クラフトウイスキーが集う「秩父ウイスキー祭」で味わう「イチローズモルト」の矜持

英国の国際的「ワールド・ウイスキー・アワード」で6度、世界最高賞に輝いた「イチローズモルト」。製造するのはジャパニーズウイスキーの可能性を切り拓いた「ベンチャーウイスキー 秩父蒸留所」だ。 お膝元である秩父市では「イチローズモルト」をきっかけに2014年から「秩父ウイスキー祭」を開催。ウイスキー愛好家が国内外からウイスキーの聖地へ集う。2024年の開催日程が決まった今、10年の節目となった「第10回秩父ウイスキー祭」の活況をお伝えしよう。

LIFESTYLE Jun 28,2023
クラフトウイスキーが集う「秩父ウイスキー祭」で味わう「イチローズモルト」の矜持

一大ウイスキーイベントが3年ぶりにリアル開催

西武鉄道のフラッグシップトレインとして2019年にデビューした「特急ラビュー」に乗り、2023年2月18日、埼玉県・秩父市へと向かった。建築家の妹島和世氏が監修した車内は、さながらラグジュアリーなリビングルームのような空間。広く採られた窓からは都市から自然へ移り行く眺望を楽しめる。

特急ラビューの画像
近未来的なスタイルでも注目される西武鉄道の「特急ラビュー」。

西武秩父駅は豊かな自然の宝庫で、癒しの場所であるとともに、さまざまなアクティビティが楽しめるレジャーベースでもある。

レトロな建築の画像
秩父駅周辺には明治・大正・昭和に建てられたレトロな建築も現存する。
安田屋の画像
大正5年創業の老舗みそ漬け店「安田屋」。名物「豚肉のみそ漬」は秩父みやげとして人気が高い。

しかし、今回、秩父を訪れたのはネイチャーを愛でるトリップではない。お目当ては2014年に第1回が開催され、2023年で10年の節目を迎えた「第10回​秩父ウイスキー祭」のプレスデーに参加するためだ。

秩父神社と地場産センターの画像
左/会場となった秩父神社。 右/試飲会場とオープンセミナーステージがつくられた地場産センター。

コロナの影響で「秩父ウイスキー祭」は昨年、一昨年と、オンラインでの開催となった。今年は3年振りのリアル開催ということもあり、昨年12月に発売された予約販売のチケットは早々とソールドアウト。10年を経たこのイベントがいかにウイスキー愛好家に愛されているかを思い知らされる。

池袋から77分、西武秩父駅には到着し、レトロな街並みを散策しながら会場に向かうと祭り前日ながら、街全体を包むウイスキーの芳醇な香りが心地よい。

国内外から蒸留所をはじめ60社が出展

ライ・ウイスキーの画像
2007年に創業したアメリカ「ホイッスルピッグ」の原点となるライ・ウイスキー。10年、12年、15年の熟成年数が異なる3種類を試飲。

このイベントには蒸留所や販売店、インポーターなど過去最多となる60社が出展。会場となった秩父神社、秩父市地場産センター、秩父駅前に設営された大テント会場には毎回、来場者が集い、各会場では各ブースに試飲を待つ人が長蛇の列をつくる。後日、実行委員会のアナウンスでは来場者は2500人に達したという。

碧Aoの画像
世界初、自社蒸溜所でつくられた「5大ウイスキー」の原酒を匠の技でブレンドした、サントリーのプレミアム・ブレンデッドウイスキー「碧Ao」。

「秩父ウイスキー祭」の来場者の多くは、これまで多くの名だたる銘柄を自らの舌で体験してきた筋金入りのウイスキー通だ。新しい味に興奮を覚えながら、香りや色、味わい、個性を自分の五感で利き分ける。出展社にとってもコミュニケーションを通じて愛好家から聞き取った感想は貴重な財産となる。秩父は伝統ある祭りが現在もしっかり受け継がれる土地柄。「秩父ウイスキー祭」地域に新たな芽吹いた大人の祭りといえるだろう。

「イチローズモルト」を贅沢にも6種類飲み比べ

「ベンチャーウイスキー秩父蒸留所」のブースの画像
お目当ての「イチローズモルト」が6種類並ぶ、ウイスキー愛好家にとってはこたえられない「ベンチャーウイスキー秩父蒸留所」のブース。

会場を移動しながら試飲を続けたが、プレスデーに関わらず、ひときわ人だかりができていたのが、大テント会場にあるベンチャーウイスキー秩父蒸留所のブースだ。ウイスキー好きであれば知らぬ人はいない、創業者の名を冠した「イチローズモルト」は、国内外で高く評価され、現在のジャパニーズクラフトウイスキー人気の先駆けとなった蒸留所である。

秩父がウイスキーの聖地となったのも秩父蒸留所の存在が大きく影響している。

創業者の肥土伊知郎さんは家業の造り酒屋が他社に営業譲渡された際、約20年熟成を続けた400樽に及ぶウイスキーの原酒が廃棄寸前に追い込まれる。なんとか樽の受け入れ先を確保した肥土さんは、2004年、樽の原酒をもとにウイスキーを製造販売するベンチャーウイスキーを起業。2005年に販売を開始した初代「イチローズモルト」は、肥土さんが2年間で約2000軒のバーを回り、600本が完売した。2007年には生まれ故郷である秩父に念願の蒸溜所を設立。気候の寒暖差、上質な水などウイスキー造りに最適な環境から、秩父産のウイスキー製造を本格的に開始した。日本でウイスキーの製造免許が発行されたのは35年ぶりのことであったという。徐々に個性的な味わいがウイスキー愛好家の間で評判となり、2011年に最初のモルトウイスキー「秩父 ザ・ファースト」を発売し7400本が国内外で即日完売。その後は日本を代表するジャパニーズウイスキーとなり、世界的なウイスキーコンテストで数々の世界最高賞を授賞している。

秩父蒸留所の成功が多くのマイクロディスティラリーを生んだ

「秩父ウイスキー祭」も「イチローズモルト」は切っても切れない縁にある。肥土さんが「ザ・ファースト」で絆を深めた、バーテンダーの有志が、蒸留所のある町でウイスキーのイベントが開かれるスコットランドのように、秩父蒸留所のお膝元である秩父でウイスキーイベントを開催したという思いから「秩父ウイスキー祭」はスタートした。2000年代のはじめにウイスキー市場は大きく低迷したが、「イチローズモルト」の評価が上がるとともに市場も活気を取り戻す。「秩父ウイスキー祭」も一大イベントとしてウイスキー愛好家の間で注目を集め、回を重ねるごとに来場者が増え規模も拡大。また、「秩父蒸留所」に刺激を受け、国内で多くのマイクロディスティラリー(小規模蒸留所)が誕生し、「第10回秩父ウイスキー祭」でもクラフトウイスキー製造する出展社が大幅に伸長した。

そんな「イチローズモルト」を6種類試飲できたのが今回の大きな収穫であった。6種類それぞれに個性を切り分け、熟成し分けたシングルモルトの可能性そのものをダイレクトに試飲させる、というお祭りならではの大盤振る舞い。バランスの取れた薫香が、地元・秩父での試飲という事も相まって、より個性が際立つ印象を受けた。この地を代表するメーカーとしての矜持が感じられるラインナップだった。

「第11回秩父ウイスキー祭」は2024年2月18日に開催が決定

第11回の「秩父ウイスキー祭」は2024年2月18日の開催が決定。詳細は未定だが、規模を広げ、より多くのウイスキー愛好家に、ジャパニーズウイスキーのよさを発信するイベントになると読む。「イチローズモルト」、そしてさまざまなクラフトウイスキーを来年こそ味わっていただきたい。

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