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映画を愛し、映画に愛され、最近は、テレビドラマにもひっぱりだこ。 さまざまな役柄を演じつつも、唯一無二の存在として人々を魅了し続ける俳優・井浦 新さん。 今、思うこと、をじっくり聞いてみました。
寅年である、今年、井浦さんは年男。しかも2022年は、36年に一度、巡ってくるという、〝五黄の寅〟。この年に生まれた人は、強運の持ち主と言われるぐらい、特別な寅年らしい。インタビューの冒頭、そんな話をしていると、しばらくじっと考え込み、少し納得したような表情を見せた井浦さん。
「知りませんでした。〝最強の寅年〟の年男か…。そう聞くと、今年の自分の行く道が、なんだかはっきりした気がします。ちょっと背中を押された気分です」
振り返ると、コロナ禍のこの2年間は、自分自身や、自らを取り巻く環境、役者という仕事、あらゆることを見つめ直し、考え続ける日々だったという。
「不安な状況が続く中、人々がまず維持しようとすべきは、もちろん生活です。日々の暮らしがなんとか立ちゆく上で、ようやっと、少しでも心を癒し、潤し、楽しませるために、必要とされるのが、エンターテインメント。僕はその世界で仕事をし、生かしてもらっています。これまであたりまえだと思っていたこと、たとえば、作品に参加して芝居をし、それを観てくれる人に届けること。映画館という場所があって、そこに足を運んでもらうこと。舞台挨拶をすること――。コロナ禍では、作品自体が撮れない時期もありましたし、映画館やミニシアターはすべて閉鎖。今まであたりまえだと思っていたことが、あたりまえでなくなったとき、自分にとって、大切なものは何なのか、模索し続けました」
井浦さんが忘れられないのは、それでも、ぽつぽつと映画館が再開し始めたとき、子どもたちと一緒に足を運び、ひさしぶりにスクリーンの前に座った瞬間――。
「新作が撮れなかったこともあってか、いろんな映画館が工夫して、過去の名作のリバイバル上映をしていました。特に、テレビ放映でしか観たことがなかった『風の谷のナウシカ』を大スクリーンで観たときの、その感動!暗闇の中で約2時間、五感をフルに使って作品と向き合うという、映画館ならではの体験の大切さを、あらためて実感しました。同時に、昨年後半になって、本当にひさしぶりに、映画館で舞台挨拶をさせてもらったときは、もう感動して、言葉にならなくて。ふるえましたね。会場を包む熱気を浴びながら、観客の方々に、直接『ありがとう』を伝えられることの重み。リアルな場のありがたさをかみしめました」
自らを育ててくれた映画への想いを語る一方、昨年は、自身初、1年で3本の連続テレビドラマに出演。
「ある意味、挑戦の年、革命の年だったかもしれません。3か月続くテレビドラマと、数本の映画。一年中、台本を読み続けた記憶しかない(笑)。役者として、肉体的にも精神的にも、やりきった先に見える景色はどういうものなのか。ちょっとわくわくしていた自分がいます」
そんなタフな1年を経た井浦さんの、今年の、年男としての抱負とは?
「これからも役者として、自分以外の人間を〝演じる〟ということに、変わりはありません。ただ、もし自分が、今の自分の感覚をもって、たとえば中学生ぐらいから、人生をやり直したとしたら…?と、考えたりしたことはありませんか?これまでの自分の経験や知識をもったまま〝初めて〟の瞬間を体験するんです。つまり、役者としてキャリアを積み、できることが増えた自分を、今一度、まっさらにしてみたいんです。役者にとって、最強のライバルは、初めて舞台に立ったときの自分といいますが、僕は、その〝初めての自分〟を超えてみたい。これまで積み重ねてきたものをもったまま、まったく芝居のできない、ずぶの素人の自分として、作品と対峙したい。芝居をしながら芝居をしない状態、とでもいうのかな。ちょっと禅問答みたいですけど。つまり、今年は、役者として、無茶苦茶をやってやろうってこと(笑)。48歳のおじさんだって、こんな無茶苦茶ができるんだぞ!ってことを、証明したいなと思っています」
東京都出身。映画『ワンダフルライフ』(’99/是枝裕和監督)で俳優デビュー。『かぞくのくに』(’12/ヤン・ヨンヒ監督)で第55回ブルーリボン賞助演男優賞、『11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち』(’12/若松孝二監督)で第22回日本映画プロフェッショナル大賞主演男優賞を受賞。近年では『朝が来る』(’20/河瀨直美監督)、『かそけきサンカヨウ』(’21/今泉力哉監督)、TBS系金曜ドラマ『最愛』に出演。アパレルブランド“ELNEST CREATIVE ACTIVITY”のディレクターを務めるほか、日本の伝統⽂化をつなげ、拡げていく活動を行っている。
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初出:2021年12月19日発行『AdvancedTime』10号。掲載内容は原則的に初出時のものです。
STAFF
Model: Arata Iura
Photo: Manabu Mizuta(NOSTY)
Stylist: Kentaro Ueno
Hair & Make-up: Emi Hanamura(MARVEE)
Text: Miho Tanaka
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