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男性の装い、例えばスーツに革靴というドレスコードが変化している昨今、革靴は新たな価値、そして魅力を表現している。今季は定番モデルにさまざまアレンジを加えた靴が登場。それらは時代の変遷に対応した、革靴の進化を表してもいる。
スーツがいわゆるビジネスアタイアから、「着ることを楽しむ」アイテムに変化しつつある昨今、レザーシューズもまた、「あえて選ぶ」ものになりつつある。オンビジネスの環境ではスニーカー(的な靴)が普及し、足元のドレスコードは何でもありの様相を呈している。そんな状況下でレザーシューズを選ぶ行為は、よりその人の個性や美意識の表現と繋がってくる。そして「どの革靴を選び、履くのか」は、かつて革靴が当たり前だった時代より、注目されることになる。革靴選びは今こそ面白い、といえるかもしれない。
もっとも、こうした状況が、革靴の「定番至上主義」を招いてもいる。あえての革靴ならば、定評あるものを選びたい、そして高価でもあるので失敗したくない、と。よい靴を評価すること自体は悪くはないが、品質や創造性などに関する理解の前に、ブランドやモデル名が先行するのは、必ずしも賢い選択とはいえないのではないか。定番こそ、その背後にあるものづくり上の価値、またはストーリーを認識することが重要。最近、そんなことを改めて感じさせる靴が相次いで登場した。

“ベルルッティ”の2026年春夏コレクションとして先日リリースされたのが、「アレッサンドロ 1895」。「アレッサンドロ」は“ベルルッティ”を代表する定番モデルとして、よく知られている。創業者アレッサンドロ・ベルルッティが生み出した一枚革の靴をもとに、彼の息子トレッロがパリ・モンタボール通りに最初のブティックをオープンした際、父の名を冠して発表したのが始まりという。そして時代は下って1990年代、4代目にあたるオルガ・ベルルッティは、高級既製靴として「アレッサンドロ」の展開を始めた。3アイレットのホールカットという、従来の紳士靴とは一線を画すようなシンプルなスタイルに、手作業で着色を行う「パティーヌ」の技法を盛り込み、クラシックながら斬新な靴として、広く知られたのだった。

近年ではスマートなトウの「デムジュール」木型を使った「アレッサンドロ」が人気を博してきたが、そのドレッシーな雰囲気は、必ずしもかつてアレッサンドロ・ベルルッティがつくった靴を想起させるものではなかった。そこで今回は、アーカイブをより掘り下げて、原点に立ち返った「アレッサンドロ」を追求したという。丸みあるトウに、独特な凹凸があるウエルト、そしてダブルレザーソールというディテールの組み合わせは、往年のカントリーシューズを連想させる。それは「アレッサンドロ」の原型と伝わる靴の武骨さにも通じるものがある。グッドイヤー製法によるボトムコンストラクションも、クラシックな雰囲気づくりに一役買っている。もっとも実際にそれを手にとると、見た目を裏切る軽さに驚くかもしれない。クラシックな靴をそのまま復刻するのではなく、現代の靴として構造を更新していることが窺える。

さらに今回、レディメイドの「アレッサンドロ」と共に、受注生産のモデルも展開している。アッパーには初期の「アレッサンドロ」のテイストを再現するために、植物タンニンなめしの「ヴォヤージュレザー」を採用。時間を重ねることで独特な深みが表れる革質で、さらに自然なエイジングと革の微細なひび割れをアーティスティックに再現したタトゥーの技法で装飾されている。

定番のモデルをより深め、更新するという試みは、“ジョンロブ”においても取り組まれている。昨年、誕生75周年を迎えたローファー「LOPEZ(ロペス)」。かつてパリの上流社会で活躍した粋人のオーダーから生まれたこのローファーは、レディメイドシューズとしても展開され、カジュアルシックを体現するモデルとして長年人気を博してきた。さらに最近では「ロペス」のサドルストラップに配された楕円形の意匠をモチーフとして、ローファーに限らず様々なモデルやアイテムに応用されている。

今季注目なのが、「オーバル(楕円)」のオーナメントをサドルストラップに配した「LOPEZ RING(ロペス リング)」。通常の楕円形の意匠に同型のオーナメントを重ねたつくりは、例えばバッハの音楽における主題の変奏や、ウォーホル作品における反復などを連想させる。この意匠は直感的なようでいて、実は形而上的な奥行きを備えているのかもしれない。さらにシャイニーなオーバルの存在感は、ドレッシーなシーンにも相応しいといえる。「ロペス」の魅力をより拡張する取り組みともいえるだろう。


“ジョンロブ”でもうひとつ注目したい定番モデルが、ダブルモンクストラップの「ウィリアム」。ウィンザー公が靴職人ウィリアム・ロブにオーダーしたことで生まれた、アビエイター(飛行士)ブーツから着想されたダブルバックルのスタイルは、今では紳士靴全体においても定番のひとつに数えられる。今季は「ウィリアム ニュースタンダード」に新色が登場。アッパーに毛足のあるスエードを使い、クリームカラーのステッチ、そしてノッチドストームウェルトと厚みがありつつ軽量なヒリーラバーソールを採用するなど、ドレスシーンでも履かれることがあるダブルモンクストラップのスタイルに、ラギッドなテイストを盛り込んでいる。エフォートレスな傾向が進むメンズファッションに対応したものといえそうだが、他方で実用的な靴がルーツにある「ウィリアム」本来のあり方を、現代のライフスタイルにおいて具現化したものと見ることもできる。それはまた、狭義の定番という言葉が意味するものとは一線を画した、時代を重ねてきたマスターピースこそが持っている、進化の力の表れといえそうだ。
AUTHOR
『エスクァイア日本版』(エスクァイア マガジン ジャパン)編集部を経て、『メンズプレシャス』(小学館)などでメンズファッションやデザインプロダクト、カルチャー等の企画を担当。それらの傍ら、紳士靴の雑誌『LAST(ラスト)』を創刊し編集長を務める。現在は『Advanced Time』本紙とオンラインのほか、さまざまなメディアにて、ファッションやライフスタイル分野でエディターまたはライターとして活動している。
STAFF
Writer: Yukihiro Sugawara
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