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近年、海外からも熱い注目を浴びるジャパニーズウイスキー。いまや日本国内の蒸留所の数は120を超える。そのなかで、70年以上の歴史を有しながらも、革新的リノベーションを遂げ、愛好家垂涎のクラフトウイスキーを生み出している三郎丸蒸留所。希少なハンドフィル体験ができる見学ツアーに参加した。
富山県にある三郎丸蒸留所をご存じだろうか。北陸新幹線で富山へ行った方なら、駅の売店などで黒い缶の「三郎丸蒸留所のスモーキーハイボール」を目にされたであろう。1952年からウイスキーを製造していて、地元では「三郎丸蒸留所のスモーキーウイスキー」の一升瓶を扱っている居酒屋も多い。最近では高品質な「シングルモルト三郎丸」を発売して、愛好家から注目を集めている。
近年、日本でウイスキーを造る蒸留所が急増していて、全国で120か所を超えるが、高品質なクラフトウイスキーは1本数万円もする高級品もあり、入手困難となっているアイテムも多い。そんななか、筆者は偶然、「シングルモルト三郎丸」を口にする機会に恵まれたのだが、その滑らかな口当たりと、ピートを感じさせながらも優しく長い余韻に驚嘆した。噂の「シングルモルト三郎丸」はここまで凄かったのか……。これは蒸留所に足を運ばねばと、さっそく現地を訪問することにした。
三郎丸蒸留所の母体は、1862年(文久2年)創業の若鶴酒造。冬は日本酒を造り、夏にウイスキーを蒸溜してきた。製造施設を含めた大改修には、クラウドファンディングも導入し、2017年に見学可能な蒸留所としてリボーン。今では海外からも注目されるクラフトウイスキーを造っている。
蒸留所の所在地は富山県の砺波(となみ)市。北陸新幹線の新高岡駅からJR城端(じょうはな)線で約15分。油田(あぶらでん)駅のすぐそばにある。4月上旬のこの日、駅のホームからは雪を頂く山々が望め、周りには長閑な田園風景が広がる。空気が清涼だ。


三郎丸蒸留所の見学ツアーは有料(5000円)で、ガイドとともに蒸留所内を巡る。所要時間は約1時間。通常の見学のほかに、樽からウイスキーを汲み出す貴重なハンドフィル体験ができるツアー(3万円)もあり、今回はそちらを選択。
「ウイスキー製造の原点は1947年、菊芋からアルコールを作り出す研究から始まりました」
案内してくれるガイドの方から70年以上にわたる蒸留所の歴史を聞きながら、まずは「三郎丸蒸留所」へ。中に入ると、ピート由来と思われる香しい匂いが。二代目社長・稲垣小太郎さんの銅像の傍らには、クラウドファンディングに支援された方々のネームプレートが並ぶ。


「地域に拠って、世界に立つ。」をミッションにしているそうだが、最初に目に入るのは、富山の自然を守りながらウイスキーを造るライフサイクルのイメージを表した巨大黒板アート。ここに描かれている要素をひとつひとつよく見ていくと、じつによくできた循環だ。例えば、近くの牧場の牛などには、糖化槽で麦汁を絞ったあとの麦芽の搾りかすを与え、その牛から牛乳を得て、ソフトクリームは敷地内のレストランで提供される。瓶を再生するECOグリーンボトルや廃樽の木材利用などのほか、富山の豊かな自然と太陽も描かれている。このアートを見ながら、三郎丸蒸留所の取り組みについて聞くと、より理解が深まる。

そして、蒸留所内部へ。
糖化、発酵、蒸留とウイスキー造りで重要な作業工程を見学。それぞれ分かりやすい図解と簡潔な説明が添えられている。ピートにこだわる三郎丸蒸留所では、アイラピートとハイランドピートを使い分けていて、さらに富山県産大麦をモルティングした「富山モルト」を一部使用したウイスキーもあるという。


蒸留所の象徴でもあるポットスチルは、画期的だ。地元・高岡銅器の技術を用い、梵鐘造りで名高い老子製作所と共同で開発した世界初の鋳物製銅錫合金単式蒸留器。銅と錫を使っていて、その効果でよりまろやかな味わいになるという。しかも、このポットスチルは、従来の鍛造と異なり、鋳造により短期間で製作でき、耐用年数も長くなった。熱伝導率が純銅と比べて低く、厚みがあるため、蒸留時の熱を逃しにくく、エネルギー消費量も半分に。特許を取ったこの『ZEMON』は、同業他社も導入できるよう門戸を開いている。



このあと、蒸留所を出て、樽を修理・再生する工房、Re:COOPERAGEへ。たまたま居合わせた稲垣貴彦社長が説明してくれたが、ここでも自社の樽だけでなく、他社からも修理などを受け付けるという。さらに樽の内側を削るマシンも、地元企業と共同開発したものだ。


ウイスキー造りの工程を見学した後は、お待ちかねの試飲。蒸留所内のテースティングルームへ。木樽の並ぶ空間で用意されたのは、3種類のウイスキー。商品化されている「シングルモルト三郎丸」と、樽から汲み出した「シングルカスクAとB(solera)」。
まずはストレートで、ダイレクトに酒質の個性を味わう。続いて、ほんの少しだけ加水し、香りの広がりと多層的な要素を感じ取る。今回試飲した「シングルモルト三郎丸Ⅴ」は力強いピート感と格調の高さを感じさせる。一方、「A」はよりインパクトのある香りで、余韻が非常に長い。そして「B solera」は複雑な中にも甘くチャーミングな要素が感じ取れ、奥行きの深い香りで、まろやかな味わい。(以上は個人の感想です)
これほどレベルの高いウイスキーを比較試飲すると、まるでオーセンティックバーにいるかのように、ついゆっくりと味わってしまう。ここで複数のウイスキーを試飲することで、三郎丸蒸留所の将来性も実感できるといえよう。
通常の見学コースではここまでだが、ハンドフィル体験はここからが本番。先に試飲した「シングルカスクAとB(solera)」から好みの方を選ぶと、その樽から直接自身の手で汲み上げることができる。私は今回、「B solera」を選択。


まずはガイドの方にお手本を見せてもらう。樽の蓋を外したあと、専用のヴァリンチという道具を穴から挿入。下の方まで差し込み、ゆっくり大きく回す。樽の中のウイスキーは上部と下部で濃さが違っていたりするので、攪拌するためだ。このヴァリンチも、使いやすい形状のものを高岡銅器で製作したという。
ヴァリンチで汲み上げたウイスキーを、一旦ピッチャーに注ぎ、それをボトルに移し替える。専用のラベルを張れば、世界で一本だけの“オリジナル三郎丸”が完成。
実際にハンドフィルに挑戦してみたが、ヴァリンチでの汲み上げは一度では足りず、何度か汲み上げることに。ピッチャーに注ぐと深い琥珀色の液体が輝きながら波打ち、試飲したものとはまた異なる香りが感じられ、稀有な体験となった。




三郎丸蒸留所の社長・稲垣貴彦さんは、昨年12月からスタートしたハンドフィルツアーについてこう語ってくれた。
「富山県砺波市のこの場所まで、お客様には時間をかけて足を運んでいただくので、それに応えられる体験価値の高いものを用意したいと考えました。市販品ではなく、その時、ここでしか飲めない一期一会の経験をしていただければと」
先述したように、ポットスチルなどは伝統技術を生かして地元企業と共同開発し、樽の修理なども広く門戸を開くなど、日本のウイスキー業界全体のことを慮っての施策には頭が下がる。
2015年に実家である若鶴酒造に戻ってきた稲垣貴彦社長の奮闘ぶりと「地域に拠って、世界に立つ。」という考え方については、稲垣さんの自著「ジャパニーズウイスキー入門」(角川新書)をぜひご一読いただきたい。
先日、開業して話題となった帝国ホテル京都のインペリアルバーでは、カウンターに多くのジャパニーズウイスキーが並んでいたが、その中央に鎮座していたのが「シングルモルト三郎丸」だった。それほど今、最注目されている北陸で唯一無二の蒸留所。今年、ぜひともハンドフィル体験をしに訪れてほしい。

住所:富山県砺波市三郎丸208
https://www.wakatsuru.co.jp/saburomaru/factory/
大正蔵に併設された令和蔵のレストラン。三郎丸蒸留所のウイスキーと共に、とやま和牛などの料理が楽しめる。ディナータイムは4名からで要予約。水曜定休。
https://www.wakatsuru.co.jp/tanzaburo/
STAFF
Writer:Indy Fujita
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