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荒井晴彦監督というジャンルの『星と月は天の穴』という作品に出演すること自体が、チャレンジングで、最高に楽しい時間だったという田中麗奈。娼婦という職業に身を置き、悲しみや孤独をかかえながら年齢を重ねてきた女性の奥ゆかしさが際立っています。30年以上のキャリアを重ね、様々な役柄で魅せる豊かな表現力の秘密に迫ります。
愛を恐れる小説家への敬愛と想慕が滲む『星と月は天の穴』。田中麗奈の気品をまとった存在感/前編 | AdvancedTimeはこちらから

――田中さんにとって、今回、チャレンジングだったことはどんなところでしょうか。
「一番のチャレンジはなんだろう。でも、荒井晴彦というジャンルの、『星と月は天の穴』という作品に出演すること自体がチャレンジングだった気がします。最高に楽しい時間でした」
――肌の露出のある場面もありましたが、撮影前に筋トレなど、準備したのでしょうか。
「いえ、そんな余裕はなかったですね。お話をいただいて、作品に入るまで、そこまで時間がなかったんです。本来なら、きれいに整えたかったですし、もっと絞って入りたかったです。若くてスタイルも美しい方達の中で一人、そうじゃない人が混じっている感じになっていないか、心配です(笑)」
――今だからこそ、素晴らしいと思いました。こう、あれたらという憧れも抱く人も多いでしょうし、この年齢の田中さんでなければ、演じられない役柄だったと思います。
「ありがとうございます。千枝子には悲しかったこともたくさん、あったと思うし、その分、泣いたはずだし、孤独も味わったでしょう。自分の機嫌を取る方法を自分なりに工夫してきたと思います。自分自身で社会にどう身を置いて生きるのか。誰かに寄り添いたい気持ちとずっと闘ってきたかも知れません。確かに歳を重ねた千枝子だったからこそ伝わるものがあるのかも知れませんね。千枝子のことを感じていただけて、うれしいです」

――今年は出演映画が5本も公開されました。乗りに乗っている時期ですね。
「ありがたいことにたまたま去年、呼んでいただいた映画の公開が今年、続いただけなんです。自分ではずっと舞台挨拶をやっている印象ですが、うれしいです(笑)。映画はやっぱり大好きですし、今年は日本の映画がすごく盛り上がっているので、お客様にもたくさん、来ていただけて、私も携わることができ、喜びひとしおです」
――10代から活躍されて、時代時代のフィルムに田中さんの歴史が刻まれていますが、自分ではどんな感覚ですか。
「そこまで、あんまり考えたことがなかったです。よく考えみたら、デビューしてから、30年以上、経っているんですよね。3年後に(映画デビュー作)『がんばっていきまっしょい』(1998)が30周年になるので、その時に自分のこれまでをあれこれ、いろいろ振り返って、考えてみようかなと思っています」
――田中さん自身は普段から、どのようにして、感性を磨いているのでしょう?
「本当に普通の生活ですよ。今日は朝、起きて、窓を開けて、換気して、お香を焚いて、外の枯れ葉を掃き、お掃除してから、こちらに来ました。最近は日常にあるふとした幸せに気づいていきたいと思っています。空がきれいだったり、お家でふかふかのお布団で寝られること、家族みんなが生きていること。咲いている花に目をやれば、花の色や咲き方、ひとつひとつ、みんな違っていて、感動します。ふんわりしていて、申し訳ないですが、日々、感謝して生きていくだけです」
――若い時には気づかなかったことでしょうね。
「年齢を重ねる面白さを感じていますね。日々を積み重ねていくことで、気づくことが増えました。先日、伊参スタジオ映画祭で、『はつ恋』(篠原哲雄監督による主演映画。2000)をフィルムで、20年ぶりぐらいに見たんです。聡夏という、とにかくお母さんのために一生懸命な娘の役で、演じていた時は19歳ぐらいでした。当時は娘の視点しかなかったのに、今、観てみると、母親としての視点で、母親の気持ちになって、主人公のことを観られるんですよね。自分が演じた役を娘に重ねることもあれば、お父さんの気持ちもわかりますし、自分の親のことを考えたりもする。20年という時間が経ったからこそ、さまざまな視点で観られるようになっていたんです。一つの作品なのに、今なら、こんなにも立体的に観られるんだと発見しました。人生も、きっとそうなんじゃないかなと思うんです。年を重ねていくことで、いろんな立場になって、出来事を見られるようになって、とても豊かです。“そういう気持ち、わかる!”って共感を持ったり、“あの時、自分はこうした”という体験からくる対策もでき、“今の自分はこうだな”って自分を振り返る時間も持てる。時を経ることで、気づくことが多くて、現在、過去、未来、密接に繋がっていると感じることが増えてきました」
――40〜50代は自分の幸せについて、再考する方が多い時期ですが、田中さんにとって、幸せはどんなところにありますか。
「自分の中では幸せって丸くて暖かいというイメージがあります。心にじんわり、伝わるもの。幸せは探せば、身近にいっぱいあります。目の前にある物一つとっても、誰かが作って、運んでくれたことで、今、私が使うことができる。どんな小さな物にも多くの人が関わっているんだと考えると、幸せに溢れた世界なんじゃないかなと思います。もっとかっこいいことを言えればいいんですけど、本当の幸福って、日々、気付いて、自分の中で育てていくものだと思うんです。日常の小さな幸せをどんどん拾っていったら、いつの間にか、すごく大きな幸せに繋がっている。もちろん人間だから、いろいろなことで落ち込んだりもします。でも、それすらもありがたく受け止めて、“何かの伏線だ。私に気づかせてくれているんだ”という風に捉え、自分の思考を転換して、幸せに変えていきたい。そうすれば、人生、楽しく過ごせるのかなと思ったりしています」

脚本・監督:荒井晴彦
原作:吉行淳之介「星と月は天の穴」(講談社文芸文庫)
キャスト:綾野剛 咲耶 田中麗奈 柄本佑 宮下順子
製作・配給:ハピネットファントム・スタジオ
レイティング:R18+
©2025「星と月は天の穴」製作委員会
映画『星と月は天の穴』オフィシャルサイト 2025.12.19公開
田中麗奈/たなかれな 1980年5月22日生まれ、福岡県出身。
映画『がんばっていきまっしょい』(98・磯村一路監督)で俳優デビュー、初主演を務め、第22回日本アカデミー賞新人俳優賞などを始め数々の新人賞を受賞。『はつ恋』(00・篠原哲雄監督)、『幼な子われらに生まれ』(17・三島有紀子監督)で多数の女優賞を受賞。近年の主な出演作に、連続テレビ小説「ブギウギ」(24・NHK)、『福田村事件』(23・森達也監督)、『雪風YUKIKAZE』(25・山田敏久監督)、『ストロベリームーン 余命半年の恋』(25・酒井麻衣監督)、『ナイトフラワー』(25・内田英治監督)などがある。2026年『禍禍女』(2/6・ゆりやんレトリィバァ監督)、『黄金泥棒』(4月・萱野孝幸監督)が公開。
MOVIE WRITER
髙山亜紀
フリーライター。現在は、ELLE digital、花人日和、JBPPRESSにて映画レビュー、映画コラムを連載中。単館からシネコン系まで幅広いジャンルの映画、日本、アジアのドラマをカバー。別名「日本橋の母」。
STAFF
Movie Writer: Aki Takayama
Composition: Kyoko Seko
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