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シリアスな役柄から、コメディタッチの作品、極悪人にサラリーマン、マイホームパパ、弁護士から医師、ときには外国人の役まで…。 さまざまな作品で活躍中の、超・個性派俳優、滝藤賢一さん。 役者として、4児の父として、芸能界一の服バカ男として、〝今、思うこと〟を、じっくり聞きました。
座る、寝そべる、転がる――。
彼がカメラの前に立った瞬間、その場の空気が変わる。スタジオを縦横無尽に駆け回ったと思ったら、ストイックな眼差しでじっとレンズを見つめ、そうかと思えば、人懐っこい笑顔でガハハと笑う。ベテランカメラマンが無我夢中でシャッターを切り続けてしまうほど、撮影現場はまさに〝ザ・滝藤賢一〟劇場。
「ポーズはこんな感じでいいの? この服にはあっちのゴツいメガネのほうが合うかもね。このスーツ、ちょっと脱いでみよっか。このギラギラの裏地、見せたほうが面白くない?」
自らどんどんポーズをとり、スタイリストさながらに衣装を替え、大胆に着くずしていく。途中、モニターで写真をチェックしては「お? 意外とアップに耐えうるね。シワがいい感じになってきたなぁ」と無邪気に笑う。
俳優・滝藤賢一。役柄や作品により、千変万化の演技を見せる、今、だれよりも注目の人だ。
「年を重ねるにつれ、どんどんシワが深くなってきた。ただでさえ、演技がくどいと言われるのに、顔までくどくなってきたら困るなぁ」
人間として、男として、深く刻まれたそのシワには、俳優としての歴史も刻まれている。映画監督を目ざして、映画専門学校へ通うものの、魅力を感じず、俳優の道へ。20代で仲代達矢氏が主宰する「無名塾」に入塾。なかなか目が出ず、意外なことに、オーディションでも緊張しがちな滝藤さんは、暇さえあれば、鏡の前で笑顔の練習をしていたという。
「ただただ、時間だけは、ありあまっていたからね。あの練習のせいでシワが増えたのかも(笑)。無名塾時代は本当に厳しかったですよ。恋愛もダメだし、アルバイトもダメ。金もないし、仕事もない。ただ毎日、稽古、稽古の日々です。でも、俳優以外、自分に選択肢はなかった。というより、あえて選択肢を自分で狭めたと言ったほうがいいかな。俳優という仕事に、食らいついていこうと覚悟を決めていたというか…。なんて言うと、かっこいいけれど、内心はクサクサしていました。いろいろな誘惑に負けることは簡単だけど、常にギリギリのところで踏みとどまれた。きっと、どこかで自分を、信じていたんだと思います。いつか絶対、俳優になってやるって。仲代達矢さんには『お前は40歳まで我慢だ』と言われましたけど」
師の言葉に反し、32歳で出演した映画『クライマーズ・ハイ』で道がひらけた。以降の活躍ぶりはご存じのとおり。
「以前は、役に対して、イメージトレーニングを徹底して、ガチガチに準備をしてから撮影に入っていました。当然、自分が準備したものと、監督の演出が真逆なこともある。しかしそれはむしろ、ありがたいことです。キャラクターをさらにふくらませてくれるわけですから。僕は、苦しんで得たものだけを信じているところがあって、ずっと芝居は苦しいものだと思っていました。でも、40代の今、芝居が楽しい。自分のセリフやリアクションは、相手役が引き出してくれる、と無責任でいられるようになったからでしょうか(笑)。セリフを覚えて現場に行って、あとは相手とのセッションや監督の演出を楽しむ。その場で生まれるものを大切にする感じ。瞬発力が身につきました」
さらに最近、働き方にも変化が。
「がむしゃらに駆け抜けた20代、30代でしたが、頑張り方を変えるときがきた、と思っています。コロナ禍で家族との時間が増えたせいもあるかもしれません。以前は予定が空くと、すぐに用事を入れるタイプでしたが、今は〝休まないこと〟をやめました。結果、これまで以上に、ひとつひとつの仕事と丁寧に向き合えているし、何より家族との時間を満喫しています。サーフィン、スケボー、乗馬…。子どもたちと一緒に、遊びたいことがいっぱい。全力で休んで、全力で遊ぶ。僕はよく真面目だと言われますけど、40歳を超えて、やんちゃな生き方になってきたでしょ」
最後に、芸能界一と言われる服バカ男として、自身のファッション論を。「ストイックだと思われがちですが、案外こだわりがないんです。変化は全然嫌じゃない。むしろ、変わっていける自分が面白いし、楽しいと思っています。30代は柄×柄、色×色など、だれも絶対にしないような、ぶっとんだコーディネートが好きでしたが、40代の今は、意外にもシンプル。きれいめの組み合わせにハマっています。それも、古着で。世界最古と言われるフランスのシャツブランド〝シャルべ〟の白シャツや、英国王室御用達のニットブランド〝ジョン スメドレー〟のシックな色のニット。長い歴史に裏打ちされた、職人の矜持を、素材や形、縫い目ひとつとっても、感じます。〝本物〟のもつ歴史と存在感に、圧倒されるんですよ。きっかけは、長いつきあいのショップの店長からのアドバイス。とことん勉強して、膨大な知識のある、信頼できるプロにすすめられたら、そりゃあ説得力が違いますもん。同時に、彼のウンチクによって、僕自身が多くの知識を得られるわけで、それがものすごく面白い。『このシャツはそもそも、フランスの労働者たちが着ていたもので…』とか、歴史から語られると、ワクワクが止まらない。そして後日、真似をするのが得意な僕は、さも自分が勉強したかのように、そのウンチクを偉そうに語るわけです(笑)。ただ、洋服が好きすぎて、クローゼットには未使用の服がぎっしり…。着たい服がありすぎて、1日3回着替えたいくらい。流行りのミニマリストとは真逆。もう、物欲にまみれてます(笑)。でも、ファッションって、だれでも楽しめる最高の〝遊び〟だと思うんです。いくつになっても攻めの姿勢を忘れずに、ファッションを楽しんでいきたいですね」
1998年から2007年まで「無名塾」に在籍し、舞台を中心に活動。
2008年に映画『クライマーズ・ハイ』で注目を集める。
主な出演作は、映画『64~ロクヨン~』『孤狼の血』、テレビドラマ『半沢直樹』『重版出来!』、NHKテレビ小説『半分、青い。』、NHK大河ドラマ『麒麟がくる』など。
映画『孤狼の血LEVEL2』が8月20日公開予定。
初出:2021年07月03日発行『AdvancedTime』08号。掲載内容は原則的に初出時のものです。
STAFF
Photo:Kazutaka Nakamura
Stylist: ToruYamazaki(NEPENTHES)
Hair & Make-up: Keisuke Sakai(MARVEE)
Text: Miho Tanaka
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