飛ぶ鳥を落とす勢いのデュア・リパ。「人生で何が起こっても、ポジティブな面を捉えて前進したい」と志し、完璧主義を貫く強さ

新人賞を受賞し、続くアルバムも大ヒット！

デュア・リパは今、飛ぶ鳥を落とす勢いでスーパースターの座を駆け上がっている。インスタグラムのフォロワー数は8,752万を誇り、１億に達するのも時間の問題だろう。デビューアルバム『Dua Lipa』(2017)は全世界で600万枚以上を売り上げ、地元イギリスでの音楽賞受賞をはじめ、第61回グラミー賞では最優秀新人賞と最優秀ダンス・レコーディング賞を受賞。２枚目の『Future Nostalgia』（2020）はCOVID19のパンデミックの期間中に発表され、近未来的なディスコを意識したフューチュア・レトロなダンスミュージックは、気持ちを高揚させる音楽として一週間で２億9400万回もストリーミングされた。シングル「Physical」にいたっては、コロナ禍に入る前からワークアウト版の動画作成を計画していたが、結果、運動不足解消に最適のヴィデオだと好評を得た。そして第63回グラミー賞では6部門にノミネートされ、最優秀ポップボーカルアルバム賞を受賞した。

もちろん今年発売された『Radical Optimism』(2024)も大ヒット中で、「Houdini」をはじめ次々とヒット曲を出し、アルバムはイギリスのアルバムチャートで 第1位を獲得し、アメリカでもビルボード200で第２位、さらにイギリスの音楽フェスの頂点と言われるグラストンベリー・フェスティバルでもヘッドライナーを務めた。現在行っているワールドツアーは、前回のFuture NostalgiaのアジアツアーがCOVID19のパンデミックのために中止となったことから、2024年11月5日にシンガポールからスタート。10月、日本で開催されたコンサートも、チケットの入手が激戦となる人気ぶりで、大盛況だった。ツアーは2025年10月16日のアメリカのシアトル公演まで全68公演が開催される予定だ。デュア・リパがどんなに絶好調なのか、これだけでも十分伝わるだろう。

「Service95」を設立し、ポッドキャストやブッククラブで自らインタビュー

デュア・リパは、レコード会社と契約する際に、ワーナーミュージックには当時ホームページのトップを飾るような女性アーティストが在籍していないからとワーナーを選んだが、まさにかつての看板スターのマドンナを想起させる活躍ぶりだ。しかしマドンナをはじめとする多くのセレブとは違い、新しい恋人ができるたびに話題になっても、スキャンダラスなイメージは全くない。さらに『バービー』（2023）や『ARGYLLE／アーガイル』（2024）など映画に出演し、VERSACEとはコレクションを共同で開発するといった華のある話題がある一方で、知的な話題も耳にする。

彼女は2021年に「Service95」というウェブサイトを立ち上げ、ニュースレターを毎週発行している。このアイディアはリパが15歳から自分のお気に入りのスタイルやレシピをブログにリストアップしていたところ、友人の間で人気だったことから。「Service95」という名はリパの生まれた年である1995年と、彼女が友人や家族に対して、そして今ではファンに対しても、これらのリストを通じて常に「役に立ちたい」という姿勢から付けている。創刊号は2022年2月3日に発行され、リパからの個人的な手紙とゲスト寄稿者による複数の記事などさまざまなトピック（カルチャー、ファッション、アクティヴィズムなど）を掲載している。

なかでも話題を集めたのが、リパがホストを務めるポッドキャスト「Dua Lipa: At Your Service」で、2022年2月11日に配信開始されると、著名な作家から俳優、コメディアン、アーティストや映画監督、さらにはアップルCEOのティム・クックなど、さまざまなゲストが登場した。たとえばブラックピンクのジェニーは韓国人ながらニュージーランドに留学経験があるからと、二つの国を行き来した経験が自分と似ていることからもゲストに招いたように、こだわりのセレクトをしている。さらには同年6月に開始した「Service95 Book Club」では、毎月、リパが個人的に選んだ話題になった書籍の著者とヴィデオインタビューも行い、動画を上げている。

リパは最近のインタビューで、35歳になるまでにスペイン語とフランス語、イタリア語を流暢に話せるようになりたいからと、現在勉強中と話している。しかもアメリカのシラキュース大学のジョージ・ソーンダーズ教授の本を短編、長編だけではなく、小説の講義の本まで愛読し、そして実際に教授にインタビューしてしまう熱意を見ていると、この先、小説を書くことも念頭においているのかな、とも考えてしまう。実際、作家のリサ・タッデオはリパが書く歌詞を「とても完璧で、賢いし、どの身振りにもちゃんと背後に物語が描かれていて、大好きなの」と絶賛しているほどだ。もしくはオプラ・ウィンフリーのように、人気番組の司会者や俳優、ブッククラブの主催者、プロデューサーとなり、多大な影響力を持つ、セレブを目指しているのかもしれない。

コントロールするのが好きという完璧主義者。楽曲の権利を全部買い取る

自らをコントロールするのが好きという完璧主義の彼女は、最終的な決定権持てる立場でありたいと、22年2月には2013年から所属していた事務所TaPとの契約を解消し、23年11月には楽曲の権利を全て買い戻した。「Service95」に続き、23年には、音楽出版とマネージメント、さらに個人的なプロジェクトを形にするための手段としての制作会社を統合してRadical22と命名し、デュアの父親をマネージャーとして迎えている。そして現在、エグゼクティブプロデューサーとしてRadical 22とDisney+との共同制作となる、思い入れのあるロンドンのカムデンを巡るドキュメンタリーの制作を進めている。

もちろん自分のイメージもしっかりとコントロールする。ミュージックヴィデオはセクシーすぎることも過激すぎることもない。ミーガン・ジー・スタリオンと共演した「Sweetest Pie」の動画でもリパは節度を保っている。クラブ系のダンスミュージックということから、エロチックな動きや露出の多い衣裳があってもおかしくないが、それはステージ上でも同じ。インスタにはプライヴェートを垣間見せる写真やストーリーをアップしているが、騒ぎ立てるほどではない。母校の小学校やマンハッタンのアッパー・イーストサイドにある公立高校を訪れるなど、動画も含め万人が見ていることも想定しているのだろうか、品があって常識もある、家族で安心して楽しめるアーティストと言えるだろう。実際、来日コンサートの会場に小中学生の子供を連れた家族を何組も見かけた。彼女自身も家族と仲が良く休暇を一緒に過ごすことが多い。今回の日本にも両親など家族や恋人のカラム・ターナーを連れてきていて、さいたまスーパーアリーナにも来場していた。

ボスニア紛争を経験、「歌手で成功したい」と15歳で単身ロンドンへ戻った強い意志

デュアという名前はアルバニア語で「愛」という意味だ。祖国コスボの政治情勢が不安定だったため、両親はイギリスへ亡命し、ロンドンでデュアを筆頭に三人の子を出産。祖国を離れるまでは、父親ドゥカジンは歯科医として働きながらロックバンドの活動も行い、母親アネサは法律家になるための勉強を続けていたという。その後やや情勢が安定したので、デュアが11歳の2006年に一家で祖国へ帰国した（コソボは2008年にセルビアから独立）。

しかし、歌手になりたいというリパの意志は強く、15歳の時に単身でロンドンへ戻る。エイミー・ワインハウスやリタ・オラを輩出したシルヴィア・ヤング演劇学校に通い、モデルやウェイトレスをしながら、2013年に事務所TaPと契約。そこからワーナーとも契約し、デビューする。その後の活躍は前述のとおりだ。そして、そういった環境で生きてきたからこそ、リパは弱者に対して温かい眼差しを向ける。政治的な発言をすることに慎重になりながらも、ガザで暮らす何百万人もの住処を奪ったイスラエルとハマスとの即時停戦を求める文書に署名したのも、ボスニア紛争を目の当たりにしてきたからだ。

彼女を見ていると、少女そのままのあどけなさが表情に残っているように、とても親しみやすいピュアな部分を感じる。そしてまっすぐな誠実さと同様に正義感も強い。ポッドキャストのシーズン2の最後には、リパに対して納得のいかない記事を書いた元編集者記者をゲストとして招き、その理由について問い質している。また、リパの支援によりコソボの首都プリシュティナに慈善団体Sunny Hill Foundationを設立し、今夏には3日間にわたって現地で音楽フェスを開催、チケット収入の25%を寄付した。社会的な貢献度も高いのだ。

常に物事のポジティブな面を捉えること。そして成長し、自分の視点を変えていく

活躍の範囲は広がるばかりだが、彼女の活動の中心は音楽だ。前作『Future Nostalgia』では両親が好きで、自分も子供の頃に聞いていたノスタルジックな音楽を聴くとエネルギーが湧いてくるからと、80年代や90年代のブロンディやジャミロクワイなどから感じたフィーリングを、現代的なモダンなサウンドで再現。自らそれを“Dance-Crying”と命名し、「踊っているようで泣いているような音楽。でも歌詞を聴くと、もっと深い意味があって、どんなに重い気持ちになっても踊り続ける人たちを励ましたいの」と話している。そして彼女のやや低めのハスキーヴォイスは、フレーズによって力強く、またセクシーにも聞こえ、リスナーを虜にする。

最新作『Radical Optimism』はイギリスのマッシヴアタックなどのクラブカルチャーの影響を受け、ケヴィン・パーカー（テーム・インパラ）をはじめとするプロデューサーやソングライター４人と一緒にバンドのように集結し、ステージでも再現しやすいようにと生楽器と電子音楽を融合させたグルーヴを創り出した。リパのいう「ラディカル・オプティミズム」とは、「物事のポジティブな面を常に捉えて、どんなことにも長期間落ち込まない」という考え方。つまり人生で何が起こっても、ポジティブな面を捉えて成長し、前進し、自分の視点を変えることができるという考え方を示唆している。

そして、アジアツアー前のフィリピンでのインタビューで、「人々がこれらの音楽を受け入れて、一緒に生きてくれることが本当に大切だと思っているの。そうすれば、誰もが何らかの形で同じことを経験していることを理解できるでしょう。そして、これらの曲が人々の心に届き、人生のひとときを彩るサウンドトラックになってくれることを願っているわ、それがどんな瞬間であってもね」と語っていた。

実際、リパ自身もこのアルバムを完成したことでオープンな心になれたと明かす。アルバムの最後の曲であり、コンサートの本編の最後でもマイクスタンドを立てて「Happy for You」を歌い上げたが、これは愛した人が去って行くのを、その人にとって本当に幸せなことと思いながら見送るナンバー。リパは「自分がここまで寛大な歌を歌えるようになった」と自分の成長を語っている。ダンスのスキルの高さは言うまでもないが、最近リリースされたロイヤルアルバートホールでのコンサートのライヴ版では、自信漲る歌唱力が披露されている。

今年5月のゼイン・ロウとのインタビューを、リパは2022年にスタートした３枚目のアルバム制作用のノートを見せながら受けている。彼女は何でもノートに書き留めるようにしているといい、「1枚目のアルバム制作の時には、3枚目のアルバムではケヴィンと仕事をするにふさわしいものになるだろう、さらにこの３枚目でグラストンベリーのヘッドライナーになると、書き留めてあったの」と明かす。書くことで夢を実現させるということを書いた自己啓発本は少なくないが、書いたことを忘れていたとしても、完璧主義者を自負するほどの弛まぬ努力が彼女をそこに導いたのだろう。

自らをCuriosity Gene（好奇心旺盛）なのと話すデュア・リパは、活動の場をますます拡げている。

PROFILE

シンガーソングライター、俳優

Dua Lipa

デュア・リパ／Dua Lipa。シンガー・ソングライター、俳優ほか。両親がコスボからイギリスに亡命中、1995年8月22日にロンドンで生まれる。父親がロックバンドのヴォーカル＆ギターを担当していたため、子供の頃から女性シンガーの歌やクラブミュージックに限らず、デヴィッド・ボウイやレディオヘッドなどロックにも親しむ。11歳の時に家族で故郷コスボへ戻るが、15歳になると歌手を目指して単身ロンドンへ。トップショップのモデルをきっかけにモデルエージェンシーと契約、またウェイトレスをしていた先で2013年にシンガー・ソングライターとして事務所と契約するチャンスを掴む。2014年にレコード会社と契約、2015年にシングル「New Love」でデビューする。日本の文化も好み、特にアニメが好きで、「Levitating」には日本のアニメーション・チームのNOSTALOOKが制作したミュージックヴィデオもある。他に、星野源やCreepy Nutsがリミックスを手がけた曲もある。

音楽ジャーナリスト･アメリカ文学研究
伊藤なつみ

デヴィッド・ボウイ、坂本龍一からマドンナ、ビョーク、宇多田ヒカル、ロバート・グラスパーなど、取材アーティスト数は数え切れないほど。『ユリイカ』2023年5月号に掲載の論考「ヒップホップ・フェミニズムの変遷」など、現在は黒人女性のエンパワーメントについても研究中。