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─――苦しい境遇の中、少年「悠人」(「X」と里枝の息子)が母や自分自身に真摯に向き合い、成長していく姿に心打たれました。作品中、悠人は希望を与えてくれる存在だと思いますが、彼をそのように描いた平野さんの思いをお伺いしたいです。
平野:小説の終わり方というのは、ハッピーエンドかバッドエンドかという二者択一で考えられるものではありません。読後感というのはもっと複雑で、何人かの登場人物の終わり方の印象が総合的に読者の心の中に残るのだと思います。ドストエフスキーの『罪と罰』を読むと非常によくわかるんですが、登場人物が何人もいる中で、悲惨な終わり方の人もいれば希望のある終わり方の人もいて、それらが混ざり合って読後感が形成されています。
『ある男』の読後感を支える上で重要なのは、この少年、悠人だと思いました。読み終えたあとに希望を感じるという意味では、不遇な境遇にいる子供が、自分の力で困難を克服しようとしていて、周りもそれを見守る話にしたかったんです。
悠人は最終的に文学によって立ち直っていきますが、最初はそのような想定をしていませんでした。自分と近すぎる話を書くのはどうかと思いがちですし、作家が文学の素晴らしさを強調するのも手前味噌かなと。ただ、自分自身が十代のときにいろいろ思い悩んだ時、文学との出合いに救われたのはやはり大きな経験で、それは否定的ではないんですね。音楽やスポーツではなく、文学によって成長していく話を書くべきだと最終的には考えました。
文学の良いところは、みんな、自発的に読み始めるんですよね。大人は教えてあげられない。自分でなんとなく手探りしているうちに、自分にとって必要な本を見つけ出して、いろんなことを考え出すのが文学のいいところで、そういう意味でも悠人が文学によって救われるストーリーに決めましたした。
――─映画『ある男』を観たことで、かえって文学でしか表現できない面にも気づかされました。ゲームや他の娯楽がたくさんある中で、文学が読み継がれて行くには、どんなことが大切だと思われますか。
平野:先ほどの話にも繋がりますが、子供でも大人でも、文学は立派だとか読むべきだといくら周りが言ったところで、本人が読む気がなかったら読まないですよね。ゲームするより本を一冊読んで良かったと、読後にその人が自然と思うことが重要です。音楽は短い時間で聴けるから、ちょっと聞いてみようかなという気になるかもしれませんが、本は、よほど本人が読みたいと思わないと読めないし、それが本のいいところだと思います。
強制せず、本を読みたい人だけが読む。そういう意味でいうと、好きな文学作品に出合って、また次の本を読もうと思ったり、この本を良かったという話を聞いて、読んでみたりする。そういうことが自然と繋がっていくのが本来あるべき姿だと思います。
この続きは、平野啓一郎さんと「文学の森」でもっと語り合ってみませんか?
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1975年愛知県・蒲郡市生まれ。北九州市出身。京都大学法学部卒。1999年在学中に文芸誌「新潮」に投稿した『日蝕』により第120回芥川賞を受賞。40万部のベストセラーとなる。以後、一作ごとに変化する多彩なスタイルで、数々の作品を発表し、各国で翻訳紹介されている。2004年には、文化庁の「文化交流使」として一年間、パリに滞在。著書に、小説『葬送』『決壊』『ドーン』『空白を満たしなさい』『透明な迷宮』『マチネの終わりに』『ある男』など、エッセイ・対談集に『私とは何か「個人」から「分人」へ』『「生命力」の行方~変わりゆく世界と分人主義』『考える葦』『「カッコいい」とは何か』など。2019年に映画化された『マチネの終わりに』は、現在、累計60万部超のロングセラーに。『空白を満たしなさい』が原作の連続ドラマが2022年6月よりNHKにて放送。『ある男』を原作とする映画が2022年秋に公開、と映像化が続く。作品は国外でも高く評価され、長編英訳一作目となった『ある男』英訳『A MAN』に続き、『マチネの終わりに』英訳『At the End of the Matinee』も2021年4月刊行。「自由死」が合法化された近未来の日本を舞台に、最新技術を使い、生前そっくりの母を再生させた息子が「自由死」を望んだ母の<本心>を探ろうとする最新長篇『本心』は2021年に単行本刊行。ミステリー的な手法を使いながらも、「死の自己決定」「貧困」「社会の分断」といった、現代人がこれから直面する課題を浮き彫りにし、愛と幸福の真実を問いかける平野文学の到達点。2023年、構想20年の『三島由紀夫論』を遂に刊行。『仮面の告白』『金閣寺』『英霊の声』『豊饒の海』の4作品を精読し、文学者としての作品と天皇主義者としての行動を一元的に論じた。三島の思想と行動の謎を解く、令和の決定版三島論。
STAFF
Photo: Manabu Mizuta
Movie: Cork
Text: Junko Tamura
Editor: Yukiko Nagase,Kyoko Seko
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