロノグラフといったら、ジャガー・ルクルトのクロノフラフは外せない。

JAEGER-LECOULTRE

クロノグラフ・ムーブメントを角型ケースに収めて機械式の魅力を存分に味わえるのが、ジャガー・ルクルトの「レベルソ・トリビュート・クロノグラフ」。反転してダブルフェイスを備えるレベルソケースで、表面に時分表示、裏面には時分表示にクロノグラフ秒針とレトログラード式の30分積算計が備わっているのが特徴だ。

モデル名に「トリビュート」とあるように、原型になったのは1996年に発表されたレベルソ初のクロノグラフ・ムーブメント、キャリバー829を搭載したモデル。今作では新型のキャリバー860を搭載してアップデート。キャリバー829では裏面をクロノグラフだけに特化していたが、最新のキャリバー860では裏面が従来のクロノグラフに加えて時分針を備える。2組の時分針は表と裏で反対方向に動かさなければならず、メカニズムの複雑さも増している。裏面はメインの時分表示に加え、その下のシースルー部分には左右にテンプとコラムホールを配置し、6時位置にはレトログラード式30分クロノグラフカウンターを備え、角型ケースに左右対称に美しく収まるデザインも秀逸だ。

GRAND SEIKO

グランドセイコーから初の機械式自動巻きクロノグラフ「テンタグラフ」が登場した。モデル名は「テンビート」「スリーデイズ」「オートマティック」「クロノグラフ」に由来していて、この時計の特徴を見事に表している。つまり、毎秒10振動による高精度、3日間（約72時間）のパワーリザーブ、自動巻きである。

これまでもスプリングドライブではクロノグラフモデルは存在したが、今回、満を持しての機械式クロノグラフとなった。クロノグラフ・ムーブメントには2020年に発表されたグランドセイコーの中で最高位のハイスペックを誇る機械式キャリバー9SA5をベースに、クロノグラフモジュールを追加したキャリバー9SC5を開発し、採用した。時計側からクロノグラフへの動力伝達を司る垂直クラッチはセイコーの十八番であるが、メイン以外にも30分積算計と12時間積算に３つもが内蔵しているのが特徴で、指針ずれや針飛びとともに動力のロスを最小限に抑えている。

ZENITH

ゼニスは時計のダイヤルに「Pilot」と表示できる、唯一の時計ブランドだ。それは1903年12月17日にライト兄弟が世界で初めて友人動力飛行に成功した翌日に、「Pilot」の文字の特許申請をして、翌1904年に商標登録されたからだ。ダイヤルには平行線が刻まれているデザインも航空機が由来。これはドイツのユンカース航空機の機体とデザインにヒントを得たもので、スーツケースブランドのリモワの平行線リブを刻んだジュラルミン製スーツケースのデザインにも共通する。

搭載するのは、お馴染みのクロノグラフ・ムーブメント、エル・プリメロに、ビッグデイト表示を統合した新しいエル・プリメロ 3652。6時位置のビッグデイト表示は、電光掲示板をイメージして0.007秒以内にディスクがチェンジして表示が安定するようになっている。またこの瞬転のために強いバネを採用しているが、行き過ぎてダブルジャンプしないためのセキュリティも備えている。こうした機能を備えるにも関わらず、ケースの厚みは14.25mmに収めた。