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芸歴がとても長いにも関わらず、2025年グラミーの 「最優秀新人賞」をようやく 受賞したサブリナ・カーペンター。大ヒット曲「Espresso」は2024年度、世界で最も聴かれた曲で、総再生数は16億回(Spotify)を突破、『タイム』が選ぶ次世代の100人にも選ばれ、グローバルな歌姫に。突如として幸運に恵まれ舞い降りたポップスターではない、サービス精神豊かなグッドエンターテイナーのカリスマ性はどうやって身につけてきたのか。
今のアメリカで、圧倒的にチャーミングで人気の高い女性アーティストといったら、サブリナ・カーペンターだろう。11歳で子役デビューし、国民的アイドルの定番路線のディズニー・チャンネルで活躍し、歌手としても6枚のアルバムを発表。しかし世代を超えて注目されるきっかけは、ゴシップからイメージチェンジに成功したこと。そして、今年2月の第67回グラミー賞授賞式®では、テイラー・スウィフトやビリー・アイリッシュなどを抑えて、初グラミーとなる「最優秀ポップ・ヴォーカル・アルバム」と「最優秀ポップ・ヴォーカル・パフォーマンス(ソロ)」を受賞して、スターの称号を得た。
「失敗は、自分自身について最も多くを知るきっかけとなるのよ。また、振り返って“自分が変わったな”と思えることは、とても謙虚な気持ちにさせてくれるの。それは、自分が“本当に成るべくしてこの人生を生きてきた”という良い兆候だと思うから」
以前のインタビューでそのように話していたサブリナ。この失敗が何を指すのかは明らかにしていないけれど、転んでもただ起きない性格であることは確かだ。たとえば2017年9月に、彼女は元マネージャー2人から報酬の一部が支払らわれていないと訴えられた。18歳のサブリナは、最初はどう対応したらいいのかわからなかったが、結局その訴訟で勝訴し、その出来事から生まれた曲「Sue Me」(2018年11月)を発表し、注目を集めたからだ。
前述のゴシップとは、同じディズニー・チャンネル出身同士による恋愛沙汰だ。人気ドラマシリーズ『ハイスクール・ミュージカル:ザ・ミュージカル』で共演しているオリヴィア・ロドリゴとジョシュア・バセットが交際していると噂になっていたが、その後ジョシュアはサブリナと急接近していると報道された。そして2021年1月に発売されたオリヴィア・ロドリゴのデビュー曲「drivers license」で歌われている“あの金髪の女の子”とはサブリナのことではないかと推測されたのだ。一方サブリナは、同じ2021年にディズニー/ハリウッドレコードを離れて、アイランドレコード移籍第1弾「Skin」を直後に発表したが、それがアンサーソングではないかと言われた。そして奇しくもオリヴィアもサブリナもディズニーから離れて発表したこれら曲のヒットを機に、イメチェンに成功したのだ。
以前から音楽愛も強かったサブリナは、楽曲制作にも時間を割いて注力するようになった。2023年夏のフランス滞在中に生まれた「Espresso」(2024年4月)が世界中で爆発的に大ヒットし、イギリスでは第1位、全米チャートでも第3位まで躍進。また、同じペンシルベニア州出身のテイラー・スウィフトが、サブリナを『ザ・エラス・ツアー』(2023−24)で南米やオーストラリアなどのオープニングアクトに起用したことも功を奏した。本来の彼女のキャラである、ユーモアとセクシーさをミックスした、オシャレで楽しいパフォーマンスで女性人気が格段に増えたからだ。
たとえば移籍第1弾のアルバム『Emails I Can’t Send』(2022年)に収録された「Nonsense」では、コンサートで歌うたびに最後をちょっとセクシーな歌詞に変えて観客のリアクションを楽しむようになった。サブリナはこのアウトロ用に900を超すフレーズを考えたという。
最新アルバム『Short n’ Sweet』でも「Juno」の“こんな体位を試したことある?”という歌詞の部分で、毎回サブリナが取るポーズが話題を呼んだ。彼女の場合、大好きな人を振り向かせるために、チャーミングなセクシーさを売りにしている。サブリナの欲求に共感するファンたちは、彼女からその恋愛テクを教わりたいため毎回熱狂してしまうのだ。
「私は“変わっているね”と言われることは、褒め言葉だと思っているの」と話すサブリナ。「正直に言って、私はポップスターがキャッチーな曲でわかりやすいコンセプトを作る人だという考え方をあまり好まない。私はスティーヴィー・ニックスやドリー・パートン、キャロル・キング、パッツィ・クラインを聴きながら育ったけれど、その音楽は私にとって必ずしもポップに感じられるものではなかったから」
そして彼女は曲作りに常に新しさを求めてきた。
「ジャンルが必ずしも最も重要なことではないと気づいたので、今作っているものに対しては、ずっと自由でワクワクしているの。私にとってジャンルとは、正直さや本物らしさ、自分が惹かれるもののこと。これからも音楽制作をやるにあたり、さまざまなジャンルをやり続けていきたいと思っている」
昨年末にNetflixの コメディタッチの映画「ナンセンス・クリスマス with サブリナ・カーペンター」(2024)も大ヒット。アメリカの古き良き60年代を想起させるファッションやスタイルは世代を超えて魅了し、コメディタッチの内容は家族で観ても楽しめる。最近はマリリン・モンローを意識したスタイルでモード系雑誌の表紙を飾るほどだ。グラミー賞でも60年代ファッションを取り入れ、そこにユーモラスでセクシーさを加えた華やかなパフォーマンスを展開していた。ウィットに富んだストーリー仕立てが大好きなのだ。
そしてグラミー賞受賞直後の2月14日に発表した楽曲は、大ヒット曲「Please Please Please」の別ヴァージョンとして、憧れの国宝的大スター、ドリー・パートンをゲストに迎えた。2024年6月に発表したオリジナル・ヴァージョンでは、当時付き合っていた俳優バリー・コーガンがミュージックヴィデオに出演。共に刑期を終えてから付き合い出した2人を『ボニー&クライド』のように描き、最後にサブリナが彼を椅子に捕縛した場面で幕を閉じていた。
ドリーとのヴァージョンでは、二人は『テルマ&ルイーズ』を想起させる設定で、その男性が手錠で縛られたまま車に詰め込まれ、「女性は強いのよ」と言わんばかりに笑顔で車を走らせる。
そういえば、「Espresso」も歌詞に、「自暴自棄になんてならないわ。全然何も気にならない」というフレーズがある。まさに今、我が道を行く自信に満ち溢れているサブリナ・カーペンターなのである。
サブリナ・カーペンター/Sabrina Ann Lynn Carpenter。俳優、シンガー・ソングライター。1999年5月11日生まれ。ディズニーチャンネルのティーン向けコメディドラマ『ガール・ミーツ・ワールド』(2014-2017年)で人気アイドルとなり、Neflix作品で共同製作や主演を担当した『Work It〜輝けわたし!〜』(2020)をはじめ、出演作品は多数。アルバムはディズニー/ハリウッドレコード時代に4枚発表しているが、元々シンガー・ソングライターになりたかったため、当時は子供でそんなに注目されないだろうと、毎回さまざまなジャンルの音楽に挑戦していたという。その成果がレーベル移籍以降に表れ、「Nonsense」「Feather」「Espresso」と3曲立て続けに大ヒット。それ以降も「Please Please Please」などチャートの常連となり、第67回「最優秀ポップ・ヴォーカル・アルバム」と「最優秀ポップ・ヴォーカル・パフォーマンス(ソロ)」を受賞した。プロデュース能力も高く、Netflix作品やミュージックヴィデオ、ステージの構成も毎回楽しませてくれる。
音楽ジャーナリスト・アメリカ文学研究
伊藤なつみ
デヴィッド・ボウイ、坂本龍一からマドンナ、ビョーク、宇多田ヒカル、ロバート・グラスパーなど、取材アーティスト数は数え切れないほど。『ユリイカ』2023年5月号に掲載の論考「ヒップホップ・フェミニズムの変遷」など、現在は黒人女性のエンパワーメントについても研究中。
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