知が集積する神保町で、感性を刺激するファッションの担い手たち

本の街・神保町で、知的好奇心を満たす vol.2

2025年、国際的なシティガイド・メディア『Time Out』の年次ランキング「世界で最もクールな街」1位に選ばれたのは『本の街』として全国的に知られる東京・神保町(東京都千代田区神田神保町1~3丁目および周辺地域)。多くの出版関連産業が集まる知的集積度の高い、当編集部の“地元”でもある。神保町の魅力をAdvancedTimeが扱うラグジュアリー・ライフの文脈で捉えると、「知的好奇心こそ、人が叶えられる最高の贅沢」というテーゼが導き出せる。の、だが・・・、いったい『本の街』と『贅沢』に何の関係が?と思われる向きも多かろう。そこで、本連載では、神保町に点在する“クール”な場所を訪ね歩くことで、『知的ラグジュアリー』を支える街の魅力を明らかにしていく。欧米系メディアがなぜ「クールな街」と称揚したのか。それは『贅沢』というものの本質に迫ることでもあった。

FASHION Oct 1,2026
知が集積する神保町で、感性を刺激するファッションの担い手たち

本の街・神保町で、知的好奇心を満たす vol.2

神保町は本の街、とは言わずもがなだが、神保町はファッションの街、という表現は、ちょっと無理があるのではと多くのご指摘を受けそうだ。ところが近年、そんな言葉を地でいくような、個性的かつ刺激的なファッションの担い手が神保町に増えている。もちろん数的には渋谷や青山、銀座などとは比較にならないかもしれないが、ここ神保町だからこそあり得るショップの形、実現できるスタイルがあるのではないか。そんな視点から、神保町界隈の注目の店舗を紹介していきたい。

最新にして最大?の『メイデンズ ショップ神保町』

左/『メイデンズ ショップ神保町』の外観 右/1階の画像
左/『メイデンズ ショップ神保町』の外観。1960年代築で、元はオフィスビルだった。地下1階と地上3階までがショップとして使われている。 右/1階の様子。フランク・ロイド・ライトの『落水荘』でも使っている石が床に敷かれている。

2026年の3月にオープンした『MAIDENS SHOP JIMBOCHO(メイデンズ ショップ神保町)』は、神保町界隈での最新かつ最大のファッションヴェニューといえるだろう。地下1階、地上3階の4層の店内には、メンズとウィメンズ、デザイナーズウェアからヴィンテージウェア、靴からアイウェアに至るまで、多彩なアイテムが展開されている。その規模感は、人気店である原宿の『MAIDENS SHOP(メイデンズ ショップ)』を超えるものだ。

『メイデンズ ショップ』を運営するメイデン・カンパニーは、1995年設立。当初は雑貨の輸入販売を行い、その後は欧米ブランドの日本における販売代理店として、『インディヴィジュアライズド シャツ』等数々の人気ブランドを手掛けてきた。その一方で『メイデンズ ショップ』など小売業も展開。『メイデンズ ショップ』はメイデン・カンパニーで輸入を行っているブランドに限らない幅広い品揃えで、セレクトショップとして国内外でその存在が注目されている。

『メイデンズ・ショップ・ジンボウチョウ』地下1階の画像
『メイデンズ・ショップ・ジンボウチョウ』地下1階の様子。壁面は乳白色に、床にはチマヨ柄のラグなども配置されている。

それにしても、なぜ神保町に、これほどの店舗を構えることになったのか。ここに至る起点には、日比谷ミッドタウンの『ウェルメイド バイ メイデンショップ』の存在があったと話すのは、『メイデンズ ショップ神保町』の牧野真也さん。「私は前任者から引き継いで『ウェルメイド バイ メイデンショップ』の仕入れと店舗運営を担当していたのですが、当初始めた内容とだいぶ変わってきていて、来館されるお客さまの嗜好と私たちが扱いたい商品が違ってきているように感じていました。そこで、できることならば商業施設の中ではなく、路面店ができないかと、物件を探し始めたのです」(牧野さん)。

左/地下1階で展開されている、アメリカ・ニューメキシコ州在住のレザーマスター“Pam Dietrich(パム・ディートリッヒ)”のディアスキンを使ったハンドメイドのベストとジャケット。 右/英国のサスティナブルな服づくりを追求するブランド“SONO(ソノ)”の起毛感あるコットンリネン素材のオーバーサイズジャケットの画像
左/地下1階で展開されている、アメリカ・ニューメキシコ州在住のレザーマスター“Pam Dietrich(パム・ディートリッヒ)”のディアスキンを使ったハンドメイドのベストとジャケット。 右/英国のサスティナブルな服づくりを追求するブランド“SONO(ソノ)”の起毛感あるコットンリネン素材のオーバーサイズジャケット。

できれば一棟の建物に店舗を構えることで、世界観を訴求したいと思っていたと牧野さん。当初は原宿や渋谷、世田谷などで物件を探し始めたが、条件に合うものは見つからなかった。そんな折、不動産紹介のインスタグラムで、偶然現在入居しているビルを目にする。「探していたエリアと全く違うところでしたが、外観に惹かれて、とりあえず物件を見ることにしたんです。その後何度か神保町を歩いてみて、古書店や小さな飲み屋さんなどにも立ち寄ったりして、街の雰囲気が私のやりたい店のイメージと合っている、と感じました」(牧野さん)。

左/1960年代に建てられたというビルのヒストリーが感じられる階段。 右/パリ在住のデザイナー、瀬谷慶子が手掛けるウィメンズ&メンズブランド“seya.(セヤ)”の、リネンシルクのオーバーシャツの画像
左/1960年代に建てられたというビルのヒストリーが感じられる階段。あえてスケルトンの質感そのままにしている。 右/パリ在住のデザイナー、瀬谷慶子が手掛けるウィメンズ&メンズブランド“seya.(セヤ)”の、リネンシルクのオーバーシャツ。

内装を大きく変えられたことも、この建物を選んだ理由だった。現在主にハイエンドのデザイナーズウェアを展開している地下1階は、乳白色の壁面が印象的な空間に。これは原宿ウィメンズ店舗『MAIDENS SHOP WOMEN』のイメージアイコンである、ジョージア・オキーフのニューメキシコの家から着想されたという。1階の床に敷かれた石材はアメリカ・ペンシルヴァニアから取り寄せたもの。フランク・ロイド・ライト設計で知られる『落水荘』に使われているものと同じ素材で、牧野さんによれば「最もお金をかけたところ」とのこと。またこの1階の木製天井は、アメリカンミッドセンチュリーの建築から連想されている。他方2階と3階は、1960年代に建てられたというこのビルの古さを活かし、スケルトンに近い内装に設え、服の多彩さが際立っている。階段周りや窓の周辺などに漂う昭和レトロな雰囲気が印象的だ。

左/デザイナー中野靖の“ANSNAM(アンスナム)”のシャツ。 右/3階では無店舗古着店『AND SO IT  GOES』の商品を常設展開している画像
左/デザイナー中野靖の“ANSNAM(アンスナム)”のシャツ。アウターとしても使える存在感で、エフォートレスな雰囲気が魅力。メンズブランドの色彩が濃い“アンスナム”だが、『メイデンズ ショップ神保町』では女性にも人気とのこと。 右/3階では無店舗古着店『AND SO IT  GOES』の商品を常設展開。Tシャツやカットソーなどチャーミングなアメリカンヴィンテージが揃う。

「このビルを借りる契約をした直後に、『TimeOut』で神保町が世界で最もクールな街に選出されたことは、私たちにとってラッキーでした」と牧野さん。オープン後は海外メディアやインフルエンサーのSNSで紹介されることも多く、『メイデンズ ショップ神保町』をめがけて訪れる外国人も多いという。「また日本のお客様は、原宿などに比べ、神保町の方が年齢層も高く落ち着いていて、服がお好きな方がゆっくりと買い物を楽しまれている印象です」と牧野さんは話す。展開ブランドなどは原宿店と大きく変わらないというが、「神保町店では、スペインの“GABRIELA COLL GARMENTS(ガブリエラ コール ガーメンツ)”と“COMOLI(コモリ)”に力を入れています。“コモリ”には神保町店オープンに合わせてユニセックスの別注をつくっていただきました。またパリ拠点の“seya.(セヤ)”も神保町店のテーマにピッタリで、先日イベントも開催しました。あと“ANSNAM(アンスナム)”にも別注をお願いしていて、女性にも人気です」(牧野さん)と、神保町ならではの特徴が、少しずつ表れてきているようだ。また、3階で扱われているヴィンテージウェアは、『メイデンズ ショップ神保町』セレクトの古着と古着店『AND SO IT  GOES』の商品をミックスして展開している。

店舗のエントランス脇には設置されているテーブルとベンチの画像
店舗のエントランス脇にはテーブルとベンチが設置されていて、コーヒーなどを飲みつつ一息つくことができる。
『メイデンズ ショップ神保町』オープンに合わせて制作されたヴィジュアルの画像
『メイデンズ ショップ神保町』オープンに合わせて制作されたヴィジュアル。神保町界隈で、街に馴染むようなシニアモデルを起用して撮影された。牧野さんが「『メイデンズ ショップ』と近い存在」と語るカナダ・バンクーバーのショップ『NEIGHBOUR』のヴィジュアルも手掛けるフォトグラファーが撮影を担当している。(写真提供;メイデンズ ショップ神保町)

さらに1階では、神保町を拠点とする“CROWD ROASTER”監修による、オリジナルブレンドのハンドドリップコーヒーが提供されている。「コーヒースタンドはコミュニティづくりの一環」という牧野さんの言葉通り、近所の方が立ち寄ってコーヒーをオーダーする姿が何度もみられた。「オンラインストアでの売り上げも好調ですが、実店舗で、お客様がリアルに服に触れ、接客などを体験されることを大切にしています。この神保町で10年、20年かけて店舗を育てていけたらと思っています」。牧野さんのそんな言葉からは、神保町という街とファッションの関係、神保町ならではのファッションを扱う店のあり方を、追求する姿勢が強く感じられた。

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独自のミックス感が魅力の『マクシズ・トウキョウ』

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