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トレンディドラマブームの先駆けとなった『抱きしめたい!』(1988年)から、『きらきらひかる』(1998年)など、数多くの話題作を手がけるエグゼクティブディレクター・河毛俊作が「素敵な大人」について寄稿。
昔、ある30代半ばの女優さんが宴席でふと漏らした「私は19歳の時が一番大人だったと思うのよ…」という言葉と、その時に彼女が浮かべた苦みの混じった笑顔が忘れられない。
こういう台詞をサラっと言えるのが大人の女というものかと思った。カウンターカルチャーの勃興期にティーンエイジャーで「30歳以上は信じるな!」と叫んでいた我々の世代も老人になった。何となく気恥ずかしい…、やれやれである。若者に戻ることはできないのだから、きちんと大人として生きなければならないのだが、ファッションや音楽などあらゆる分野で価値観がフラット化した時代はそれが難しくなったと思っている。下手をすると「古くなった若者」ばかりになる危険性がある。魅力的な大人とはどういう生き方をした人であろうか? 年を重ねると人物の好みも変わってきて、幕末の英雄で言えば、若い頃は高杉晋作の激しさに憧れたものだが、今は断然、勝海舟が好きだ。私たちが誰かを評して「あの人は大人だね」と言う時、その〝大人〟という言葉の中には少しの〝毒〟はっきり言えば〝狡猾で非情〟というニュアンスが含まれる。そして男女を問わず、魅力的な大人は狡猾で非情であると同時に、裏腹な純情さと孤独に耐える力を併せ持っている。それが色気になる。
作家の半藤利一さんによれば、海舟は「まわりはみんな敵でよい」という言葉を残しているそうだ。激動の時代、みんな敵の方が戦いやすい。敵か味方かわからない奴がたくさんいる方が厄介という意味だが、海舟には敵でも器量のある人物はきちんと評価する。敵の大将であった西郷隆盛への友情は終生、変わることはなかった。「まわりはみんな敵でよい」という言葉の裏には冷静さと純情があると私は思うのだ。私は海舟のように〝負け戦〟を美しく始末できるのが本物の〝大人〟というものだと思う。白洲次郎という人が好かれるのもそういう部分が評価されてのことだ。海舟の人生には敗軍の要人であったにも関わらず、悲愴感というものが感じられない。軽やかで洒脱だ。そして何よりも素晴らしいのは生き延びたことだ。年寄りが若者に教えてやれる一番のことは、花と散るよりなんとしても生き延びるということが人生では最も重要だということだと最近は思う。ダンケルクの撤退戦を誇りとした英国人は大人だった。
私が見てきた素敵な大人たちは、肩肘を張らずに、その時その時の自分の立ち位置を弁えて他者との距離をきちんと取れる人々だった。そして、〝若さ〟に執着しなかった。〝若さ〟というのは失われるものだから美しいということをよく分かっていたのだろうと思う。例えば、女優で歌手のジェーン・バーキン。彼女の生き方は、若さに執着し整形を繰り返すハリウッド女優の真逆を行っている。それこそ、ありのままで72歳にして輝きを増しているのだから。ジェーンはセルジュ・ゲーンズブールの女神(ミューズ)であり〝作品〟であるという印象だったが、今では彼女の方がゲーンズブールのすべてを吸収、消化して彼の作品を新しい世代に伝え続けている。そして、栄光も悲惨も、様々なことを乗り越えてきたであろう彼女が、今見せる〝無垢〟な笑顔が本当に素晴らしい。大人というものはあんな風に屈託なく笑えるようになった人を指すのかなぁと思う。
初出:2019年01月01日発行『AdvancedTime』00号。掲載内容は原則的に初出時のものです。
AUTHOR
トレンディドラマブームの先駆けとなった『抱きしめたい!』(1988年)から、『きらきらひかる』(1998年)など、数多くの話題作を手がける。近作は『パンドラル』(2018年)。
現職はフジテレビジョンに所属し、エグゼクティブディレクター。スタイルのあるおしゃれの達人でもある。
『AdvancedTime』は、自由でしなやかに生きるハイエンドな大人達におくる、スペシャルイシュー満載のメディア。
高感度なファッション、カルチャーに溺愛、未知の幅広い教養を求め、今までの人生で積んだ経験、知見を余裕をもって楽しみながら、進化するソーシャルに寄り添いたい。
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