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新型は2023年11月、上海で発表された新型ポルシェ・パナメーラ。実に8年ぶりのモデルチェンジにより3世代目へと変わった。フル4シーターの5ドアスポーツサルーンとして進化を続けてきパナメーラ。一流のスポーツカーでありながら高級サルーンとしての快適さを兼ね備えたスポーツサルーンの魅力はどう進化したのか?
長年にわたり日本の自動車ジャーナリズムを牽引し、多くの人から“巨匠”とも呼ばれた徳大寺有恒さんが亡くなられて10年(没年2014年11月)になる。お洒落で美食家で博識で女性に優しく無類の寂しがり屋……。週刊誌の編集担当としてお付き合いが始まって以降、ずっとお世話になってきた徳大寺さん(以下、徳さん)、もちろん多くの思い出がある。
ある国産スポーツカーの試乗会の時だ。メーカーのエンジア達は試乗前の徳さんを取り囲んで「いかにパワフルで速く、カッコいいか」を、まさに口角泡を飛ばすがごとく力説。実は徳さん、そういった状況が苦手、というか嫌いだった。そしていよいよ試乗の番が巡ってきたときのこと、チーフエンジニアを先頭に徳さんを囲みながら、さしずめ病院の院長総回診のように試乗車まで案内。するとついに徳さんも辛抱出来なかったのか「乗らずとも分かる!」と一喝。場の空気は一瞬にして凍り付いた。もちろん同行していた我々も慌てたが、なんとか徳さんをなだめ、試乗に出発した。
「彼ら(エンジニア達)にとって手掛けたクルマは子供と一緒、その気持ちはよく分かるんだよ」と話し出した。
「でもね、スポーツカーの楽しさは馬力や速さや形だけで決まるものじゃないし、乗る人の生活の中で色々な輝き方をするものなんだよ」
その日の徳さんは、スポーツカーであっても終始穏やかに、ごくごく常識的な試乗だった。サーキットならいざ知らず、一般道で試乗テストでは、いわゆる“飛ばす”といった走り方あまりしなかった徳さん
「飛ばせば飛ばすほど分からなくなること、見逃すことが多くなるもんだよ」とも言っていたことを思い出す。
それから、どれぐらい経ってからだろうか、徳さんが所有していた「911カブリオレ(930)」のステアリングを任されたことがあった。久し振りの911、飛ばしたくなる気持ちを抑えながら走っていると
「ポルシェはゆっくり走っているときでも気持ちいいとは思わないか?」と助手席の徳さんが、こちらの気持ちを見透かすようにぽつり。
確かにそうだ。冷静になって走行感覚を分析すれば、世界トップクラスのスポーツ性能を持ちながら、ゆったりとした流れの中では実に快適なことを発見した。この当時、スポーツカーはハードであれ、みたいな風潮がサスペンションの硬さは時として不快さすら感じたものだ。しかし、ポルシェ911はあらゆる速度域において“最良の快適さ”を実現していた。
その後、ポルシェは2002年には「カイエン」、2009年に5ドアサルーンの「パナメーラ」といった具合に“ポルシェ初”となるセグメントのモデルを次々投入し、ビジネスとしても成功した。そしてスポーツカーの代表的ブランドの挑戦はライバルをも刺激。後を追うように名門スポーツカーブランドからも魅力的なモデルが登場しているわけだ。
まさにその先鞭を付けたとも言えるパナメーラの現行型は2023年11月に発表され、8年ぶりに3世代目へとモデルチェンジを遂げた。オーナーの中にはプラットッフォームが先代モデルの改良版という事で、ビッグマイナーと呼ぶ人もいる。だが正直、ポルシェは常時進化を続けているため“イヤーモデル”として表現する方がいいのかもしれない。
そこで今回のパナメーラのハイライトと言えばプラットフォームの進化に加え、「Eハイブリッドモデル」にオプション設定される「ポルシェアクティブライドサスペンション」という先進のサスペンション。しかし、今目の前にあるのはエントリー・グレードで、最高出力353馬力を発生するV型6気筒3リッター・ターボエンジン搭載した後輪駆動モデルだ。
だからと言ってまったくネガティブな気分になど微塵もならないのは、ポルシェだからか……。ポルシェはどんなモデルであろうと、どんなグレードであろうと徹頭徹尾ポルシェだから、例えエントリー・グレードであっても、こちらの期待を裏切らないからだ。いやむしろ“素のポルシェ”だからこそ、本質的な魅力をしっかりと味わえる。
さっそく走り出せば5メートル越えで、1.8トンあまりあるボディでも、軽やかな身のこなしを見せる。「911の4ドア版」と言われるだけあり、運転席から見える景色は慣れ親しんだ911と同じ。その動きは意のままに操れる感覚。市街地でも郊外でも、そして高速でもそれぞれの速度域に合わせて「極上の快適」をこちらに提供してくれる。
徳さんの「ポルシェはゆっくり走っているときでも気持ちいい」というとは思わないか?」と言う言葉が思い浮かぶ。
もちろんワインディングに乗り込み、アクセルをグッと踏み込めば、例え素のポルシェであっても、無類の速さとコントロール性の良さを披露し、スポーツカーとしての素顔を見せてくれる。「なんなんだ、このクリーンで心地いいステアリング・フィールは!」その速さに驚くのだが、速さにザラザラとした感じがなく、実にシルキーにして穏やか。
持っているパワーを余裕としてリザーブしている。
気持ち良さからどんどんスピードが上がる。さが、頃合いを見計らうようにヒートアップしていたこちら側「少しゆっくり走っても気持ちいいですよ。何があるか分からないから余力は残しておきなさい」と抑制してくれるのだ。これこそポルシェである。そこには、速かろうが遅かろうが、どんな状況でも「五感で感じる幸せ」がしっかりとあった。その感覚は、まさに絶妙に行き届いたホスピタリティで、いつも迎えてくれ慣れ親しんだ“定宿のような味わい”を持っているのだ。
全長×全幅×全高 | 5,052×1,937×1,423mm |
ホイールベース | 2,950mm |
最小回転半径 | データ無し(旧型は5.6m) |
最低地上高 | 132mm |
トランスミッション | 8速AT |
駆動方式 | FR |
エンジン | 水冷V型6直列ターボエンジン 2,894cc |
最高出力 | 260kW(353PS)/6,800rpm |
最大トルク | 500N・m/1,900~4,800rpm |
燃費 | データなし |
車重 | 1,885kg |
価格 | 14,660,000円~(Panamera/税込み) |
AUTHOR
男性週刊誌、ライフスタイル誌、夕刊紙など一般誌を中心に、2輪から4輪まで“いかに乗り物のある生活を楽しむか”をテーマに、多くの情報を発信・提案を行う自動車ライター。著書「クルマ界歴史の証人」(講談社刊)。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。
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