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駆動するという役割から解放され、ブレーキングや操舵だけを担うフロントタイヤのフィールングが、より軽快に感じる。速度が上がるほどに、そして背中から聞こえるエンジンサウンドを聞くほどに、ラテンモードが高まり、ランボルギーニを走らせる快感に酔っていく。
大井松田を過ぎたところで目の前にくっきりと富士山が威容を表した。冬ならではのクリアな空気の中で、青空と美しいコントラストをみせるシルエットが浮かび上がっていた。それまで全身にたぎっていた熱き思いが、富士を目にしただけで少しだけクールダウンしていくのが分かる。アクセルを緩め、しばらく走ると“良く出来たスポーツカーはゆっくり走るほど快適さが際立つ”という自説を改めて確認することになる。路面からの不要な突き上げも感じることなく、軽やかなエグゾーストノートを聞きながら、まさにクルージングともいえる快適さを享受できていたのだ。
そんなとき「この先、エンジンの時代が終わったら、主役となるモーターをどう表現しますか?」と、同乗者から聞かれた。実は、その不安は以前からあった。モーターとはあまりに寡黙であり、表現する言葉が少ない。「強烈にしてシームレスな加速を極上の静粛の中で瞬時に行う」と、言ったあたりが精一杯の共通言語かもしれない。
一方、エンジンは実に雄弁だ。回転数に応じたパワーの出方やトルク感だけでなく、アクセルに対するレスポンス、ミッションとの相性、振動や音、さらには匂いまでといった具合に、あらゆる要素に対して、数え切れないほどの言葉が使える。一人一人がまったく違う感覚でひとつのエンジンを表現できる。だからといってエンジンを手放しで賛美しているのではない。
2021年に近未来の戦略を発表したランボルギーニ。2023年から全モデルのハイブリッド化を開始し、翌2024年に完了するために走り続けている。PHEVのフェラーリ296GTBを見るまでもなく、同様な流れはもはや加速するばかりだろう。当然、我々は新たなスーパースポーツに対する、新たな表現を準備しなければいけないと、自省した。
そんなことを考えているうちに、あっと言う間に御殿場インターチェンジである。出来得るならこのまま京都まで、などとハイウエーに思いを残したまま、国道138号へと降り、乙女峠に向かって駆け上がっていく。走り慣れたワインディングルートでウラカンのオープンエアを楽しむ、となるところだが、仙石原の「箱根リトリート」に着いてしまえば、この素敵な逢瀬を終えなければいけない。そんな、かすかな切なさを癒やしてくれるのが「料亭 俵石」の会席料理だったのだ。
食前酒(もちろんノンアルコール)に添えられたブルスケッタと共に運ばれてきた品書きを見る。本来は地場を中心にした日本の食材をふんだんに使うというスタイルのレストランだが、この席では、イタリア産生ハムやトリュフなど、多くの“イタリア”がそこここに散りばめられていた。なるほど、これがイベントのインビテーションに記してあった「食のマリアージュをお楽しみください」との意味だったのか。納得しながら次々に運ばれてくる、思いのこもった料理を楽しみ、仕上げはイタリアントリコロールのティラミスとフルーツ。調和の取れた味ばかりでなく、趣味のいい料理人の技を存分に楽しんだところで、我々は茶室へと招かれた。
本来、お茶席の前に饗されるのは軽めの懐石料理だが……。などと、人の受け売りを披露したところで仕方がないなどと自嘲しながら茶室に入ると、椅子で楽しむ茶の湯「立礼(りゅうれい)」だった。1872年(明治5)の京都博覧会において、正座が苦手な外国人などに茶の湯を楽しんで貰おうと、裏千家11世、玄々斎千宗室(げんげんさいせんのそうしつ)が考案したものだと言う。長い茶道の歴史の中では比較的新しいスタイルは、料理だけでなく、洋の東西の文化がほどよく混ざり合うことの心地よさを感じさせてくれる瞬間でもあった。
そう言えばここ箱根は、近代まで西と東の文化が混ざり合ったところ。もし今回のツアーが、単に「贅沢なクルマで極上のランチを」といったロジックで構成されていたなら、ここまでの演出は不要であったかもしれない。一方、もしランボルギーニが時代の融合や、文化の交流までをも、このスーパースポーツのドライブで感じ取って貰おうという意図があるのだろう、少なくとも、我々にはそれがしっかりと伝わってきた。
そして東京までの復路には、ブランド初のSUVであり、デビューから約4年たった今も大人気の「ウルス」をドライブした。最高出力650 馬力、最大トルク850 Nmの4.0リッターV型8気筒ツインターボエンジンを搭載し、0~100 km/h加速が3.6秒、トップスピードは305 km/hというパフォーマンスを、これまでも何度となく味わってきた。その都度「これほど気遣いなく快適に、これほど刺激的な走りをプレゼントしてくれること」に感謝しつつ、ランボルギーニ史上最大の人気を誇るスーパーSUVのステアリングを握り、箱根を後にした。
こんなゆったりとしたドライブとき、いつも思い浮かぶことがある。それはフェルッチオ・ランボルギーニという一人の男の情熱、つまりフェラーリに対する対抗心から、このスーパースポーツが誕生したという伝説である。多くの人はランボルギーニに対して「異端」や「反逆」であることを望み、それによりこの伝説は成立しているのだろう。だが、商才に長け、目先が利き、実に冷静だったというフェルッチオが、エンツォとのやり取りを繰り返す中で、スーパースポーツの豊かな将来性に、気付いていたとしたらどうだろうか? 単なる対抗心だけではランボルギーニというスポーツカーは現在まで世界で生き続け、こうして日本の文化や景色の中にも溶け込み、存在感を示すことは出来なかったかもしれない。そう考えるとこの文化のマリアージュを堪能するドライブの意味を得心することができた。
快適なウルスのキャンビンで、実に穏やかな気持ちのまま、そんなこと考えているとあっと言う間に横浜インターを過ぎていた。間もなくワンディドライブの終演である。「この辺でもう一度!」。
シフトダウンをして、アクセルをグッと踏み込み、V8ツインターボエンジンに軽く鞭を入れてみた。高らかに響き渡るエグゾーストノート。
Grazie Lamborghini!
主要諸元 | |
エンジン | V型10気筒DOHCツインターボ 5,204cc |
最高出力 | 449kw(610PS)/8,000rpm |
最大トルク | 560Nm(57.1kgm)/6,500rpm |
全長×全幅×全高 | 4,520×2,236×1,180mm |
車両重量 | 1,509kg |
車両本体価格 | 29,193,599円~(税込み) |
主要諸元 | |
エンジン | V型8気筒ターボ 3,996cc |
最高出力 | 478kw(650PS)/6,000rpm |
最大トルク | 850Nm(86.7kgm)/2,250~4,500 rpm |
全長×全幅×全高 | 5,112×2,016×1,638mm |
駆動方式 | 4WD |
トランスミッション | AT |
車両重量 | 2,200kg |
車両本体価格 | 30,681,070円~(税込み) |
男性週刊誌、ライフスタイル誌、夕刊紙など一般誌を中心に、2輪から4輪まで“いかに乗り物のある生活を楽しむか”をテーマに、多くの情報を発信・提案を行う自動車ライター。著書「クルマ界歴史の証人」(講談社刊)。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。
STAFF
Text: Atsushi Sato
Editor: Atsuyuki Kamiyama
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