大人になってできることが増えた自分を今一度まっさらにしたい

『48歳だってこんな無茶苦茶ができるんだぞってことを証明したいと思っています(笑)』

俳優
井浦 新

映画を愛し、映画に愛され、最近は、テレビドラマにもひっぱりだこ。 さまざまな役柄を演じつつも、唯一無二の存在として人々を魅了し続ける俳優・井浦 新さん。 今、思うこと、をじっくり聞いてみました。

LIFESTYLE Feb 3,2022
大人になってできることが増えた自分を今一度まっさらにしたい

“芝居のできないずぶの素人として演じてみたい”

ニット・タートルネックロングTシャツ・パンツ¥(CABaN/CABaN 代官山店)/時計『ポルトギーゼ・パーペチュアル・カレンダー』(IWC)の画像
ニット¥44,000・タートルネックロングTシャツ¥23,100・パンツ¥42,900(CABaN/CABaN 代官山店)・時計『ポルトギーゼ・パーペチュアル・カレンダー』¥4,823,500(IWC)

寅年である、今年、井浦さんは年男。しかも2022年は、36年に一度、巡ってくるという、〝五黄の寅〟。この年に生まれた人は、強運の持ち主と言われるぐらい、特別な寅年らしい。インタビューの冒頭、そんな話をしていると、しばらくじっと考え込み、少し納得したような表情を見せた井浦さん。

「知りませんでした。〝最強の寅年〟の年男か…。そう聞くと、今年の自分の行く道が、なんだかはっきりした気がします。ちょっと背中を押された気分です」

振り返ると、コロナ禍のこの2年間は、自分自身や、自らを取り巻く環境、役者という仕事、あらゆることを見つめ直し、考え続ける日々だったという。

「不安な状況が続く中、人々がまず維持しようとすべきは、もちろん生活です。日々の暮らしがなんとか立ちゆく上で、ようやっと、少しでも心を癒し、潤し、楽しませるために、必要とされるのが、エンターテインメント。僕はその世界で仕事をし、生かしてもらっています。これまであたりまえだと思っていたこと、たとえば、作品に参加して芝居をし、それを観てくれる人に届けること。映画館という場所があって、そこに足を運んでもらうこと。舞台挨拶をすること――。コロナ禍では、作品自体が撮れない時期もありましたし、映画館やミニシアターはすべて閉鎖。今まであたりまえだと思っていたことが、あたりまえでなくなったとき、自分にとって、大切なものは何なのか、模索し続けました」

井浦さんが忘れられないのは、それでも、ぽつぽつと映画館が再開し始めたとき、子どもたちと一緒に足を運び、ひさしぶりにスクリーンの前に座った瞬間――。

「新作が撮れなかったこともあってか、いろんな映画館が工夫して、過去の名作のリバイバル上映をしていました。特に、テレビ放映でしか観たことがなかった『風の谷のナウシカ』を大スクリーンで観たときの、その感動!暗闇の中で約2時間、五感をフルに使って作品と向き合うという、映画館ならではの体験の大切さを、あらためて実感しました。同時に、昨年後半になって、本当にひさしぶりに、映画館で舞台挨拶をさせてもらったときは、もう感動して、言葉にならなくて。ふるえましたね。会場を包む熱気を浴びながら、観客の方々に、直接『ありがとう』を伝えられることの重み。リアルな場のありがたさをかみしめました」

自らを育ててくれた映画への想いを語る一方、昨年は、自身初、1年で3本の連続テレビドラマに出演。

「ある意味、挑戦の年、革命の年だったかもしれません。3か月続くテレビドラマと、数本の映画。一年中、台本を読み続けた記憶しかない(笑)。役者として、肉体的にも精神的にも、やりきった先に見える景色はどういうものなのか。ちょっとわくわくしていた自分がいます」

そんなタフな1年を経た井浦さんの、今年の、年男としての抱負とは?

「これからも役者として、自分以外の人間を〝演じる〟ということに、変わりはありません。ただ、もし自分が、今の自分の感覚をもって、たとえば中学生ぐらいから、人生をやり直したとしたら…?と、考えたりしたことはありませんか?これまでの自分の経験や知識をもったまま〝初めて〟の瞬間を体験するんです。つまり、役者としてキャリアを積み、できることが増えた自分を、今一度、まっさらにしてみたいんです。役者にとって、最強のライバルは、初めて舞台に立ったときの自分といいますが、僕は、その〝初めての自分〟を超えてみたい。これまで積み重ねてきたものをもったまま、まったく芝居のできない、ずぶの素人の自分として、作品と対峙したい。芝居をしながら芝居をしない状態、とでもいうのかな。ちょっと禅問答みたいですけど。つまり、今年は、役者として、無茶苦茶をやってやろうってこと(笑)。48歳のおじさんだって、こんな無茶苦茶ができるんだぞ!ってことを、証明したいなと思っています」

ジャケット・パンツ(LEMAIRE/SKWAT/LEMAIRE)/シャツ(OUR LEGACY/EDSTRöM OFFICE)/時計『ポルトギーゼ・オートマティック』(IWC)の画像
ジャケット¥88,000・パンツ¥72,000(LEMAIRE/SKWAT/LEMAIRE)・シャツ¥45,100(OUR LEGACY/EDSTRöM OFFICE)・時計『ポルトギーゼ・オートマティック』¥2,882,000(IWC)
PROFILE
俳優 井浦 新
俳優
井浦 新

東京都出身。映画『ワンダフルライフ』(’99/是枝裕和監督)で俳優デビュー。『かぞくのくに』(’12/ヤン・ヨンヒ監督)で第55回ブルーリボン賞助演男優賞、『11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち』(’12/若松孝二監督)で第22回日本映画プロフェッショナル大賞主演男優賞を受賞。近年では『朝が来る』(’20/河瀨直美監督)、『かそけきサンカヨウ』(’21/今泉力哉監督)、TBS系金曜ドラマ『最愛』に出演。アパレルブランド“ELNEST CREATIVE ACTIVITY”のディレクターを務めるほか、日本の伝統⽂化をつなげ、拡げていく活動を行っている。

お問い合わせ先
CABaN/CABaN 代官山店
03-5489-5101
IWC
0120-05-1868
LEMAIRE/SKWAT/LEMAIRE
03-6384-0237
OUR LEGACY/EDSTRöM OFFICE
03-6427-5901

●掲載商品の価格はすべて、税込み価格です。

初出:2021年12月19日発行『AdvancedTime』10号。掲載内容は原則的に初出時のものです。


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