アレッサンドロ・バルベリス・カノニコが語る“ウール生地の現在、そして未来”

イタリアの老舗メーカー“ヴィターレ・バルベリス・カノニコ”CEOインタビュー

その表現力と、確かな品質で知られるイタリアの生地メーカー“ヴィターレ・バルベリス・カノニコ”。年に2回は来日するという同社CEO、アレッサンドロ・バルベリス・カノニコ氏が語る、日本との密接な繋がりとウール生地の可能性、そして産業のあり方。

FASHION Jan 16,2025
アレッサンドロ・バルベリス・カノニコが語る“ウール生地の現在、そして未来”

世界有数の毛織物産地として知られる北イタリアのビエッラ地区。同地区の中でも、最古の歴史を誇る生地メーカーのひとつが“ヴィターレ・バルベリス・カノニコ(VBC)”である。その起源は17世紀まで遡り、2023年には360周年を祝うイベントが日本で行われた。そんな“VBC”の特徴は、スタンダードからハイエンドまで、アーカイブの復刻から最新テクノロジーを盛り込んだものまで、年間5000種類に及ぶ幅広いバリエーションのファブリックを展開していること。さらにブランドやショップとコラボレーションした別注生地も数多く手がけ、その表現力は世界随一ともいえるだろう。

「クオリティにおいて、日本は重要なマーケットです」

アレッサンドロ・バルベリス・カノニコ氏の画像
まさに錦秋という表現がぴったりの、さまざまな色の紅葉を楽しむアレッサンドロ・バルベリス・カノニコ氏。(取材協力:東京 芝 とうふ屋うかい)

そんな“VBC”を率いるCEO、アレッサンドロ・バルベリス・カノニコ氏は、少なくとも年に2回は、日本を訪れていると語る。

「特別なお客様、お取引相手が日本にはいらっしゃるので、お会いして、何が売れているのか、何が注目なのかといったことについて、コミュニケーションをとります。さらに『こういう生地はないか』というご要望を伺ったり。実際の生地に仕上がるまで半年は要するので、仕上がったもののさまざまなフィードバックをいただくことも大切です」

13代目当主として、世紀を超えて続く生地メーカーを受け継いでいるアレッサンドロ氏。彼は、日本には鋭敏かつ多彩な感性があり、特別なマーケットと評する。そしてその実情と担い手たちに直に触れ、リサーチすることが重要だと、明快に語った。

 本取材は12月初頭。ユナイテッドアローズが創業35周年を記念して製作した、“VBC”の生地を使ったブレザーとスーツを披露するのにあたり、アレッサンドロ氏も招待された。もっとも彼はすでに10月に、通常のリサーチのため来日していた。

「いまは紅葉が素晴らしいですね、ブラウンや黄色など、色合いも多彩で。3月の桜も素敵ですが、秋もいいものですね」

訪れが遅かった今年の秋は、アレッサンドロ氏にとってはタイミングが良かったようだ。

ブレザーとスーツの画像
ユナイテッドアローズ35周年記念モデルより、ロイヤルブルーのダブルブレザーと、ブラウンのスーツ。いずれも“VBC”の「ペレンニアル(PERENNIAL)」に使用される原材料を使った、3PLYの平織生地を使っている。通年使用も可能なコシとハリがあるファブリックで、新たなスタンダードとして提案されている。6Bダブルブレストブレザー¥84,900、3Bシングルブレストスーツ¥108,900(ユナイテッドアローズ 六本木ヒルズ店)。

「基本的には日本は4番目に大きいマーケットです。1番目はイタリア、2番目は中国、3番目は北米です。ただ、クオリティの訴求という面においては、日本はイタリアに次いで2番目のマーケットといえます。日本の場合は、さまざまな種類の需要があって、特に高品質なものを求める傾向がある上に、メイド・トゥ・メジャー(オーダーメイド)のマーケットも大きいです。その意味において、重要な市場です」

年間で800万メートル、スーツに換算すると350万着の生地をつくっているという“VBC”。その物量もさることながら、“VBC”の特徴は生地のバラエティと、それを実現する生産体制にあるとアレッサンドロ氏は語る。

「英国など他の生地メーカーの場合は、各工程を分業することが多いのですが、私たちの場合はウールではオーストラリアに自社牧場を持っていたり、モヘアは南アフリカに現地法人を持っていて、原毛の買い付けから紡績、ウィービング、フィニッシング、製品検査工程まで、完全自社一貫生産で行なっています。それによって年間5000種類にも及ぶ豊富なバラエティの生地の製造が可能で、マーケットの多彩なご要望に応えることができているのです」

アレッサンドロ・バルベリス・カノニコ氏の画像
取材時はグレンプレイドのスーツを着用していたアレッサンドロCEO。毛足がしっかりとしたクラシックな雰囲気で、VBCらしい生地。(取材協力:豆腐屋うかい)

2006年ぐらいから、顧客の要望が急に多岐に渡るようになったと語るアレッサンドロ氏。自身がCEOに就いた2009年には、会社の業績は従前の2倍になり、その後従業員も増え、“VBC”は現在の体制を確立できたとも。アレッサンドロ氏の経営手腕と、時代を読む確かな目が感じられる。そこで、これからのウール生地と生地メーカーに求められることは何かと、尋ねてみた。

「お客様によって違いはありますが、共通する点は、コンフォートということです。着た時にストレスが少なくハイクオリティであって、ストレッチ性があるものなどが求められています。また表面はハイクオリティなウールやカシミヤの質感ながら、その裏にメンブレンなど機能性素材を組み合わせたもの。そうした方向性はアウターウエアの生地に顕著です。これもコンフォートの解釈のひとつといえますね。そうしたコンフォートへのアプローチを、さまざまなご要望に応じて、バリエーションを持ってご提案、お取り組みできるようにしています」

“VBC”のファクトリーの画像
イタリア、ビエッラ県プラトゥリヴェーロにある“VBC”のファクトリー。同社は原毛から生地製造まで一貫生産体制をとり、さらに使用水の100%浄水化や、従業員の健康対策など、サステナブルなものづくりに積極的に取り組んでいる。

2024年まで国際的な生地見本市であるミラノ・ウニカの会長も務めていたアレッサンドロ氏。取材の最後に、ウール生地とサステナビリティに関して、考えを伺った。

「羊などの動物が排出する二酸化炭素やメタンなどが問題視されがちですが、その一方で羊を育てる過程での土地や周辺環境の保全に対する努力も鑑みると、差し引きゼロの関係であるように感じています。それでは生地生産の現場のサステナビリティについてはどうかといえば、VBCでは電力は100%再生エネルギーを使っていて、使用する水も100%浄水化して戻しています。さらに、防音装置を施した織機の自社開発等、従業員の労働環境、健康にも配慮し、年間総売上高の10%をサステナビリティを推進する開発に投資しています。弊社では経営理念として、環境と労働環境への負荷を最大限に軽減するサステナビリティな生地製造を目指していますし、それがイノベーションによって実現可能だと信じています。

あと、“VBC”の生地を使うガーメントとして、スーツはもっともサステナブルな存在と考えています。無駄が少ないし、長く着られるし、リペアなども可能です。他の洋服産業と比べても、スーツ用のウール生地をつくることはよほどサステナブルだと思います。そしてウール自体は生分解性があるので、廃棄したとしても土に還ります。他方で、ファブリック生産全体の中で、ウール系ファブリックは1%しかありません。ウール生地をメインでつくる産業が環境に与える何かよりも、他のファブリックを生産する産業の、環境に対する影響のほうが重大なのかもしれません」

お問い合わせ先
ヴィターレ・バルベリス・カノニコ
https://vitalebarberiscanonico.jp/
ユナイテッドアローズ 六本木ヒルズ店
050-8893-4217

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