タブロイドマガジンAdvancedTimeをお手元に
スイスは12件の世界遺産を持つヨーロッパ有数の観光大国。それの多くの観光地へ起点となるのがジュネーブだ。この地は時計製造の中心地という一面も持つ。その聖地といえるのが、フランク ミュラーが工房を構えるウォッチランドだ。
スイス西部に位置するジュネーブは、国際機関や多国籍企業の拠点として知られる国際都市。レマン湖のほとりから少し見上げるとアルプス山脈の絶景が広がり、中世の面影を残す旧市街にはいくつもの博物館があって、しばしば行われるアートや音楽の催しが旅人を惹きつける。スイス名物のチーズフォンデュやチョコレートといったグルメの楽しみもある。
一方でジュネーブは時計産業の中心地としても知られる。そのきっかけとなったのは、16世紀の宗教改革運動だった。フランスでカトリックとの対立で弾圧されたユグノー(カルヴァン派プロテスタント)はジャン・カルヴァンの本拠地であったジュネーブを目指す。彼らは優れた時計製造の技術を有していた。そこでもともと十字架、聖杯など教会の儀式で使われる金銀細工を作っていた手先の器用なジュネーブの職人と出会って時計製造の歴史は始まった。
ジュネーブ市街にはさまざまなブランドの時計ブティックが立ち並ぶ。もちろん多くの時計の工房もあるが、高額商品を扱うため、外部からは目立たない殺風景な作業場が多い。それらとは一線を画しているのが、ジュネーブ郊外ジャントゥにあるフランク ミュラーの工房、ウォッチランドだ。レマン湖に面した美しい伝統的なシャトーで、時計製造に関わるあらゆる設備が整っている。
実はこの建築物は日本と縁が深い。1992年、フランク ミュラーはブランドの立ち上げを機に、拠点となる社屋を探していた。目を付けたのは著名な建築家エドモン・ファティオによって建造されたネオゴシック様式の城館で、かつて新渡戸稲造が国際連盟事務次長時代に公館として使っていた建物だった。その後、購入するとウォッチランドと名付け、歴史的な価値を損なわないように拡張し、当時の外観を踏襲した4つの棟を増築して完成させた。
現在のウォッチランドは、フランク ミュラーの本社兼工房としての機能を持つ。そこには設計・デザイン、パーツ製造、デコレーション・仕上げ、組み立て、検品まで時計製造に関わる垂直統合されたすべての工程が集約されている。時計の心臓部を構成するヒゲゼンマイまで製造する伝統的な時計作りに真摯に取り組む。また年に一度、フランク ミュラーグループの新作を一堂にお披露目する展示会、WPHHの会場となっており、世界中から時計関係者が訪れる。
かつてフランク ミュラーはウォッチランド建設についてこう語った。
「子供から大人まで楽しめるウォッチランドを作りたい。一周すれば時計がどのように作られるかが分かる、そんなアミューズメントパークを作りたいんだ」
まさしくフランク ミュラーの時計のように、中身だけでなく、外観まで美しく作り上げたのがウォッチランドだった。そこからは伝統的な技術を用いたトゥールビヨンを備える複雑時計や煌びやかな貴石を備えるジュエリー時計までが日々生み出されている。現在では愛好家にとって特別な場所となっており、限られた顧客には訪れるチャンスがある。ジュネーブの歴史、自然が育んだスイス時計の殿堂といえるウォッチランドを一度は訪れてみたい。

ジュネーブの中心地から車で15分ほどの高級住宅街の一角にあるウォッチランド。中央に見えるのが1905年に建てられたネオゴシック様式の城館「レ・ザマンドリエ」。20年以上かけて、外装の統一感を保ちながら両翼に見える4棟を増築した。


ウォッチランドはレマン湖の右岸に位置し、スタッフたちは歴史的な建築物にマニュファクチュール体制が整備された環境で仕事に従事している。晴れた日にはウォッチランドからレマン湖の対岸にアルプス山脈の稜線を一望できる。

ウォッチランドでは企画からデザイン、設計、製造、装飾、組み立て、検品といったフランク ミュラーの時計製造に関するあらゆる作業を一貫して行うマニュファクチュール体制が整う。伝統の技術と先進設備を駆使しながら、ブランドを特徴づけるダイヤルや、自社製造は稀なヒゲゼンマイ、ネジ1本までウォッチランドで製造される。

街角にさり気なくフランク ミュラーを象徴するトノウ型の時計が設置されている。時計都市、ジュネーブならではの光景だ。旧市街には多くの時計ブティックが立ち並び、時計関係の博物館も多くあり、街のいたるところで時計文化を感じることができる。
初出:2025年12月6日発行『AdvancedTime』29号。掲載内容は原則的に初出時のものです。
STAFF
Writer: Katsumi Takahashi
Editor: Atsuyuki Kamiyama
TAGS
『AdvancedTime』は、自由でしなやかに生きるハイエンドな大人達におくる、スペシャルイシュー満載のメディア。
高感度なファッション、カルチャーに溺愛、未知の幅広い教養を求め、今までの人生で積んだ経験、知見を余裕をもって楽しみながら、進化するソーシャルに寄り添いたい。
何かに縛られていた時間から解き放たれつつある世代のライフスタイルを豊かに彩る『AdvancedTime』が発信する情報をさらに充実し、より速やかに、活用できる「AdvancedClub」会員組織を設けました。
「AdvancedClub」会員に登録すると、プレゼント応募情報の一覧、プレミアムな会員限定イベント、ブランドのエクスクルーシブアイテムの紹介など、特別なコンテンツ情報をメールマガジンでお届け致します。更に『AdvancedTime』のタブロイドマガジンのご案内もあり、送付手数料のみをご負担いただくことでお手元で『AdvancedTime』をお楽しみいただけます。
登録は無料です。
一緒に『AdvancedTime』を楽しみましょう!

vol.029

Special Issue.AdvancedTime×AQ

vol.028

vol.027

Special Issue.AdvancedTime×AQ

vol.026

vol.025

vol.024

vol.023

vol.022

vol.021

vol.020

vol.019

vol.018

vol.017

vol.016

vol.015

vol.014

vol.013

Special Issue.AdvancedTime×HARRY WINSTON

vol.012

vol.011

vol.010

Special Issue.AdvancedTime×GRAFF

vol.009

vol.008

vol.007

vol.006

vol.005

vol.004

vol.003

vol.002

Special Issue.01

vol.001

vol.000
「インターコンチネンタル札幌」で新たなラグジュアリーステイを
ポール・スチュアート青山本店5周年記念トークショーにトルシエ氏が登場
自然の中にいるのはすごく大切なことだと思います
癒しを求め、絶景のオーベルジュ「ホテルグランバッハ熱海クレッシェンド」へ
ロイヤルの気品、アスリートの美筋、無邪気な笑顔のニコラス・ガリツィン。完全無欠な年下彼氏の妄想に浸る