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透明人間の娘に深い愛情を注ぎ、彼女を守ろうとする父親の切実な想い。しかしその一方で、周囲からその感情や行動がどのように映るのかという意識に揺れ動き、自らの選択の正当性に葛藤する――。人が誰かを愛し守ろうとするときに抱える普遍的な苦悩と希望。新感覚SFムービーで、毎熊克哉が圧倒的なリアリティをもって人間の繊細な感情の揺らぎを表現する。

映画監督志望から俳優へと転身。自主映画『ケンとカズ』で注目されると、当時30歳目前だったことから、「遅咲きの新人」と脚光を浴びた。あれから10年。先日は主演映画『「桐島です」』で第35回日本映画プロフェッショナル大賞主演男優賞を受賞するなど、今や俳優として、黄金期にある毎熊克哉。硬派な佇まいから匂い立つ渋い色気、静かながら迫力のある演技はスクリーンでなお、光り輝く。主演映画『見えない娘 THE INVISIBLES』は娘が生まれつき“透明人間”だったという秘密を抱えた家族の新感覚SFムービー。毎熊は年頃の娘三人を持つ心配性の父親を演じている。
――家族に透明人間がいるというユニークな設定の物語ですが、最初に話を聞いた時はどう思いましたか。出演するにあたって、どんなところに魅力を感じましたか。
「とにかくもう脚本が面白かったんです。初期の段階から、読んでいたのですが、話の大まかな流れがめちゃくちゃいいと思っていました。その後、練りに練って、最終的に撮影することになった決定稿になると、これもまた何の疑いなしに面白い。絶対に書いてある通りにやれば間違いないとわかっていても、そこで安心するのではなく、どちらかというと欲張りなので、より面白くしたくなるんです。台本は文字ですから、実際に動く自分という生身の人間が入ってきた時に、面白い台本をどうすれば、より深くできるか。どうやったら、書いていないところまで、表現できるのか。それが楽しい悩みでした」
――台本が改稿されていく段階で、毎熊さんが意見をすることもあったのでしょうか。
「監督と細かく、どういう風にやっていくかといった、打ち合わせがまったくない作品もあります。いわゆる、“監督1人が全部、決めていくスタイル”です。だけど、今回の監督の竹林(亮)さん、脚本の(夏生)さえりさん、そして制作のCHOCOLATE Inc.という座組は、ああでもないこうでもないとみんなが意見を出し合って進めていくのがベースにある気がしました。なので、自然と自分も同じような気持ちでいて、“もしかしたらこういうのもありかも”と思ったことをところどころで話せるような現場だったと思います」
――「心配性のお父さん」という役柄が新鮮でしたが、毎熊さんを想定して、書かれたところはあるのでしょうか。
「若干、そうなのかなぁ。台本に“顔が怖い” “眉間にずっとしわが寄っている”とか書いてあったので、そこら辺はあて書きなのかも知れません(笑)」

――毎熊さんから見た星野学はどんなお父さんですか。自分との共通点、共感するところなどはありますか。
「自分は親になったことがないですし、自分が育った家庭も両親2人に妹がいて、親と子が2:2です。そう考えると、このお父さん1人に娘が3人という設定はどちらかというと自分の生活の身近にはなかったものです。でも、2人姉妹がいる、周りのお父さんたちから、『俺なんて、家ではもう1人だよ』って話をよく聞くんですよね。女の子に囲まれて、『お父さん、あっちに行って』みたいなことを言われている様子が想像できました(笑)。今回も父親というものをやれるのかという心配はあったんですけど、おそらく父親でいようとしてはいるんだけど、娘たちに翻弄されているのがいいんだろうなぁとどこかで思っていました」
――実際に年頃の女の子たちとは主演として、どのように接していたのですか。
「現場にいる時は、実はあんまり、そういうことは考えていなかったかもしれません。自分が現場で、主演といった感じでいると、おそらく周りと波長が合わなくなると思ったんです。みんなといる時は、ただ、一緒にいただけです。客観的に気になったところだけは撮影前に監督と話し合いはしましたが、なるべくほとんど、家族のみんなとくだらない話をしていました。単純に子どもたちといるという感覚です。ただし、小学生とはいえ、一応、仕事場ではあるので、監督が『本番、行くよ』と言っているのに、まだおしゃべりを続けているような時には『本番、行くって!』と促してはいましたけど、それぐらいです(笑)」
――実際に見えない演技というのはすごく難しいんだろうなと思ったのですが?見えるものを見えないようにする演技なのか、見えないものを見えるようにするべきなのか、混同しそうです。
「おっしゃる通りです。自分もそう思っています。見えないものを見ようとする話で、実際、そういう映像です。だけど実際は、見えているんですよ。末っ子のひかりは、本当は見えないんですけど、現場のテストの段階ではひかりを演じている(鈴木)凜子ちゃんがいるので、本番でも頭の中にいるんです。とはいえ、本当は見えてないはずなので、見えるものを見えないようにしているのか、自分でもどっちかわからないなって、やっている時に思っていました(笑)。意外とスキル的な部分もあるかなと思います。見えない何かに触るとか、押すと言った動きは、カメラにそう映っているか、どうか。そう見えないのなら、改善する。それぐらいです。大事だったのは質感だった気がします。いないんだけど、いる。その感覚はやっぱり、凜子ちゃんがずっと現場にいてくれたからというのが大きかったです。自分が見ようとしているのか、見えないようにしているのか、わからなかったとしても、結果的に完成した作品では、見えていなくても、いる感じがお客さんにふわっと伝わってほしい。そこがとても大事なところだと思います」

――映画『14歳の栞』を観て、竹林監督は対象とじっくり対峙される監督なのかなという印象を抱いたのですが、映画『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』はコメディ作品でとてもギャップがあります。今回の現場では、どんな演出だったのでしょうか。
「『MONDAYS〜』だけなら、今回の現場は想像通りだったかもしれません。ですが、過去にドキュメンタリー作品を撮られていて、『MONDAYS〜』とはまるで違うものなので、どんな感じでいくのだろうと想像がつかなかったですね。学のキャラクターはちょっと竹林さんの要素が入っていると思うんです。監督からもそう聞いた気がします。竹林さんはどちらかというと心配性です。それは多分、いいことだと思いますし、映画を撮る時も前もって、すごく準備していたはずです。それでいて、俳優が入り、さらに子どもたちが入ってきて、予想とは違うことが起きた時の監督の姿が印象的でした。用意してきたもので終わらなかった後、どうするのか。竹林さん自身、この撮影をどこか旅するような気持ちで挑んでいたのかなって、僕なりに想像しました。おかげで、いろんなセッションが生まれた感じがあります。その辺り、竹林さん、そしてチーム全体の柔軟性が良かったですね。多分、役者だけではなくて、時にはキャメラマンだったり、いろんな人が『こっちの方がいいと思うけど』と現場では意見を出していた。そんな時、みんなで一緒に頭を悩ませながら、過ごすことができて、とても楽しかったです」
――実際に自分で親を演じてみて、感じたことはありますか。
「自分が親を見る感覚は、学生時代から比べるとずいぶん変わったなって思います。自分がもうすぐ40歳で、親が60代。昔は、親は親にしか見えなかった。今ももちろん親ではあるんですけど、どこかで1人の年齢を経た男性あるいは女性という風にも見えてくる。今の目で、20年前、30年前の親を見ると、全然、若いじゃんと思えるんですよね。同時に自分が今、親になったとしても、全然、ダメ人間だなって思っちゃう(笑)。だから、より心配だろうなと思います。子どもができて、一丁前に親ではあるんだけど、その子が、一人前になっていく過程は不安だろうな、自分が未熟なことを気づいていくんだろうなと。今回はシングルファザーの設定だったから、できるかなと思ったんですけど、それぐらいの感覚がよかったのかもしれません。(娘役の)彼女たちは自分が想像していたより俄然、大人で、自分が8歳、14歳ぐらいの時はこんなだったっけ?と思うぐらいでした。大人というか、子どもと思わない方がいいぐらいの存在。こっちが『こうしなさい、ああしなさい』と言いながら、『本当にそうなのか』と問われたら、『確かに』と思わされることがいっぱい、ある。そう思うと、親って何なんだろうと思いますね」

――『「桐島です」』がいまだに反響を呼んでいますが、毎熊さんは毎回、どのように作品選びをしているのですか。
「どうなんでしょう。やっぱり30歳ぐらいまでは仕事がそんなになかったので、基本的には何でもやるというのがベースにあります。そうは思いつつ、もうすぐ40歳なのですが、この10年で思ったのは、体が1つしかないということ。活動が順調に進むにつれて、できないことも自ずと出てくるときがあります。そうした時に、考えるのは、どこに時間を使うのか。時間があるなら、そんなことは考えずにどんどん飛び込んだ方がいいのかと思うこともあります。ただ、大まかに大事に思っていることは、すごく挑戦的だと思える作品だったり、うんと頑張らないと絶対できないだろうなっていう役が理想です。この作品もそうですね。題材として、すごくチャレンジングだと思うんです。それが1個のベースでしょうか」
――それは「世間を驚かせたい」、あるいは「知らない自分をもっと知りたい」とか、どんな思いが根底にあるのでしょうか。
「単純に自分の性格によるものかもしれないんですけど、何となく想像がつくものってあんまり面白くないなって思っちゃうんですよね。映画が面白かったかどうかっていうのは個人の好みもあると思うんですけど、予告編やポスターを見て、あるいは脚本を読んで、想像がつくものに自分はワクワクしない。どんな映画になるんだろう。あるいはまったく自分が演じるイメージがわかない。そういう方が楽しい。より挑戦したくなる。そんな風に思っています」
――今、挑戦したい役柄やジャンルはありますか。
「やったことない役はもう無数にあるでしょうね。年齢によって、以前ははまらなかったんだろうけど、今後、はまってくる役柄もあるでしょう。イメージはどうしても、ついてしまうものだから、それに合ったものだけをやってしまうと、つまらないかな。なるべく、“そんなん、毎熊、できんの?”みたいな方をやりたいと思っています(笑)」
――仕事をしていて、達成感を感じるのはどんな時ですか。
「難しいのですが、結局、作っている最中には“やっぱり、好きなんだな”って思うんです。今回の現場もそうですけど、監督とある一つのシーンに対して、真剣に話して、結果、何がいいかわからないんですけど、そのシーンを撮影した後にお互い、顔を見合わせて、『いいシーン、撮れましたね』『多分ね』みたいな時が一番、楽しいです。その後、完成して観る時にはまたちょっと違う気持ちなんですけど(笑)。あとは映画館での完成披露など、お客さんの反応を聞けた時もそうですね。公開する頃には撮影から時間も経っていて、自分では忘れている部分もあるんですけど、“そう観てもらえたんだ”というのをいろんな方と話して聞くのも楽しいです。全然、そんな意図じゃなかったけど、そうも見えるんだとか。それは間違いじゃないと思うんです。現場で、議論を重ねていったものがまたそこから違うものになっていく瞬間が楽しい。そもそも、作って見せるのが好きなんだと思うんです。それが今は仕事として、演技を見せることになっている。1個のものを作って見せて、お客さんが楽しんでいるのが一番、楽しいです」
――監督はやらないんですか。
「今のところ、ないと言い続けています。作品に携わって作って、見せるという意味では俳優としてでも、変わっていません。特に監督というポジションは考えていないです。ただ、新しい挑戦ではあるので、ないと言い続けてはきましたけど、死ぬまでには『やっぱり、やります』という可能性もあるのかなとは思っています」

――毎熊さんは20代より30代、そして今と年々、人気が高まっている印象がありますが、自分の年齢に関してはどう考えていますか。どのように年を重ねていけば、より魅力的になれるのでしょうか。
「わからないですね。いろんな経験などで成長はしているんでしょう。自分の昔の映画を観て思うのは、20代の時の自分の尖り方やチョイスは今ならきっとしない。もう1回、同じことをやれと言われたら、もうできないと思うんです。結果的にその年齢、その時にしかできないことをやっているのだと思います。仕事の経験は嫌でもしていく。人生でもそうかも知れません。経験や技術といったものが、いっぱい集まってきて、そして今度は多分、捨てていかないといけない時がいつかは来るんだろうなって感じています」
――自分の昔の作品を観ますか。
「この間、別の映画の上映で、宮崎に行ったんです。宮崎キネマ館っていう映画館があるんですけど、そこで、ちょうど、自分の昔の『ケンとカズ』という映画を上映していて、その後、トークショーをしませんかというお話があったので、久しぶりに観てみたら、ただのチンピラでした(笑)。同じ役柄でも今なら、違うことをする気がするんですよね。自分の作品はめったに見ないんですけど」
――今後、どのように年齢を重ねていきたいですか。
「40代って、働き盛りな気がしているんです。30代も本当にいろんな挑戦ができたと思うんですけど、40代はさらにしんどい経験をできたらいいなと思います。想像もつかないんですけど、例えば、演劇で1人芝居をやるとか。絶対にそんな自信はないんですけど(笑)。惰性にならないように、できなさそうに思えることにいっぱいトライしていきたい」


8月28日(金)、TOHOシネマズ日比谷他全国公開
出演:毎熊克哉 鈴木凜子 近藤華 矢山花 寺島進 余 貴美子
監督:竹林亮
企画・脚本:夏生さえり・竹林亮
配給:PARCO CHOCOLATE Inc. 110分
ⓒTHE INVISIBLES Production Committee
まいくまかつや/俳優 1987年3月28日生まれ。広島県出身。
2016年公開の主演映画『ケンとカズ』で毎日映画コンクール、スポニチグランプリ新人賞など数多くの映画賞を受賞。主な映画出演作に『サイレント・トーキョー』(20/波多野貴文監督)、『猫は逃げた』(21/今泉力哉監督)、『冬薔薇』(22/阪本順治監督)、『世界の終わりから』(23/紀里谷和明監督)、『初級演技レッスン』(24/串田壮史監督)、『悪い夏』(25/城定秀夫監督)、『「桐島です」』(25/高橋伴明監督)、『安楽死特区』(26/高橋伴明監督)などがある。
MOVIE WRITER
髙山亜紀
フリーライター。現在は、ELLE digital、花人日和、JBPPRESSにて映画レビュー、映画コラムを連載中。単館からシネコン系まで幅広いジャンルの映画、日本、アジアのドラマをカバー。別名「日本橋の母」。
STAFF
Photo/Eibun Miyake
Movie Writer: Aki Takayama
Editor & Composition: Kyoko Seko
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