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遠く離れた国のように思えるアイルランドと日本は、意外にも共通項が多く、豊かな自然素材と卓越した技巧が融合して昇華した「芸術」と「工芸」の境界がない造詣作品が存在する。大阪・関西万博、アイルランドハウス東京(東京・四ッ谷)、ア・ライトハウス・カナタ(東京・西麻布)と、国内3か所で同時に開催中の、アイルランドを代表するアーティスト、ジョセフ・ウォルシュのキュレーションプロジェクト「RINN/輪」で、その魅力を体感しよう。
開幕以来、バラエティーに富んだパビリオンや様々なイベントで、連日、話題に事欠かない大阪・関西万博。外観に特色のある海外パビリオンとして注目を集めているひとつがアイルランドパビリオン。日本の「三つ巴」のような、古代ケルトの文様「トリスケル」をモチーフにしている。地球環境に優しい木材などの資材を用いており、豊かな工芸精神の伝統を感じさせる仕様にシンパシーを感じずにはいられない。そのパピリオンの前で一際、存在感を放っているのがジョセフ・ウォルシュ氏による彫刻「Magnus Rinn」である。
今回、アイルランドパビリオンでアンバサダーを務めたウォルシュ氏は「創造性と人々のつながり」をテーマに自身初となる大規模な屋外彫刻に挑戦。7メートルはあろうかという巨大な作品は、流れるようなシルエットが印象的で、下部はブロンズ、上部は木材を使い、最終的に金箔で覆うことで、木目が浮かび上がるように仕上げられている。緩やかな円環の動きが表しているのは時の流れである。
ウォルシュ氏はアイルランド南部のコーク州出身。15歳の時に隣人からトネリコ材を与えられたことがきっかけで家具の制作に目覚める。以来、木材の自然美を生かした彫刻と家具の境界を行き来する独自の作品を生み出してきた。素材に対する直感的な理解と革新的な技術が生み出す表現豊かなフォルムが評判となり、その作品はアイルランド国立美術館やパリのポンピドゥー・センター、アメリカのメトロポリタン美術館にも収蔵されている。言うまでもなく、現代のアイルランドを代表するアーティストの一人である。
実はこの時期、東京でも彼の作品を堪能することができる。オープンしたばかりのアイルランドハウス東京(大使館新庁舎)では開館記念文化プログラムとして、「RINN/輪 ─ アイルランドと日本を結ぶ『つくる行為』『地域性』そして『時の流れ』」を開催している。
アイルランドと日本、それぞれ6名の合計12名のアーティストが「循環(サーキュラリティ)」という概念を通じて、人々のつながりや場所との関係、過去と未来を織り交ぜた作品を出展。別アーティストによる作品が同じ空間に収まることで、まるでセッションのように共鳴し合う不思議な味わいを体感できる。
遠く離れた国のように思える日本とアイルランド。意外にも共通項が多く、自然素材や技巧を重視し、「芸術」と「工芸」の区分けが他国に比べ、曖昧な歴史があるという。
ウォルシュ氏と共にキュレーターを務めたのはア・ライトハウス・カナタの青山和平氏。ア・ライトハウス・カナタは美の普遍性を提唱し、日本の芸術を世界で再価値化することを目指す国際的現代アートギャラリー。画期的な素材と卓越した技術で一過性の流行では終わらない、もの作りを志すアーティストたちが国内外、30名以上、所属する。
青山氏は家具作家であったウォルシュ氏が生み出す独特な曲線美にいち早く着目した人物。2017年、日本で初めてウォルシュ氏の作品を三重県の椿大神社拝殿で紹介。翌2018年には草月会館でウォルシュ氏の個展を開催し、彫刻家イサム・ノグチの巨大彫刻「天国」とのコラボレーションを実現させた。17年の展示が伝統なら、18年は現代性。そして今回の大阪・東京での連動企画が彼らの集大成となる。
現在、日本国内3か所で同時に展開しているジョセフ・ウォルシュのキュレーションプロジェクト「RINN/輪」。「RINN」とはゲーリック語で「場所」や「地点」を意味する。年輪、車輪、日本語の輪とも似た言葉。
万博、アイルランドハウス東京に加え、最後に紹介するのは西麻布にあるア・ライトハウス・カナタで行われている展覧会『RINN/輪 Part II「Quadrumvirate 四重奏」』。ウォルシュ氏の作品のほか、やはりアイルランドの抽象画家であるショーン・スカリー、そして、日本の抽象彫刻の巨匠である安田侃と深見陶治の4人による作品展示となる。
スカリー氏は現代抽象画家の第一人者。幾何学模様やブロックの構成が特徴で、彼が描いたドローイングを北アイルランドのモーン山脈のふもとにある、1949年創業のテキスタイル・ブランド、モーン・テキスタイルズが表現。アイルランドの石垣を思わせるユニークな共同作品が生まれた。 安田氏が削り、整え、磨き上げた大理石は石でありながら、柔らかささえ感じさせるラインが魅力。日本を代表する陶芸家である深見氏の磁器彫刻は青白磁釉という技術で生まれる、透き通るような淡青色に魅せられる。しなやかな曲線と鋭利な輪郭が融合した無限性に心、奪われる。
それぞれのアーティストの作品でありながら、集うことで魔法が生まれる夢のような空間。現代アートの奥深さに触れ、時間の経過も忘れる。
奇しくも2025年度後期の朝ドラ「ばけばけ」はアイルランド出身である小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の妻せつが主人公。遠いようで実は近い国だったアイルランド。その深い関わり合いに現代アートから触れる、またとない機会である。
参加作家:Joseph Walsh、Sean Scully、安田侃、深見陶治
期間:2025年4月17日(木)~4月30日(水)11:00-18:00 ※最終日のみ、16:00終了
定休日:日曜・月曜・祝祭日
場所:東京都港区西麻布3-24-20 霞町テラス6F ア・ライトハウス・カナタ
TEL:03-5411-2900
参加作家:Joseph Walsh、Sara Flynn、Joe Hogan、Frances Lambe、Deirdre McLoughlin、Sean Scully/Mourne Textiles collaboration、安田侃、深見陶治、岸映子、福本潮子、尾崎悟、横山修
期間:2025年4月17日(木)~5月20日(火) ※火~金(休館日を除く)10:30~12:00および15:00~16:30
※
※事前予約制。詳細はア・ライトハウス・カナタの公式サイトをご確認いただくか、メールにてお問い合わせください。
公式サイト:https://lighthouse-kanata.com
問い合わせ:info@lighthouse-kanata.com
場所:東京都四谷本塩町1-6 アイルランドハウス
主催:アイルランド外務省
企画:ア・ライトハウス・カナタ、ジョセフ・ウォルシュ・スタジオ、アイルランド大使館
公式サイト:https://www.ireland.ie/ja/japan/tokyo/
ジョセフ・ウォルシュ/Joseph Walsh 造形作家。1979年、アイルランド南部のコーク州生まれ。1999年に自身のスタジオと工房を設立し、現在もそこで制作を続けている。正式な美術教育は受けておらず、ヨーロッパ各地のマスタークリエイターを訪ねながら、自らの技術を磨き、木工の深い知識を習得。伝統的な技術を基盤にしつつも、異なる工芸技術を取り入れ、新たな制作方法や形状を生み出し、日本大使館やアイルランド国立博物館をはじめとする、さまざまな宗教施設や公的機関からの重要な委託作品を手がけている。ユニバーシティ・カレッジ・コークからの名誉博士号、アイルランド国立美術館での大型展示、さらにはメトロポリタン美術館やポンピドゥセンターをはじめとする著名な美術館・コレクションに収蔵されるなど、評価されている。
STAFF
Writer: Aki Takayama
Edit: Kyoko Seko
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