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ロードスターが発売当初に掲げた“人馬一体”というコンセプトは、今回試乗した4代目NDロードスター、マツダ2を含む、マツダ全ての車両にDNAとして引き継がれている。MTであることは、その“らしさ”を更に拡張して、走りの神髄を示してくれる。
前記事の座談会のあと、サプライズで用意された初代NAロードスターの豪華仕様モデル「Vスペシャル」に少しだけ乗ることが出来た。これが1989年発売当初に一気に熱を帯び、バブル崩壊まで人気の翳ることのなかった国産スポーツカー。発売から35年経過しても根強い人気があり、状態の良い中古車を探す事例も多いと言う。3台並べると、リトラクタブルライトの存在感が一際目立ちチャーミングだ。
ファンの一部には、走行中にロードスターが対向車線に現れると、リトラクタブルライトをパカッと点滅させる、ないしはオープンエアの時は軽く手を挙げて「Yaeh(ヤエー)」と挨拶する、バイク乗りさながらの文化がある。多くのロド乗りが実行するこのコミュニケーションは、実は今20~30代の若者を虜にしている。ディーラーに駆け込み、ロドを購入する理由として挙げる人が増えたと言うのだ。世代性別を問わず、一度きりすれ違う同志に軽いアクションを取る空気感。その緩さが時代に合っているのだろう。記者もわずかな時間の試乗中、つい丸目を開ける様子が可愛らしくて何度も試みてしまった。
深緑のボディ。タンで統一された内装の本革シート。ステアリングホイール、シフトノブ、サイドブレーキグリップはナルディー製だ。目に飛び込む鮮やかなカラーリングに、“脳内でイメージするクラシックカー”が実態として現れた。実際、握り慣れない木製ハンドルのサイドブレーキはグッと力を入れておろす必要があり、細身で大口径のハンドルは大きく反応するので初めはどうしても慎重になった。しかし、徐々に加速するうち、緊張が解けたのか本革シートに身体を自然と預けられるように。貴重な車体ということで試乗はその場で終了したが、「オープンエアで直線距離を思いっきり走ってみたい」、「リトラで挨拶してみたい」、という妄想は今も続く。
1998年の2代目NB、2005年の3代目NCを経て、2015年より現在に至る4代目「NDロードスター」は、世界最高評価を受けるライトウェイトスポーツカーの代表格。
滑らかな流線型のボディに乗り込んで、まず感動したのは、インテリアのドアパネルがエクステリアと同じソウルレッドで統一されていることだ。ルーフを閉じて走る時は、横目に映る同色カラーに「気が利いているな」と思う程度なのだが、オープンエアにした途端その真価が発揮される。外装と内装がシームレスに繋がって見えるので、境界線がなくなり、まるでボートに乗り込んだかのように感じるのだ。
風が横切るたび、外の光がきらきらとメタリックカラーを照らすたび、ボートから水面の反射を眺めるが如く車内全体が微かに発光する。それだけで、穏やかな気持ちが醸成された。
なにが“人馬一体”たりうるのか、乗っていて特に感じたのは以下の三つである。
「意のままに走る」を体現するに欠かせないシフト操作。カチッカチッと小気味良い確実さと、チーズをナイフで切るようなしっとり感が、なぜ両立するのか・・・。シフトストロークが短いため、どの速度に入れるにもストレスなくスムーズだ。クラッチを切り、シフト操作してまたクラッチを繋ぐ。一連のリズムがクセになり、ロードスターのパワーを使い切きたい衝動に駆られる。
取り回しの良さは、ホイールフェンダーの膨らみに起因するものだろうか。ぽこっと隆起したフェンダーが視界前方に入るため、自ずと「目」と「足」が補強される。また、女性でもグリップしやすい細身なステアリングは、わずかに操作するだけで車体がクイックに連動する。その掛け合わせにより、車幅感覚が掴みやすくなり、高速での急カーブも全く怖くない。
そして、正しい運転姿勢へと導くドライバー設計。シートに座って自然と足を伸ばせば、アクセルペダルにしっとりフィットする。ステアリングを握って左腕を下ろした先にシフトノブがある。まっすぐに前を向いて走行できるのは、クルマからのインフォメーションがドライバーにしっかりと伝わってくるからだ。初代から続く丹念な設計に頭が上がらない。
最後に試乗したのは、「マツダ2」。「デミオ」後継モデルのハッチバックでスタイリッシュなデザインだ。ロードスターを散々乗り回した後では物足りなく感じるのでは、と懸念していたが、そんな心配は無用。むしろ、高い日常性と走りの楽しさを両立するデイリーなクルマこそ、MTで生活を変えられることを伝えてくれた。
ロードスターのような、積載量が少ない2シーターのスポーツカーを選択できない人は多く存在する。しかし、それでMTを諦める必要はない。何故なら、マツダはコンパクトモデルやSUVを含む幅広いラインナップのほぼ全てにMTを設定しているからだ。最初の一台として手を出しやすい価格&サイズのコンパクトカー「マツダ2」でもMTが味わえるモデルを残しているのは、すべてのドライバーに「走る歓び」を堪能して欲しいという、マツダの企業姿勢そのものだ。
赤いステッチがアクセントになった上質なインテリア。シートの座り心地、ペダル位置、シフトノブの握りやすさはもちろん抜群。身体の真正面にステアリングを配し、自然なドライビングポジションがとれる設計は、マツダ車に共通する美点である。
自分の意志が余すことなく伝わる快感。発進後すぐに2速に入れてアクセルを踏めば、力強い加速感を示し、あっという間にテンポを掴めた。スポーツカーに乗った後だからこそ、「コンパクトカーの実力も凄い!」と感じることが出来た。
つくづく“人間中心”を突き詰めた構造の2台を体感した。自分の体がクルマと同化して、車体の隅々に神経が張り巡らされたかのようなダイレクト感。風を受けながら土や匂いや木々の色合い、季節の訪れを享受して気持ちが澄んでいく様は、たしかに「マインドフルネス」という表現がぴったりだ。 MT操縦の神髄を知ってしまえば、「自分はもっと遠くへ行けそうだ」という密かな予感はすぐに確信に変わる。そして、そんなクルマが傍にあることで、運転する楽しさも加速するに違いない。
STAFF
Photo: Yuichiro Ogura
Text: Megumi Takayanagi
Editor: Atsuyuki Kamiyama
cooperation: Atsushi Sato
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