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直木賞を受賞した『渦 妹背山婦女庭訓 魂結び』などの執筆で、しばらく江戸時代に脳内ワープしていた小説家・大島真寿美が現代に戻ってきた。『ビターシュガー』の登場人物たちが15年を経て成長し、コロナ禍、それぞれの道をどう描いていくのか。
~あらすじ~
美月は28歳。ある日、「会社から抜け出したかった」と唐突に辞表を出してしまう。そんな彼女が頼るのは両親ではなく、母親の友人で56歳になる市子だ。絶望の中にいた美月は、市子ら昔馴染の大人たちに囲まれながら徐々に上を向き始める。そして、ひょんなことから山梨のワイナリーを訪れたことで人生が少しずつ変わり始める。
直木賞を受賞した『渦 妹背山婦女庭訓 魂結び』などの執筆で、しばらく江戸時代に脳内ワープしていたという大島真寿美さん。〝現代〟に帰ってきたのは2020年のはじめごろ。コロナの行末がまったく見えず、ただ長引きそうな気配だけが濃厚になっている時期だった。
「コロナで人生を考え直す人は多いと感じていました。みんなが人生を考え直す時期なのではと思うと、コロナの今を書かないわけにはいきませんでした」
そんな中で生まれたのが新作『たとえば、葡萄』だ。書き上げてみれば、大島さん自身も驚いた。思いもかけず、2010年『ビターシュガー 虹色天気雨2』の続編となっていたからだ。主人公は前作でティーンだった美月。本作では28歳になっていた。
「いまさら続編というのもおかしいくらいですが、結果的には続編となっていました。書いていて面白かったのは、キャラクターたちがきちんと14年経過した時間の中で生きていることがわかったこと。何年経とうとキャラクターたちは私が生み出した世界にずっといるんだということが驚きで、それぞれの人となりの時間を知ることができました。私自身にとって初めての経験でした」
主人公は20代の美月だが、幅広い年代の女性たちの人生が描かれる。閉塞感漂う今、どう生きるか——。美月は会社員を辞め、右往左往し、ひょんなことからワイナリーのドアが開かれ、ぶどう作りに希望を見出す。硬直化した日本社会で、あるいは凝り固まった自分自身に変化をもたらすヒントを読み取れるはずだ。
「美月は企業の中で一つの価値観を押し付けられ、素直に従っていました。会社を辞めた後にすごく不安になるのは、お給料がもらえなくなる怖さを初めて味わうから。既存の価値観の中にいたと思います。例えば、いくらお金があっても、ハイパーインフレになれば紙幣は紙屑になってしまう。美月はたまたまコロナで不幸になったかのように見えますが、1つの道が閉じられてしまったがゆえに、別の道が開かれる。視点を少しずらすと自由に、楽になる。今の世の中、若い人たちのほうが現状に不安を感じている人が多いと思いますが、視点をずらして生きることで誰もが今とは違う方法で生きていけると思うんです。この小説が読んでくださる皆さんの、少しでも背中を押すのに役立ってくれるとうれしいです」
もっとも大島さん自身は、コロナ禍でもライフスタイルに変化はなかった、と言う。
「小説家はみんな、コロナで緊急事態宣言が出た時も落ち込んだ人は少なかったと思いますよ。取材ができないといったことはあっても、書く分にはいつもと同じですから。私は長編小説を書くことが多いので、同じテンションを保ちたい。毎日昼間に書いています。もう20年以上同じです。普通を心がけているので、地味な生活ですよ(笑)」
今年デビュー30周年。大島さんにとって、淡々と変わらず書き続けることが、長く続ける秘訣なのかも。もっともご本人は、「書くことが楽しいから」と即答したが。
「だって、自分が考えたこともないような1行が現れるんですよ、楽しいじゃないですか。自分の想像の外に行けるのも面白い。書いている自分がびっくりすることがあるんですよ。そんな面白い娯楽はないでしょう(笑)」
大島真寿美著「たとえば、葡萄」を、ぜひお楽しみください。
1962年、愛知県名古屋市生まれ。92年『春の手品師』で第74回文学界新人賞を受賞し、デビュー。『たとえば、葡萄』は、〝今書きたい事〟の執筆を進めたところ、結果的に、2006年に出版された『虹色天気雨』、『ビターシュガー 虹色天気雨2』の続編となった。2012年『ピエタ』で第9回本屋大賞3位。19年『渦 妹背山婦女庭訓 魂結び』で大161回直木三十五賞受賞。その他、『戦友の恋』『それでも彼女は歩きつづける』『あなたの本当の人生は』『空に牡丹』『ツタよ、ツタ』『結 妹背山婦女庭訓 波模様』など多数。
STAFF
Text: Sayuri Sakaguchi
Editor: Kyoko Seko
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