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この4月5日に82歳になるピーター・グリーナウェイ。画家、アートディレクターとしても活動している彼の作品は、世代を超えて、映画ファンからカルト的人気を集めるアート。その威力は年代を経ても、擦り減ることなく、鮮やかに心に刻まれる。世界の映画人も愛してやまない、「鬼才」の名にふさわしいグリーナウェイの傑作の数々がこの度、『ピーター・グリーナウェイ レトロスペクティヴ 美を患った魔術師』と銘打たれ、修正なしで特集上映!
日本でのピーター・グリーナウェイの人気を一気に高めたのが、『コックと泥棒、その妻と愛人』。1986年に開館し、ミニシアターブームを牽引していたシネマライズで、’90年に公開された。ファッションデザイナー、ジャン=ポール・ゴルチエによる豪華絢爛な衣装を見ようと若者たちが押し寄せ、イタリア人シェフ、ジョルジオ・ロカテッリが手がけたとてつもない料理も話題に。さらに「見たら最後。しばらく食事ができなくなる」という噂が広まり、怖いもの見たさか、道玄坂は長蛇の列に。映画はロングランを記録した。
そのゴルチエが「完璧な衣裳と素晴らしい撮影のファンになった! ルイ14世時代の人よりも狂ってる!」と絶賛したのが『英国式庭園殺人事件』である。グリーナウェイを一躍、有名にした初期の名作で、特集上映では公開40周年を記念して本国イギリスで上映された4Kリマスター版でお目見えする。
何より驚くのが、この特集上映、オリジナリティを尊重して、修正なしでの劇場初公開となる。修正版ですら、トラウマ級の破壊力があった作品の数々が無修正とは。ちなみにギリシャ彫刻や宗教画の神々が一糸纏わぬ姿でいることが当然のように、グリーナウェイ作品の登場人物たちは個性的な肉体を躊躇なく、披露する。完全に支配された舞台セットで流れるような台詞回しを口にする俳優たちが時折、晒す素っ裸。美とは何か。醜とは何か。好きとは? 嫌悪とは? 感性に訴えかけてくる芸術鑑賞でありながら、滑稽さ、エロスも感じさせる。
「パンチがあり、視覚的興奮があり、頭脳的なエンタテインメントがある良い映画をつくりたい」とするグリーナウェイ。その遊び心に、ときには映画のストーリーを追うのも忘れて、没頭してしまうほどである。
『英国式庭園殺人事件』に出てくるのは12枚の絵。そこに様々なヒントが隠されており、事件が起きることが示唆される。似たようなタイトルだが、例えば、『オリエント急行殺人事件』のような、わかりやすいトリック回収を期待して、エンターテインメントなサスペンスを観に行く感覚で訪れた人は戸惑うことになるだろう。
グリーナウェイ曰く、「私の最大の関心事は、風景、筋書きの相互作用に関わるアイデア、対称性、ガーデニングというサブテキスト全体に特徴的な事柄、そして台詞とその内容、その形式を使ってできるゲームである」。
作品の中で見られるのは見事なまでの「対称性」。特に双子が主人公の『ZOO』では次々と飛び出してくるシンメトリーに圧倒されずにはいられない。
ウェス・アンダーソン作品とよく比べられるが、映像を見れば、影響を与えていることは明らかだろう。ただし、アンダーソン作品が無機質な印象を与えるのに対し、グリーナウェイはどこまでもウェットで、情念に満ちている。アンダーソンがデザイン画なら、グリーナウェイは油絵といったところか。芸術性の高い映画はその他にも多くの非凡な映画監督、クリエイターたちに影響を与えている。
徹底した構図で知られる『ミッドサマー』のアリ・アスター監督。さらには『哀れなるものたち』で今年のアカデミー賞で作品賞、監督賞をはじめ、衣裳デザイン賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞、美術賞など11部門ノミネートを果たしたヨルゴス・ランティモス監督。エッジの効いた作風で知られる彼もまた、「『女王陛下のお気に入り』は『英国式庭園殺人事件』の存在なしでは誕生しなかった」と断言している。
特集上映で見られるのは『英国式庭園殺人事件 4Kリマスター』『ZOO』のほか、『プロスペローの本』『数に溺れて4Kリマスター』の計4本。
『プロスペローの本』はウィリアム・シェイクスピアの「テンペスト」の映画化で、24冊にわたる魔法の書が登場する復讐劇。衣装はワダエミ。同じ名前の祖母・母・娘の3人の女性が殺人を犯す『数に溺れて4Kリマスター』は1から100までの数字がスクリーンのどこかに隠されているという趣向。
4本の音楽はいずれもマイケル・ナイマンが担当。グリーナウェイのデビュー作を含む彼の大半の作品の音楽を担当したナイマン。独特の旋律と偏執的な映像との親和性は映画界における名コンビ。ちなみに『ZOO』に使われた「赤い帽子の女」はバラエティー番組「料理の鉄人」で印象的に使われていたので、聞き覚えのある人も多いはず。
脳に目に耳に刺激を与え続けるグリーナウェイ作品。’80年代の狂乱を物語る、過激な映像美は唯一無二。当時から吐き気がするほどショッキングだった映画が、4K無修正版となった勁烈さは言うまでもない。
~プロスペローの本│数に溺れて 4Kリマスター│ZOO│英国式庭園殺人事件 4K リマスター~
3月2日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
公式サイト:https://greenaway-retrospective.com/
公式X:@JaihoTheatre
1942年4月5日、英ウェールズのニューポート生まれ。画家としてロンドンで教育を受けた後、1960年代から1970年代にかけて、短編を製作。1982年、長編映画『英国式庭園殺人事件』がヴェネツィア国際映画祭に出品され、批評家から絶賛される。1988年、『数に溺れて』でカンヌ国際映画祭芸術貢献賞受賞し、国際的なフィルムメーカーとしての地位を確立。1996年には『ピーター・グリーナウェイの枕草子』を日本で製作し、シッチェス・カタロニア国際映画祭でグランプリを受賞した。また、美術館でのキュレーターや舞台やオペラの脚本家としても活躍。2014年、第67回英国アカデミー賞で英国映画貢献賞を受賞。
MOVIE WRITER
髙山亜紀
フリーライター。現在は、ELLE digital、花人日和、JBPPRESSにて映画レビュー、映画コラムを連載中。単館からシネコン系まで幅広いジャンルの映画、日本、アジアのドラマをカバー。別名「日本橋の母」。
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