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「マセラティ」といえば、1914年に北イタリアのエミリア=ロマーニャ州(州都はボローニャ)にある小さな町、モデナで創業し、アルファ ロメオ(1910年設立)と並び称される名門。現在は、多国籍自動車製造会社「ステランティス N.V.」の傘下にあるイタリアの高級スポーツカーブランドとして知られる存在だ。創業以来、F1やスポーツカーレースなど、国内外のレースシーンで活躍すると同時にスポーツカーメーカーとしての知見を生かしてグランドツアラーなどを送り出してきた。その積み重ねてきた歴史の現在進行形を体現している1台が『グランカブリオ・トロフェオ』だ。マセラティならではの価値を構築し、未来へと受け継ぐために、どのような表現をこのオープンモデルに与えているのか? その答えを探すためにステアリングを握った。

時は1970年代後半まで遡る。日本では漫画『サーキットの狼』(作:池沢さとし/現:池沢早人師)をきっかけに空前のスーパーカーブームが巻き起こっていた。少年たちはカメラを片手に町ゆくスーパーカーを追いかけ、テレビでは多くの特番が放映され、まさに一大社会現象だった。そこではランボルギーニ『カウンタック』、フェラーリ『512BB』、ポルシェ『911ターボ』、ランチア『ストラトス』、そして主人公の愛機ロータス『ヨーロッパ』などがセンターポジション的な扱いだったと思う。
そんな折、都内・環状七号線の渋滞の中にマセラティ『ボーラ』を見つけた。中型二輪にまたがっていた身軽さから、すぐに『ボーラ』の真後ろをしばらく付けることにした。おそらくドライバーは「奇妙なやつが後ろの付いたものだ」と迷惑だったかもしれない。だが、こちらとしては、スーパーカーとしての派手さを売りにする主人公たちとは一種違った“エレガントな佇まい”の『ボーラ』に目も心も吸い寄せられていたのだ。
確かにマセラティ初の量産ミドシップレイアウトの高性能スポーツカーという素顔もあったが、だからといって決して非日常の象徴ではなかった。『ボーラ』の主張は「長距離を快適に走り、日常でも使える現実性を有し、品格あるデザインと乗り味」を特徴として、独自の価値観を作り上げていた。つまり現在で言うところのラグジュアリーな“グランドツアラー(GT)”的な要素をもち、スペックではスーパーカーの範疇に入りつつも、そのキャラクターはより“成熟したGT”といった立ち位置だったのだ。
漫画の中での『ボーラ』の扱いはかなり地味であり、スーパーカーブームの中での立ち位置としてはバイプレーヤー的だったと思うが、実は“通好みの一台”として通っていて「知る人ぞ知る存在」として認識されていた。ジョルジェット・ジウジアーロ(イタルデザイン)が手がけたウェッジシェイプの美しさを持ちながら決して過剰な演出ではなく、どこか理知的で落ち着いた印象を与える佇まい。これは、派手さを競うスーパーカー群の中では異彩を放つものであり“通”が選ぶ一台とされることもうなずける。
その個性が、とてもエレガントにして心地よかった。以来、マセラティはつねに意識する存在であり、送り出されてくる個性には独特の魅力が潜んでいた。そして幸いにしてこの思想は、いつの時代もマセラティのクルマ作りの幹のひとつとして受け継がれ、現在の『グラントゥーリズモ』や『グランカブリオ』の存在も輝かせている。



ホワイトの塗料にブルーを一滴垂らしたような薄青(うすあお)のボディカラーをまとって佇んでいる『グランカブリオ・トロフェオ』。搭載されるのはF1由来のプレチャンバー燃焼技術を採用した3.0LのV型6気筒ツインターボであり、その最高出力は550psに達し、4WDシステムが組み合わされる。スペックだけを見れば紛うこと無きスーパースポーツだが、なぜか周囲を威圧するような表情ではない。オープン時は約14秒、クローズド時に約16秒で開閉可能なソフトトップを開け放ってはいるが、イタリアンらしい“派手さ”はなく、どちらかと言えば淑やかさと教養を併せ持ったレディ然とした表情。周辺には清々しさのような空気感が漂っていて、派手さと華やかさに明確な一線を引いてくれるオープンカーとも言える。
これこそプレミアムオープンモデルに必要な仕立てだ。決して“自己顕示の道具”としてルーフを開け放つのではなく、“嗜好の一部”としてオープンを楽しんでいるだけ、といったさり気なさが、派手な自己主張においては他の追従を許さないとも言えるイタリアンスポーツカーの中にあって、“通好み”の伝統にも通じる仕上がりになっているのかもしれない。
そして伝統ということで言えば“日常でも使える現実性”も備わり、「グランドツアラー」としての顔もしっかりと見せてくれる。例えば+2と思っていたリアシートは意外なほど快適なスペースを確保していて、上質な居住性を実現している。
550ps、最大トルク650N・mという大パワーは8速ATと4WDという駆動方式を介して路面へと伝えられる、その全天候型のパフォーマンスは、日常的な走りにおいては大きな安心感を生み出す。
だからといって油断していると少々怖い思いをする。ひとたび4つある「ドライブモード」のセレクトダイヤルをデフォルトの「GT」から、ワインディングを走る「スポーツ」や、サーキットでの使用を考慮している「コルサ」(一般路ではお勧めしない)に合わせてしまうと、高い緊張感を求められることになる。が、ボディ剛性はクーペモデルの『グラントゥーリズモ』に匹敵するほどのがっちり感を実現しているので、安定感のあるスポーツ走行を味わうことが出来る。そんなお転婆な一面に、エレガントでお淑やかな佇まいが合わさることになるのだから、どこまでも一緒に走りたくなる。まさにGTとしての面目躍如である。






走りが体に馴染んできた後、駐車場に止めた『トロフェオ』を見つめていた。すると不意に、ある映画の主人公を思い出した。永遠の名作『ローマの休日』でオードリー・ヘプバーンが演じた「アン王女」だ。上品にして純粋な少女のような可愛らしさと淑女のようなエレガンスが同居しているアン王女は、永遠のマドンナとして今もって憧れの象徴的存在だ。ひょっとして『グランカブリオ・トロフェオ』もそんな存在なのかもしれない、と感じた瞬間だった。
主要諸元 | マセラティ グランカブリオ トロフェオ |
| 全長×全幅×全高 | 4,966×1,957×1,365mm |
| ホイールベース | 2,929mm |
| 車両重量 | 1,970kg |
| 駆動方式 | 4輪駆動 |
| エンジン | 水冷V型6気筒DOHCツインターボ 2,992cc |
| 最高出力 | 404kW(550ps)/6,500rpm |
| 最大トルク | 650N・m/3,000rpm |
| 車両本体価格 | 2,915万円~(税込み/2026年モデル) |
AUTHOR
男性週刊誌、ライフスタイル誌、夕刊紙など一般誌を中心に、2輪から4輪まで“いかに乗り物のある生活を楽しむか”をテーマに、多くの情報を発信・提案を行う自動車ライター。著書「クルマ界歴史の証人」(講談社刊)。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。
STAFF
Writer: Atsushi Sato
Editor: Ryo Usami
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