Q4 「Switch インタビュー(ryuchell×平野啓一郎)」NHKの番組冒頭、平野さんの書斎での執筆シーンを拝見しました。平野さんはいつも縦書きで執筆されているのでしょうか?

平野:僕は昔からワープロの縦書きで書いています。完成された本のスタイルに近い方が イメージがつかみやすいですね。ただ、紆余曲折があって、最初、ワープロの頃は原稿用紙フォーマットで書いてたんですよ。昔の作家なんてみんな原稿用紙に書いていますしね。でも、僕にとって原稿用紙の一行20字の連なりは短すぎるんです。本になったときは、もっと一行が長いので、全体になったときのイメージのしやすさから、A4フォーマットの大きさに縦書きで書くようになりました。

───執筆法といえば、ローマ字入力よりプロセスが短いから、かな入力をされている、と以前されていたお話も印象的でした。

平野:ローマ字入力になると、考えていることを文字に移すとき、ひとつ何かがはさまる感じがしますし、打つ数が多くなりますよね。ローマ字入力とかな入力の両方を覚えて、小説を書くときにはかな入力にしています。

Q5 いつも平野さんのお話のなかに、たくさんの人物、作品、文学史などが次々と出てくることに敬服しています。読書メモや、取材や文献研究などはどう取りまとめていますか?

平野:僕の本の精読の仕方は、数ページごとあるいはトピックごとに、要約をノートに書いていくんです。要約というほどでもなくて、見出しを書くくらいですかね。そうすると全体がよく理解できるのと、後ほど参照しなければならないときに、どこに何が書いてあるのかがよくわかるんです。昔は手で書いていましたが、最近、音声入力の精度が上がっていますので、結構、音声入力でメモを取っていくことも増えました。芥川賞などの作品を読むときも、全てメモをとって読んでいます。

この方法は『葬送』という小説を書いていたときに編み出したんです。ショパンとドラクロワとサンドの日記や伝記を把握し、それぞれの資料本のどこに何が書いてあるのか、すぐたどり着けるように、ページごとに細かく何が書いてあるかというのをずっとメモを取っていったんです。ドラクロワの文献は翻訳もなくフランス語の原典でしたから、この方法は結構いいやり方だなと思いました。その後も、精読する必要がある本のときは、このスタイルでやっています。一冊一冊の中身を細かく把握しておくと、この本のどこかの部分があの本のあの部分とつながってるみたいな感じで、ふと思い付くことや、ひらめきがあったりもします。今書いている三島由紀夫論は、こういう方法の集大成みたいなところがあります。

───音声入力したファイルを、パソコンに全部保存されているのでしょうか?

平野:ワードファイルに、音声入力で書き込んでいます。例えば三島由紀夫の『豊饒の海』 の『春の雪』だったら、『春の雪』の1ページ目から最終ページまでずっとメモを入力します。以前、「文学の森」でお配りした「読書ノート」のような感じです。

この続きは、平野啓一郎さんと「文学の森」でもっと語り合ってみませんか? 

「平野啓一郎の文学の森」は、平野啓一郎をナビゲーターとして、古今東西の世界文学の森を読み歩く文学サークルです。3か月毎に定めたテーマ作を、月に一度のライブ配信で読み解く、小説家による小説解説!

4月〜6月のテーマは、森鴎外の『舞姫』と『阿部一族』。ご参加後は過去のアーカイヴも視聴可能です。次回は、レフ・トルストイ著『アンナ・カレーニナ』です。

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PROFILE
小説家 平野 啓一郎
小説家
平野 啓一郎

1975年愛知県・蒲郡市生まれ。北九州市出身。京都大学法学部卒。1999年在学中に文芸誌「新潮」に投稿した『日蝕』により第120回芥川賞を受賞。40万部のベストセラーとなる。以後、一作ごとに変化する多彩なスタイルで、数々の作品を発表し、各国で翻訳紹介されている。2004年には、文化庁の「文化交流使」として一年間、パリに滞在。著書に、小説『葬送』『決壊』『ドーン』『空白を満たしなさい』『透明な迷宮』『マチネの終わりに』『ある男』など、エッセイ・対談集に『私とは何か「個人」から「分人」へ』『「生命力」の行方~変わりゆく世界と分人主義』『考える葦』『「カッコいい」とは何か』など。2019年に映画化された『マチネの終わりに』は、現在、累計60万部超のロングセラーに。『空白を満たしなさい』が原作の連続ドラマが2022年6月よりNHKにて放送。『ある男』を原作とする映画が2022年秋に公開、と映像化が続く。作品は国外でも高く評価され、長編英訳一作目となった『ある男』英訳『A MAN』に続き、『マチネの終わりに』英訳『At the End of the Matinee』も2021年4月刊行。「自由死」が合法化された近未来の日本を舞台に、最新技術を使い、生前そっくりの母を再生させた息子が「自由死」を望んだ母の<本心>を探ろうとする最新長篇『本心』は2021年に単行本刊行。ミステリー的な手法を使いながらも、「死の自己決定」「貧困」「社会の分断」といった、現代人がこれから直面する課題を浮き彫りにし、愛と幸福の真実を問いかける平野文学の到達点。2023年、構想20年の『三島由紀夫論』を遂に刊行。『仮面の告白』『金閣寺』『英霊の声』『豊饒の海』の4作品を精読し、文学者としての作品と天皇主義者としての行動を一元的に論じた。三島の思想と行動の謎を解く、令和の決定版三島論。

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