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シンプルに見えて、内部には高度な機構を備える複雑なメカを搭載した時計に注目。日常でも使いやすい実用的な複雑ウォッチが今年は狙い目だ。
W&WGのような大規模な見本市では、ブランドの技術力を象徴する超絶複雑時計が毎年のように発表される。しかし、その多くは生産本数がごくわずかで、価格も数千万円から億円に達するものも少なくなく、実際に店頭で目にする機会はほとんどない。
一方で、近年はカレンダーウォッチやワールドタイム、クロノグラフ、ミニッツリピーターより構造を簡略化したクォーターリピーターなど、高度なメカニズムを駆使しながら日常使いしやすいデザインへと昇華させたコンプリケーションウォッチが充実している。一見すると端正なデザインの中身は複雑機構だったり、シンプルな文字盤をスケルトン構造にすることでムーブメントそのものをデザインとして見せるなど、アプローチはさまざま。いずれも緻密な設計思想と高度な技術を感じさせて“使える”複雑ウォッチであることは共通している。
日常と高度な機構の間を行き来して自然と毎日着けたくなるデイリーコンプリウォッチ。その価値観を体現する5本を厳選した。
パルミジャーニ・フルリエは、必要な時だけ現れる副針使いの名手だ。2022年にはホームタイムとローカルタイムの時針を同軸に備える世界初のGMTラトラパンテ「トンダ PF GMT ラトラパンテ」を発表し、2023年には2本の分針を利用して経過時間を表示する「トンダ PF ミニッツ ラトラパンテ」を発表。この2モデルのポイントは重なった2本の針が必要な時だけ分かれて別の時間を表示し、プッシュボタンひとつで一瞬で針が重なるというものだった。
今年はこの技術をさらに発展させてクロノグラフに応用させた。「トンダ PF クロノグラフ ミステリューズ」は、一見すると時分秒の針を備えるシンプルな時計に見えるが、ケースサイドの7時30分位置にあるプッシュボタンを押すと、瞬時にゼロ位置に移動し、下に隠れていたローズゴールドカラーの時分針が現れて、現在時刻を表示する。ゼロ位置に移動すると同時にクロノグラフはスタートし、ロジウムカラーの時分秒の針はそれぞれ積算針として機能する。つまりセンター針だけでクロノグラフ計測が完結するのだ。そしてボタンを押してリセットすると、ロジウムカラーの時分針は再びローズゴールド針と同期する。秒針はゼロ位置に戻ってスタートするので、時刻表示において1~59秒の誤差が生じることになるが、たいした問題にはならないだろう。
単純そうに見えて、5本の針を1つのプッシュボタンだけで展開するのは想像以上に複雑だ。新開発の一体型自動巻きクロノグラフキャリバーには、クロノグラフ秒針に垂直クラッチをひとつ、時と分の積算計に水平クラッチふたつを備えたトリプルクラッチが採用されている。
クロノグラフのお馴染みのデザインであるインダイヤルを排除して、限りなくシンプルなデザインに仕上げた新型クロノグラフ。そのすまし顔の裏には途方もない技術的な困難さが隠されている。

レトログラード式の分表示の両端に備わった2つの小窓は、異なるタイムゾーンを表示するジャンピングアワーを採用している。ジャンピングアワーとは、針ではなく数字のディスクによって、1時間ごとに瞬時に切り替わる機構のこと。これまでも同じ機構を備えたムーブメントを採用して同モデルを発表してきたが、今回、新たに自社製ムーブメントを開発して置き換えられた。これにより、機構のコンセプトは維持しながら、サイズをコンパクトにしてパワーリザーブを伸ばすなど、性能面を大きく進化させている。
文字盤は、上部の小窓が「ユール ディシ(ここの時間)」を示すローカルタイム、下部の小窓が「ユール ダイヨール(あちらの時間)」を示すホームタイムを表す。中央はゴールドの地板にアンバーブラウンのエナメルを塗り重ねて焼成することで厚みを出し、最後は表面を高温で溶かしてからヴァン クリーフ&アーペルらしいピケモチーフの型押しを施した。この立体感のあるエナメル装飾というのが独創的だ。さらに外周部分にはエナメルにサンレイギョーシェが刻まれ、奥行きを演出している。
ケースバックには太陽の光と月がエングレービングされる。

今年、タグ・ホイヤーが発表したのは、伝統的な駆動・制御のメカニズムではなく、まったく新しい機構を採用したクロノグラフ「タグ・ホイヤー モナコ エバーグラフ」だ。
ポイントとなるのは、ニッケル合金製の一体型成形部品だ。従来のクロノグラフでは、スタート・ストップ・リセットの操作はムーブメント内部のレバー、カム、コラムホイールによって制御されるが、それらの複数の部品を弾性部材を用いた一体型成形部品に置き換えた。その弾力性のあるパーツがしなり、バネとして機能させることでクロノグラフの制御を行う。さらに機械式時計の心臓部であるひげゼンマイにカーボン製を採用し、磁気の影響を受けにくく、軽量化による精度も実現している。

プッシュボタンもこだわりにひとつ。これまでのコラムホイール式がレバーやスプリングを介した機械的なクリック感を伝えるのに対して、エバーグラフでは弾性変形するパーツが生み出す均一な反力がプッシュフィールを形成している。
2つの新技術によって、毎時3万6000振動、約70時間パワーリザーブ、COSC認定、5年保証を実現。最先端技術でより実用的に昇華させた最新鋭のクロノグラフとなった。

2024年に登場したマスター ジャンパーは、文字盤に3つの小窓を備えるだけのすっきりとした見た目の時計だった。上から1時間ごとに切り替わる時表示、60秒ごとに切り替わる分表示、24時間ごとに切り替わる日付表示の小窓は、ディスクが瞬時に切り替わるジャンピング機構を有している。今年は機構はそのままに文字盤のスケルトンバージョンが追加された。
文字盤に表示されるのは3つの小窓だけなので、極めてシンプルデザインだが、中身までシンプルというわけではない。通常の時計は歯車で構成される輪列から動力が伝わり、針で時刻を表示する。一方、マスター ジャンパーは輪列から供給される動力を蓄勢機構に蓄え、そのエネルギーをジャンプ機構が解放し、そしてようやく数字ディスクで時刻が表示されるという多段階的な構造をしている。つまりすましたデザインの裏では、極めて複雑な機構を持ち、それを3系統も備えているのである。新作ではそうしたメカニズムを機能美として捉え、文字盤をスケルトンにした。中身まで見せることで複雑機構を直感的に認識できるようになっている。
このスケルトンバージョンでは新たにレクタンギュラーのロングアイランドケースを追加。直線的でシンメトリーに配置されたメカニズムは構造美をいっそう際立たせる。同じくシースルーになったケースバックからも、隅までぎっしりと詰まったムーブメントを鑑賞することができ、メカ好きにはたまらない。
上下対称で香箱が配置され、ムーブメントはレクタンギュラーケースにぴったりと納まった。ムーブメントの地板にもゴールドカラーを用いて、贅沢な仕上げとしている。

クロノグラフやカレンダークロノグラフなど、実用性の高いコンプリケーションウォッチの発表で名を馳せたアンジェラス。今年は1958年に誕生したクォーターリピーターを復活させた。クォーターリピーターとは、15分単位で時刻を音で知らせてくれるチャイムウォッチのひとつ。さらに高度でハイエンドなミニッツリピーターでは分単位で時刻を知ることができるが、その分、複雑で高価になる。そのため、クォーターリピーターは手が届きやすいチャイムウォッチとなる。
文字盤は控えめなデザインに、ミッドセンチュリーを感じさせるゴールドの個性的なインデックスを再現し、9時位置のプッシュボタンを備える。リピーターはそのプッシュボタンを押すと、時と15分単位で音色の異なる2つのゴングが鳴り、時刻を知らせる。

STAFF
Writer: Katsumi Takahashi
Editor: Kyoko Seko
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