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1868年の神戸港の開港とともに、日本の玄関口としていち早く西洋文化を受け入れてきた神戸。この街から日本全国に広まった、舶来の新たなモノ・コトは数知れない。 それはまず上流階級の人たちが発信して定着したものばかりだ。 現在でも残る大人の社交場から衣食までその源流を紐解きながら、港町・神戸の魅力をご紹介する。
神戸の港が世界に向けて開かれたのは、1868年1月1日のこと。日米修好通商条約により開港することになった5港のひとつだった。開港に伴って設けられた外国人居留地は、海外との文化交流の窓口として、日本の近代化に重要な役割を果たすことになる。
外国人と日本人が混在する雑居地というエリアでは、日常生活に海外の文化が入り混じる状況が生まれ、いち早く新しいライフスタイルが取り入れられるようになった。本格的な洋式化は一部の上流階級から起こったが、新しい文化はたちまち一般の話題となったのだ。ここでは3つの分野に絞りその源流を見ていこう。
日本にやって来た外国人は英国人が最も多かった。そのためスポーツでは英国での流行が反映されている。レガッタ、競馬、テニスなどが代表例だ。その中でもA・H・グルームによって創設された日本で最初のゴルフクラブである、神戸ゴルフ倶楽部は別格だ。もともと六甲山の別荘地を切り拓いてゴルフ場を開設したことからもわかるように、限られた人たちが楽しむ場であった。現支配人の池戸秀行さんは、「意識の高いメンバーシップ制があったからこそ、ゴルフの大衆化、バブル経済、阪神・淡路大震災を経ても、真のジェントルマンズクラブとして良い伝統を保持できている」と語る。
また港町・神戸の近隣で、ヨットを始めとした日本のマリンスポーツを育くんできたのが、西宮マリーナだ。関西を代表するマリーナとして発展し、セレブリティたちに愛されて来た歴史でも知られる。
グルームは神戸ゴルフ倶楽部だけでなく、「(旧)オリエンタル・ホテル」の経営にも携わっていた。当時のホテルは外国人の宿泊のみならず、日本の貿易関係者や紳士淑女の社交場であり、西洋の食文化の紹介の場でもあった。また客船で腕を奮ったシェフが、船を降りて店をオープンさせたのが神戸の洋食店の源流のひとつというのも興味深い。
一方、神戸はビスポークと呼ばれるオーダーメイドのスーツや紳士靴のレベルが高いと評判だ。東京でもスーツのオーダー会を開催するCOL(コルウ)の嶋田良二店長は「神戸は港町なので多くの外国人が服をオーダーしていきます。骨格が異なる外国人を相手に培ってきた技術を日本人にも応用して、より構築的なフォルムを表現できるようになってきました」と語る。
港が世界に開かれて150年。ラムネ、ソース、ジャズといった日本初を冠するカジュアルな西洋文化も数々取り入れてきた神戸。しかし、今回紹介したジェントルマンズクラブの精神が息づく特別な場所にこそ、神戸という街の真髄が息づく。
英国人のA・H・グルームによって、仲間たちとゴルフをするために造られた4ホールから始まり、1903年に9ホールまで増やして創設された日本のゴルフ文化の発祥の地。クラブハウスには着物姿でヒッコリークラブを使いプレイする写真や、1903年からトーナメントの優勝者の名前が刻まれるボードなどが残され、随所に歴史を感じさせる。厳格なメンバーシップ制によって保持され、まさしく大人の社交場として歴史と伝統が感じられる名門ゴルフクラブだ。
“日本が世界に誇れるマリーナ”をコンセプトに2004年に誕生した芦屋マリーナ。最新の設備が整い、100フィートを超える大型船をはじめ、個性豊かな豪華クルーザーが並ぶ景観は地中海へバカンスに来た気分になる。マリーナ内には日本初のプライベートバース(係留施設)付き邸宅街もあるなど、非日常の世界が広がっている。
前身の設立は1945年、後に1956年の国体を記念して建造された老舗ヨットクラブ。関西のマリンスポーツの聖地として知られ、瀬戸内海や淡路島へのクルージングの出発点として、現在でも多くの大型ヨットからクルーザーまで集結する。映画製作所が近いことから、俳優の森繁久彌や加山雄三など多くのセレブリティたちにも愛されてきたマリーナだ。
長さ7mもある桜のバーカウンターを備えるバー キースは、日本でも屈指のビンテージウイスキーを取り揃えるオーセンティックバー。バーテンダーの井伊大輔さんは、銘酒を求めて集まる神戸の名士たちからの信頼も厚く、ハイカルチャー層のコンシェルジュ的存在になっている。井伊さんの作るハイボールから神戸の夜は始まる。
今、神戸で予約の取りにくい店のひとつに数えられるリストランテ ハナタニ。旬の鮮魚をはじめとした厳選素材と、技巧を凝らした調理法で美味しく創り上げるイタリアンが人気だ。仕事をしっかり見てもらいたいという花谷和宏シェフの思いから設計された、オープンキッチン前のカウンター席がオススメだ。
日本の洋服文化の発祥の地である神戸に、創業40年を迎える老舗ビスポークテーラーのCOL(コルウ)。神戸では、日本人のみならず、いろいろな国の船員の服を作ってきたことから、尖った特徴は削ぎ落され、中庸でエレガントなスタイルが支持される。スーツ・ジャケットなどオーダーアイテムは店舗2階の自社工房にてハンドメイドで製作される。
“履き倒れの街”神戸で、気を吐くのが靴職人・鈴木幸次さんが率いるスピーゴラ。鈴木さんはフィレンツェの名工と呼ばれるロベルト・ウゴリーニ氏のもとで修業し、帰国後にビスポーク専門の自身のブランドを立ち上げた。ステッチの綺麗さなどきっちりとしたモノ作りを重視しながら、イタリアの色気や遊び心をプラスするのが持ち味だ。海外でのオーダー会も成功を収め、国内外で高い評価を受けている。
初出:2021年12月19日発行『AdvancedTime』10号。掲載内容は原則的に初出時のものです。
STAFF
Photos: Nobuhiro Nakajima
Writer: Katsumi Takahashi
Editor: Atsuyuki Kamiyama
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