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スーパーカーのシンボルともいうべきランボルギーニが、日本文化に向けるまなざしとは?その熱視線をうけとめるため、ウラカン、ウルスと共に、箱根へのワンディドライブへ出かけた
2月某日、その日の朝は都内でも10度を割るほど、冷え込んでいた。だからだろうか、箱根随一のホスピタリティを誇るとも評される、ここ「箱根リトリート」のエントランスを吹き抜ける風には肌を刺すような厳しさが加わっていた。我々が案内されたのは、ホテルの敷地内にひっそりと佇むダイニング「料亭 俵石」。小石が美しく敷き詰められた玄関には白いのれんが下がり、その横に立てられたランボルギーニのカンパニーボードと共に、ゲストを出迎えていた。今日はここで、ランボルギーニ ・ジャパンと箱根リトリートとのマリアージュによって実現した、スペシャルランチを楽しむ事になっている。
仲居さんに導かれ、通された和室には、古い数寄屋造りだけが醸し出す、独特の空気感があった。明治から大正にかけて、当代随一といわれた数寄屋棟梁の島田藤吉の私邸を、昭和に入ってから、東京の大森から仙石原へと移築。以来、与謝野晶子などを始めとした多くの文化人に愛され、さらには上皇が皇太子時代に宿泊した名旅館「俵石閣」として時を刻んできた。そして現在、その100年に及ぶ由緒ある建物は、往時の風情を残しながらリノベーションを施され、「料亭 俵石」となってさらに歴史を歩んでいるという。
そこには、ただ豪奢に走り、高級住宅の代表のように思われている近代の数寄屋造りでは味わえない、ゆったりとした空間があった。歳月を経てた木目や土壁の醸し出す渋みと、廊下の隅や床の間の仕立てに見える数寄屋大工の遊び心が、とても心地いい。天井にも客座の格に合わせた造りがあり、見るべきところは数多ある。
そして障子を開け放てば、風を通すことを由とする数寄屋造りらしく、少し冷たい空気が部屋にすっと流れ込む。それでも、独特の揺らぎを生み出す大正ガラスを通して見る景色のお陰だろうか、そのわずかな冷たさも、決して不快には感じない。数日前に降った雪が残る冬枯れの庭には、真冬の陽の光が降り注いでいた。静かに流れる時間の中で、これから饗される会席料理への期待は自然と高まっていく……。
実はこの3時間ほど前、我々は東京・六本木にある「The Lamborghini Lounge Tokyo」にいた。都内随一の繁華街とはいえ、少し脇に入り、国立新美術館近くへと歩みを進めれば、そこは閑静な一画。まさかここに、自分だけのランボルギーニをリクエストできる、アド・ペルソナム専用スタジオを常設したラウンジがあるとは、なかなか思いが及ばないかもしれない。だが我々の、この日の主たる目的は、ニューヨークに続いて2拠点目となる施設で過ごすことではない。ランボルギーニ・ジャパンが主催する「Road to Hakone」と銘打たれたイベントに参加し、「箱根リトリート」までのショートトリップを、ランボルギーのステアリングを握りながら楽しむためである。
グランドフロアから2階のイベントフロアへと案内された。まるで朝のミラノを散策しながらバールに寄ったときのようなコルネットやパイ、サンドイッチなどがエスプレッソと共に用意されていた。本来ならばペストリーには喜んで手を出すのだが、目覚めてそれほど時間の経っていない体と心は、未だ日本モード。朝食にはなかなか手が出なかった。ひとまずサンペリグリノを頂戴する。炭酸水を流し込むと、なぜか食欲が湧く。それまで躊躇していた甘めのペストリーにも遠慮がなくなる。パイやキッシュを頬張り、仕上げに角砂糖をひとつ放り込んだエスプレッソをゆっくりと飲む。カップの底にたまったほろ苦い蜜をすすると、不思議と口の中がさっぱりする。
徐々に血中のイタリアン濃度が上がるのを感じているところで、ランボルギーニ・ジャパンのブランドディレクター、ダビデ・スフレコラ氏が登壇。
「フェルッチオ・ランボルギーニという男の情熱から誕生したブランドの、もっとも新しく、そして強烈な情熱をたっぷり楽しんでください」。そんなエールによって送り出されるころには、さらに気分は高まっていた。そしてスタート地点となる「ザ・リッツ・カールトン東京」のエントランスで待ち構える最新モデルを目の当たりにしたのだった。
はやる気持ちを抑えながら乗り込んだ「ウラカン EVO RWD スパイダー」。すでに何度かドライブしたモデルであるが、なによりも5.2リットル、V10エンジンが絞り出す610馬力というパワーを、後輪だけで路面に伝えるドライブフィールが好きで、往路のパートナーとしてセレクトした。4WDモデルの安定感の圧倒的な高さも悪くはないが、よりピュアでありつつ、ドライバーのスキルを試すかのような後輪駆動の感覚には、スポーツカー本来の喜びと感動がある。
シートベルトをセットし、エンジンスタートボタンをプッシュすると一瞬のブリッピングを経て、アイドリングはスッと安定する。ここで無駄なアクセリングなどは控えたい。ただでさえ目立つ存在だけに、パブリックエリアでこそ、これ見よがしの行為はスーパースポーツ本来の魅力をスポイルする。抑制が効いたジェントリーな行動こそが、鉄則である。
静々とリッツ・カールトン東京のエントランスから抜け出だした。六本木の交差点を過ぎ、首都高3号線の下を渋谷方面に走るころになると、先程まで押さえ込んでいた血中イタリアン濃度が一気に飽和状態となる。頭上を高速道路にフタをされたビル街に、V10エンジンが奏でるエグゾーストノートがこだまする。渋谷の下り入り口からあっと言う間の加速によって本線へとエントリー。首都高3号線は少しばかり詰まっていたが、そこにあるのは一人のスーパーカー少年が心躍らせながらステアリングを握る姿。クルマの流れが多少滞ろうとも、意に介する素振りすらなく、当然のように東名に入り、前方がクリアとなれば、一気呵成にアクセルを踏み込む。制限速度がもどかしくなる瞬間である。
STAFF
Text: Atsushi Sato
Editor: Atsuyuki Kamiyama
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