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三大複雑機構のひとつとして知られる「パーペチュアル・カレンダー」は、 量産できる複雑機構として稀有な存在。そのパーペチュアル・カレンダーの実用性を高め、普及に貢献したのがIWCだ。今年は話題の最近作が時計界のアカデミー賞ともいわれる、ジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリ(GPHG)の大賞にも選ばれた。IWCがこの機構をいかにして生み出し、どのような革新をもたらしたかを紐解きながら、IWCがたどり着いたポルトギーゼ・エターナル・カレンダーの現在地を見ていこう。
カレンダーとは太陽や月の周期や動きを数値化したものといえる。時計師たちは古くからその宇宙のメカニズムを盤上に再現しようと試みてきた。そうしたカレンダーウォッチの最高峰が、何十年、何百年もの暦をメカニズムの中に組み込んだ三大複雑機構のひとつにも数えられるパーペチュアル(永久)カレンダーだ。
時計の時針は一般的には12時間で1回転するが、これを歯車で減速させて7日で1回転(曜日表示)、31日で1回転(日付表示)、12カ月で1回転(月表示)させると一年のカレンダーとなるわけだが、月の日数が31日以外に、30日の月もあれば、28日もあり、その際は手動での調整が必要であった。さらに天体の動きは自然現象ゆえに、できるだけ誤差が生じないようにすると、4年に1度の、2月末にやってくるうるう年29日の手動による調整も必要となる。
そうした大小の月、うるう年に関わらず、日付を自動的に調整してくれる機構がパーペチュアル・カレンダーだ。先述したように減速輪列で構成されるカレンダーのメカニズムは、多数の部品が必要で、それゆえに製作には時間とコストがかかり、操作にもデリケートな扱いを求められた。それが複雑系といわれる理由だ。
ちなみにパーペチュアル(永久)といっても、2499年までの暦が組み込まれているモデルが多い。機械式時計は所有者の寿命より長く使えるといわれるが、パーペチュアル・カレンダーはまさに世代を超えて使える時計の代名詞といえる。
IWCのパーペチュアル・カレンダーの始まりは、1985年に発表された「ダ・ヴィンチ」からだ。手掛けたのは当時のIWCの設計主責任者であったクルト・クラウス氏。その頃はまだクォーツショックの影響が残っており、IWCとしては複雑機構の一角であるパーペチュアル・カレンダーを搭載した時計で、機械式時計の復活の狼煙を上げたかったわけだ。ただパーペチュアル・カレンダー機構自体は、すでに他ブランドでも存在していた。そのため、ベースにクロノグラフムーブメントのバルジュー7750を選び、世界で初めてパーペチュアル・カレンダー搭載クロノグラフを生み出した。現在の複雑機構は、機構をベースムーブメントに積層させるモジュール化が一般的であるが、その先駆けがこのダ・ヴィンチといえる。
今年で90歳を迎えたクラウス氏だが、25年前に時計師を引退したものの、今でも社員バッジを身に着けて頻繁にIWCを訪れ、さまざまなプロジェクトに関わっている。時計製造の頂点を極めた偉人として尊敬され、今なお、そのエンジニアリングの知識は頼りにされているのである。
パーペチュアル・カレンダーは、うるう年にも自動的に調整してくれる便利な機構だが、その反面、弱点もある。それはゼンマイが切れて針が止まってしまうことだ。針が止まってしまうと、カレンダーを調整するには何日分もひらすら針を回すか、ケースサイドのプッシュボタンを押すことで日付や曜日、月表示を合わせる必要があって、とても面倒なのだ。さらにその行為はケースに傷をつけてしまうかもしれないし、ムーブメントに負担をかけるため壊れてしまう危険だってある。
それに対して、IWCのパーペチュアル・カレンダーは、リューズ操作だけで全カレンダー表示を調整できるようになっている。この操作性の高さは画期的であった。その上、効率的に巻き上がるペラトン式自動巻き機構による2つの香箱を備えた約7日間パワーリザーブも装備する。ロングパワーリザーブで針が止まらないようにし、万が一、針が止まっても簡単にカレンダーを調整できるようにした2段構えが、IWCのパーペチュアル・カレンダーに優位性をもたらしたのである。
もうひとつ注目しておきたいのが、IWCの自社製造ムーブメントであるCal.5200系の振動数だ。2000年に発表されたCal.5000系の改良版で、テンプは毎時2万1600振動から毎時2万8800振動に上がって精度が改善された。パーペチュアル・カレンダーは100年以上先のカレンダーも自動的に調整してくれることがメリットであるが、たとえ針が止まらず動き続けたとしても、一日10秒の誤差であったら、100年経つと100時間ほどズレが生じる計算となる。精度は地味に重要だ。多くのパーペチュアル・カレンダーウォッチはパワーリザーブか振動数による精度のどちらを優先するかを選択しており、それを両立させているのはIWCくらいだ。
さらに文字盤には、IWCが初めて装備した4桁の西暦表示が備わる。その内部には、1の位を示すディスクとその周りを囲む10の位のリング、そして100と1000の位を一緒に記したセンチュリースライドと呼ばれるプレートを備えている。このスライドは100年に一度しか作動しないパーツだ。ちなみにこのプレートは20、21、22が記されており、23、24、25が記されたプレートのパーツも別途に付属され、2599年までのカレンダーが対応できるようになっている。
2024年度の時計界での最高峰のアワードであるジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリ(GPHG)において、最高位の金の針賞(AIGUILLE D‘OR Grand Prix)は、IWCの「ポルトギーゼ・エターナル・カレンダー」が受賞した。
これは従来のパーペチュアル・カレンダーの進化版だ。というのも、4年に一度のうるう年の自動調整だけでなく、100で割り切れる年はうるう年を平年の扱いにして、さらに400で割り切れる年にはうるう年にするという、400年周期のカレンダーをプログラムしたセキュラーカレンダーとなっているからだ。懐中時計では稀に見かけることがあるが、腕時計で実現させたのは偉業といえるだろう。これを実現させるため、400年の間に3回だけうるう年をスキップし、400年で一回転する歯車が組み込まれている。
これにより、西暦3999年までのカレンダーがプログラミングされる計算となるという。なお西暦4000年を閏年にするかはまだ未定なので、実質的にカレンダーウォッチの頂点といえるだろう。
さらに12時位置に備える、北半球と南半球から見える二つのムーンフェイズも特徴的。ムーンフェイズは月の満ち欠けの周期が29日12時間44分のため、地球の24時間のサイクルとの間にズレが生じる。このモデルでは、従来の機構に3つの歯車を追加して22兆通りの輪列パターンをシュミレーションすることで、4536万1055年に1日の誤差という超絶の高精度を実現した。これによって「最も精密なムーンフェイズを持つ腕時計」として、2024年6月にギネス世界記録にも認定されている。
もちろん、これらの機構も従来のパーペチュアル・カレンダーのようにリューズでカレンダーを調整できるようになっている。
2024年に東京・銀座に構えるIWC銀座ブティックが10周年を迎えた。現在は並木通りとみゆき通りの交差するコーナーに位置する日本における旗艦店だ。10月には2階の特設コーナーにオープン10周年を記念した「スペシャル・ギャラリー」を開催。歴代のパーペチュアル・カレンダーモデルから、話題の「ポルトギーゼ・エターナル・カレンダー」をはじめとする希少なモデルが展示された。
STAFF
Writer: Katsumi Takahashi
Editor: Atsuyuki Kamiyama
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