福井県越前の地に特化したワイナリー併設のテロワールなレストラン

北陸新幹線が福井県敦賀まで延伸して1年半以上が経過した。東京など都市圏から福井へ足を運ぶ人が急増したが、福井駅と敦賀駅の間にある越前たけふ駅は見落とされがちだ。この地に、地元越前に特化したワイナリーがある。併設されたレストランも唯一無二のスタイルで、極上の時間を生み出す空間としてグルマンから注目されている。

TRAVEL Dec 1,2025
福井県越前の地に特化したワイナリー併設のテロワールなレストラン

越前市に誕生した注目のワイナリー

武生(たけふ)は難読地名かもしれないが、以前は武生市だった。2005年に今立町と合併して越前市となった。晩秋はつるし柿が名産で、その名を冠した越前和紙、越前焼、越前水仙、越前がに、越前おろしそばも有名だ。最近では、越前市は「ユネスコ創造都市ネットワーク」クラフト&フォークアート分野への加盟が認定された。いま、文化的にも注目すべき場所だといえる。

この秋、都会のグルマンたちが騒ぎだし、にわかに注目され始めたのが福井市内の美味処。本格的なフレンチからユニークな中華料理店や居酒屋、越前の魚介に特化した鮨店まで、遠方からやってくる客で活気づいている。

その流れで、北陸新幹線で福井駅の隣にあたる越前たけふ駅のそばに、ラグジュアリーなワイナリー併設のレストランがあると聞き及んだ。日本国内だけでなく、海外の美食も探求しているようなセレブな人たちが、この秋、こぞって足を運んでいたというのが、SIX THREE ESTATE WINERYに併設された『TSUKIHI』だ。

たまたま福井に行った帰りに予約がとれてランチへ。まずワイナリーを見学させてもらった。

ワイナリーの外観の画像
越前たけふ駅から徒歩約15分、タクシーなら4分ほどに場所にあるワイナリー。

ケンゾーエステイトをリスペクト

SIX THREE ESTATE WINERYの栽培・醸造責任者でオーナーの西野恒樹さんが自ら案内してくれた。西野さんは、金属加工・電子部品の製造などを行なう「エイティーンスコーポレーション」の代表者でもある。

「私がワインにはまってしまったのは、カリフォルニア・ケンゾーエステイトの赤ワインを飲んで感銘を受けたのがきっかけです。あの体験が人生を変えたといってもいいかもしれません。以来、ワインを飲むだけでなくワイナリーも訪問するようになり、次第に自分でもワイン造りに携わってみたいと思うようになりました」

その後、専門的にワイン醸造について学び、2020年に12本の苗木を越前の圃場に植え付けた。それから5年を経て、今では3ヘクタールの畑に約6000本の葡萄の木を育て、赤ワイン用の品種がカベルネソーヴィニヨンをはじめ、ピノノワール、シラーなど全6種。白ワイン用の品種はシャルドネ、リースリングのほか、セミヨンやゲヴェルツトラミネールまで植えている。ワインの生産本数は約2万本。

「海に近い葡萄畑には、強い海風が吹きます。粘土質でしたが、土壌改良も行いました」

健全な葡萄が育つことで、ワインは自然派のスタイルで造られている。ワイナリー内にはステンレスのタンクや木樽もあるが、地元の人から譲られたという古い越前焼の甕を使うこともあり、いわゆる“オレンジワイン”も造っている。

いまや全国に500以上のワイナリーが林立しているが、福井県内にはまだ少なく、このSIX THREE ESTATE WINERYはレストランを併設していることも含め、稀有な存在といえる。

栽培・醸造責任者でオーナーの西野恒樹さんの画像
栽培・醸造責任者でオーナーの西野恒樹さん。アカシアとフレンチオークを使ったハイブリッド型の樽もあるという。
セラー内にある試飲スペースにワインが並ぶ画像
セラー内にある試飲スペース。ずらりと自慢のワインが並ぶ。

地元の食材に特化したコース料理

見学しながらレクチャーを受けた後は、いよいよレストラン『TSUKIHI』へ。ワイナリーとは一体の建物だが、一度外へ出て別の入口から入店する。レストランのオーナーでもある西野さんに案内されダイニングへ。廊下が長く、期待を高める。大きな窓を擁するダイニングは天井も高く、落ち着ける空間だ。窓の外には田園風景が広がる。

カウンターとテーブル席があり、オープンキッチンのスタイルの画像
カウンターとテーブル席があり、オープンキッチンのスタイル。

料理はランチ、ディナーともに2万2000円のコースとペアリング込みの3万3000円のコース。お酒は、もちろんSIX THREE ESTATE WINERYのワインのほか、福井の地酒などもある。

コース料理のメニューは、順に素材やテーマだけが記されている。昨今のラグジュアリーレストランではよくあるスタイルだが、内容は越前に特化していて、最初の一皿は「湧き水 葡萄の葉 お米」と非常にユニーク。まず、この米のお焦げと葡萄の新芽を使ったスープで胃腸を優しく温める。

ある日のメニューの画像
ある日のメニュー。13項目記されているが、実際にはそれ以上の種類の料理が供される。

アミューズの「昆布 塩雲丹」は、ツルムラサキとおぼろ昆布、イカを使った小さなタルト、炭で焼いたブリオッシュに天然の塩ウニをのせた2種類を手でいただく。これが風味豊かで味わいが奥深く、2つの食感と温度の対比が面白い。まさに越前のエッセンスを小さなフィンガーフードに凝縮して閉じ込めたかのよう。

「昆布 塩雲丹」のアミューズの画像
「昆布 塩雲丹」のアミューズ。2種類の食感と温度の対比が鮮やか。

続いて、挽きたての蕎麦がき、落花生の「おおまさり」と青大豆の豆乳の泡という一品。越前といえば蕎麦というイメージを、素材との組み合わせでより薫り高くインパクトある味わいに仕上げていて脱帽だ。

越前らしい蕎麦を使った一皿の画像
越前らしい蕎麦を使った一皿。香り、食感、味わい、見た目にも意外性があり、これだけ食べに再訪したいくらいの逸品。

かつてTVドラマ「グランメゾン東京」ではキムタク扮するシェフが「まずアミューズでお客様の心を掴まなければダメだ」といっていたが、まさにこのレストランでも最初から鷲掴みにされた。

定番のシャルドネの一つの画像
ペアリングのワインは、SIX THREE ESTATE WINERYのアイテムが次々と供される。これは定番のシャルドネのひとつ。

このあと、コース料理は「越前-海-」「越前-里山-」というテーマが続く。1つのテーマにいくつもの料理が組み込まれている。酒好きの人になら、どんどんワインが進んでしまうかもしれない。

海の幸の数々の画像
三五八漬けのキュウリのスープ、越前エビ山うにのオイル、シマアジは焼きナスのエキス、三方五湖の鰻はアーモンドソースにミョウガとラッキョも使う。楽しすぎる海の幸の数々。
椎茸のクロスティーニ、カボチャとレンコン、そして、へしこの糠と卵黄のソースの画像
椎茸のクロスティーニ、カボチャとレンコン、そして、へしこの糠と卵黄のソース。今まで出会ったことのないような風味に驚く。

福井産のコメ「いちほまれ」のかまどご飯

さらに「豚」「紅蟹」「甘鯛 薪焼」「牛 薪焼」と続く。「豚」は福井ポークをつくね状にした料理で、地辛子を使用。「紅蟹」は紅ズワイガニのパスタ。自家製のタリオリーニだ。魚と肉のメイン2皿は、いずれも薪焼。こちらのオープンキッチンの厨房ではガスは一切使用せず、薪だけが熱源だという。

牛肉は「ふくい和牛ふくふく」で、調理される前に素材がプレゼンテーションされる。じっくりと時間をかけて焼かれた肉塊をゲストの人数分に切り分けて提供。シンプルながら旨みが強い牛肉は、SIX THREE ESTATE WINERYの赤ワインにもよく合い、余韻も長かった。

「ふくい和牛ふくふく」のサーロインの画像
「ふくい和牛ふくふく」の立派なサーロイン。
丁寧に肉を焼く長屋恭平シェフの画像
丁寧に肉を焼く長屋恭平シェフ。
表面はしっかりと焼かれて、中はジューシーな極上の牛肉の画像
表面はしっかりと焼かれて、中はジューシー。噛んで旨みが堪能できる極上の牛肉。
カベルネフランを使ったワインの画像
この日は、カベルネフランを使ったワインも供された。越前ではガメイもよく育つという。

このコースはどれも凝った料理で品数も多く、今回すべてを紹介しきれないが、デザートの前にご飯が出てくるのは特筆に値する。福井県産の「いちほまれ」を昔ながらのかまどで炊き、ご飯に合わせて、おかずも5品用意される。これがまた美味しすぎて、ついご飯をお代わりする客も。しかし、このあとさらに鯖と水だけでとったスープ仕立てのご飯も供されるのだ。

炊き立てのかまどご飯の画像
炊き立てのかまどご飯。熱源はもちろん薪。
ご飯用のおかずの画像
ご飯用のおかずも、手の込んだ秀逸なものばかり。
スープ仕立てのご飯に、生クレソンが添えられている画像
スープ仕立てのご飯には、生クレソンが添えられる。

まさに満漢全席のようだが、完食してもお腹にもたれない。最後のデザートの際にコーヒーを選ぶと、これも地元、池田町の焙煎所の豆だという。福井の食材に特化した料理と越前で造られたワインを提供するスタイルは、地元に根差したテロワールなレストランといえよう。

北陸新幹線の越前たけふ駅は停車する本数が少ないが、このワイナリーとレストランを目的にして旅のプランを立てる価値がある。予約至難になる前にぜひ、訪問していただきたい。

長屋恭平シェフの画像
長屋恭平シェフはかつて神戸のレストランなどで活躍。いまや北陸のライジングスターだ。
窓から長閑な田園風景が望めるスタイリッシュなダイニングの入口の画像
ダイニングの入口もスタイリッシュ。窓から長閑な田園風景が望める。
お問い合わせ先
TSUKIHI
福井県越前市葛岡町8-10-1
0778-24-0318
営業時間:ランチ 12:00~(土日祝のみ)、ディナー 17:30~
料金:22,000円、ペアリング付きは33,000円(税込・サービス料別)
定休日:水曜
https://hp.restaurant-tsukihi.jp/
SIX THREE ESTATE WINERY
営業時間:9:00~17:00(最終受付16:00)
定休日:土日祝日、年末年始
料金:見学無料(テイスティング試飲は500円)
https://six-three-estate.jp/

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