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130年の歴史を持つ、英国を代表するメンズラグジュアリーブランドである“ダンヒル”。先日ロンドンにて、新クリエイティブディレクター、サイモン・ホロウェイによる2024年秋冬コレクションが発表された。英国性をベースに、新鮮なバランスを感じさせる装いが展開されていた。
しばしば、クラシックなテーラードスタイルのメンズウエアは、「退屈」と評されることがある。グレーやネイビーのスーツは画一的で、ファッショナブルではないと。果たして本当にそうだろうか。2月のロンドンファッションウィークにて、2024年秋冬コレクションを発表した“ダンヒル”。今季よりクリエイティブディレクターに就任したサイモン・ホロウェイがファーストルックで披露したのは、ライトグレーのスーツに、同色のコート、同色のネクタイを合わせたタイドアップスタイル。それは正統さを感じさせつつも、実に新鮮な存在感だった。その後ランウェイで展開されたのは、英国的なクラシック、テーラードに依拠しながら、アイデアと選択で、見るものに想像力、新しさ、そして楽しさをもたらすようなコレクションだった。
ロンドンの中心部、トラファルガースクエア脇に位置するナショナル・ポートレート・ギャラリーで行われた今回の“ダンヒル”のショー。130年の歴史あるブランドにふさわしい、品格を感じさせる会場である。クリエイティブディレクターのホロウェイは、新たなコレクションの出発点として、“ダンヒル”のアーカイブ、テーラーリングの専門知識、さらにトルーマン・カポーティやフランク・シナトラといった20世紀を彩る文化人に着用されてきた歴史に注目したという。
ホロウェイは今回のコレクションについて次のように語っている。「このコレクションは、私たちの原点と、独自の英国ラグジュアリーハウスへの進化を称えています。“ダンヒル”は、クルマ、スポーツ、文化的なイベントからブラックタイを締める瞬間まで、人生においてより上質なものを楽しむ男性のためにデザインしています。それは、私たちが常にベストを尽くしてきたことです。私たちは、洗練された国際的な精神を再び捉えることができたと思います」
今回発表された“ダンヒル”コレクションで際立っていたのは、オーセンティックなアイテムや素材、ディテールの意外な組み合わせ。例えば、英国のアウトドア用アウターによく見られるハンドウォームポケットや、カヴァートコートの定番意匠であるレイルウェイステッチが、レザーウエアなどで採用されていた。さらにグレンプレイドやハウンズツース、ヘリンボーンといった英国服地におなじみの柄は組み合わせで表現。それはグレンプレイドのスーツとコート、ヘリンボーンのトラウザーズとコートといった具合に、あえて柄を合わせるような着こなしだった。それらは、英国的な要素を、「ちょっとツイストした(ひねった)感覚」でアレンジしたように感じられた。
また、本来はジャケットやコートの上や内側に巻くことが多いマフラーなどが、スカーフ同様にシャツの中にあしらわれているのも通常の使い方をツイストした感覚といえるだろう。やや細めの幅にとられたトラウザーズのターンナップ(ダブル)も印象的で、今回のコレクションの独特なバランスの一例といえるかもしれない。
クリーンなイングリッシュラインと大胆なラペル、軽量なキャンバス(芯地)、ライニングなし、アスレチックなショルダーという要素で構成されたテーラードジャケットは、“ダンヒル”の旗艦店ボードンハウスにちなんで「ボードンシルエット」と名付けられている。ダブルのジャケットはインナーにニットなどを合わせ、フロントボタンを留めないリラックスした着こなしも提案されていた。
そして“ダンヒル”らしさといえばフォーマルウエアの充実。そこでも多彩なルックが見られた。ミッドナイトブルーやブラウンのベルベットスーツ、クリームカラーのフランネルジャケットやスーツ、チェック柄のトラウザーズにカマーバンド、ブルーのプリーツつきシャツなど、こちらもオーセンティックなスタイルや素材を、意外性のある組み合わせでスタイリングしている。さらに足元はスリッポンやスニーカーなどを合わせて、フォーマルながらリラックスしたムードのある着こなしが提案されていた。
メンズウエアは過去10年以上カジュアル化が進んでいるといえるが、今回の“ダンヒル”コレクションでは、そうした状況との理性的なバランスを追求しているように映った。そして連想されたのは、英国紳士のありようを表現するときに使われる「understated」という言葉だった。一見控えめに装うことで、節度や良識を感じさせ、かえってその存在を印象づけること。それは“ダンヒル”でなくては表現できないラグジュアリーの形といえるかもしれない。なお、今回発表されたコレクションは、第一弾が9月に、その後10月と11月に発売される予定。
STAFF
Writer: Yukihiro Sugawara
Editor: Atsuyuki Kamiyama
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