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恒例となっている、イタリアの生地ブランド、“ヴィターレ・バルベリス・カノニコ(VBC)”と“ポール・スチュアート”のコラボレーション。今季は英国調の柄や質感ながら、軽く柔らかな特別な生地を使い、高い仕立て技術で知られる“リングヂャケット”が生産を担ったジャケットを展開。“ポール・スチュアート”が追求するアングロアメリカンスタイルは、今日どのような形で具現化したのか。“VBC”の事業開発執行役員であるブルーノ・ランディ氏、“ポール・スチュアート”ディレクター鴨志田康人氏、そして“リングヂャケット”オーナーのマーク・チョー氏、3名のそれぞれの立場から今回のコラボレーションについて語っていただいた。聞き手・司会進行を務めるのは、“VBC”PR&マーケティング・アドバイザーであり、ジャーナリストの長谷川喜美氏。

先日、『ポール・スチュアート青山本店』にて開催されたトークショー。今季“ポール・スチュアート”で展開されている、“ヴィターレ・バルベリス・カノニコ”そして“リングヂャケット”とコラボレーションしたジャケットをきっかけに、それぞれの担い手たちが集った。最初に言葉を発したのは、“ヴィターレ・バルベリス・カノニコ(VBC)”のブルーノ・ランディ氏だった。
ブルーノ・ランディ(以下ブルーノ):今回の3者のコラボレーションは特別な機会であり、私ども“ヴィターレ・バルベリス・カノニコ(VBC)”としても光栄に思っております。“ポール・スチュアート”のクリエイティヴィティと“リングヂャケット”のクラフツマンシップ、そして“VBC”の歴史、それら3つが1つとなって出来上がった特別なジャケットです。そちらをご覧いただきながら、皆さま今日のこの時間をお楽しみいただければと思います。
長谷川喜美(以下長谷川):司会進行を務めます、“VBC”のPRマーケティングアドバイザーの長谷川喜美です。皆さまどうぞよろしくお願いいたします。それではそれぞれの自己紹介を、手短にお願いいたします。まずはブルーノさんから。
ブルーノ:私は本当に長い間、55年間テキスタイル業界におりますので、お話ししたいことがたくさんありますが、あまり長くならないようにしますね。私は自分自身を3つの都市で表現したいと思います。「ビエラ」、「ニューヨーク」そして「東京」です。ビエラは現在私が住んでいる街であり、この仕事を始めるきっかけとなった場所であり、今なお生地への情熱を持ち続けている都市です。ニューヨークは1983年に訪れて以来、多くのことを学びました。特に“ブルックス ブラザーズ”、“ラルフ ローレン”、そして“ポール・スチュアート”という3つのアイコンから影響を受けました。ニューヨークは常に多くのインスピレーションを与え、好奇心をかき立ててくれる街です。そして東京は1989年に訪れて以来、常に多くの発見をしています。それはモダニティ(現代性)とクリエイティヴィティ(創造性)、そしてトラディション、伝統があるからです。私の説明はこんな感じでいかがでしょうか。
長谷川:では次に鴨志田さん、お願いします。
鴨志田康人(以下鴨志田):改めて鴨志田です。よろしくお願いします。“ポール・スチュアート”を始めてからもう10年近くになりますね。新卒で“ビームス”に入り、その後“ユナイテッドアローズ(UA)”に所属して、独立した今も “UA”の仕事をやりつつ“ポール・スチュアート”も担当しています。“リングヂャケット”さんとの付き合いは、“ビームス”にいた時、若い頃からなので40年以上になります。大阪の本社に毎シーズン行って生地を見せていただいたり、工場の生産現場を見せていただいたり、先代の社長、先々代の社長の時代から本当にお長いお付き合いをさせていただいています。“リングヂャケット”さんは本当に器用というか、日本がアメリカンアイビーファッション一色だった頃から服づくりをされていて、その当時はアイビースタイルもしっかり作られていました。僕が伺い始めた80年代はちょうど“ジョルジオ アルマーニ”や“バルバス”など、ミラノ発信のファッションが盛り上がっていた時期で、“リングヂャケット”さんではいち早くそういったスタイルのものも縫い始めて、芯地や素材を研究して取り入れていました。非常にフレキシブルに、常に新しいものを追求されていて、縫製技術が抜群に良い上に、時代の潮流に合わせて様々なスタイルを研究して現在に至っています。クラシコイタリア時代にもナポリの良いものを研究して、手作りの良さや芯地の良さを取り入れて作られていました。常にその時代のエッセンスを取り入れ、本物以上に良いものを作ってしまうところが本当にすごいと思います。今日着ているのも“リングヂャケット”さんのジャケットですが、気持ちが良いのはもちろんのこと、肩回りやネックの吸いつきが素晴らしい。細かく言うと、襟が首に沿っていながら決して立っておらず、滑らかに寝ているのに首に吸いついている。これこそイタリアの仕立ての良さでもあるのですが、それを見事に、既製服として、このクオリティをこの価格帯で作られているのが本当にすごいところです。
また最近“リングヂャケット”のオーナーになられたマークとは付き合いが確か15年になります。彼がまだ若い頃、“ユナイテッドアローズ”のお店でお会いしたのが始まりだと思いますが、非常にセンスが良く、ビジネスセンスも良く、格好いい。そんな彼が社長になって“リングヂャケット”の長い良い歴史を継いでくれるのは、我々にとっても心強い限りです。温かく歓迎したいと思います。おめでとうございます。
マーク・チョー:皆さん、本日はお越しいただきありがとうございます。マーク・チョーと申します。鴨志田さん、とても温かいご紹介をありがとうございます。またブルーノさん、素晴らしいお話をありがとうございます。長谷川さんには事前に話を短くしてほしいと言われましたが、少しそれに反して少し話をさせてください。“ポール・スチュアート”は非常に特別な存在です。日本のお客様はニューヨークのイメージが強いかもしれませんが、シカゴという街に店舗を構えているということもぜひ覚えておいていただきたいと思っています。ニューヨークは非常に着こなしが良くエッジの効いた街ですが、アメリカンスタイルという意味ではシカゴは非常に伝統がある(クラシックな)都市です。
2005年に私は初めてニューヨークの“ポール・スチュアート”のお店に行きました。他の店舗、“ブルックス ブラザーズ”などは、テーブルにディスプレイ、あとはディスプレイケースで見せる手法が多くて、“ポール・スチュアート”のようにラックに服がかかっていることはあまりありませんでした。ただ、“ブルックス ブラザーズ”でもそのスタイルは、今はもうなくなっています。そして“ポール・スチュアート”のお店で感じたのは、すごくリアルだなということでした。例えば“ラルフ ローレン”と比べると、“ラルフ ローレン”も素晴らしくて大好きですが、そちらからは夢や想像という感じを受けるのですが、“ポール・スチュアート”は非常にリアルであると感じました。
ちょっとしたトリビアですが、実は私は大学卒業時、2005年に“ポール・スチュアート”の仕事に応募したのですが、当時は採用されませんでした(笑)。本日ここに座って、鴨志田さんやブルーノさんと共に、この非常に重要なアメリカンスタイルのレガシーを継いでいけることを大変光栄に思っています。“リングヂャケット”の新しいオーナーとしても、この素晴らしい服を“VBC”の素敵な生地を使って、鴨志田さんのアイデアを取り入れて作れることを大変嬉しく思っています。

長谷川:“VBC”、“ポール・スチュアート”、そして“リングヂャケット”、いずれも長い歴史があり、長いお付き合いがありますが、その点についてブルーノさんいかがでしょうか?
ブルーノ:私たちが長く一緒に仕事をしてきたのは、同じ価値観を共有しているからです。品質、美学、そしてクラフツマンシップということに関して、共通の信念を持っています。鴨志田さんと私との間には長い歴史があります。鴨志田さんの生地に対する深い情熱とクリエイティヴィティには敬意を抱いています。そして、日本において私にとって最もお気に入りの会社である“リングヂャケット”にマークがやって来たことを大変喜んでいます。マークの中にも鴨志田さんと同じような情熱やクラフツマンシップ、美学を感じるからです。
今回のコラボレーションは、鴨志田さんによる“ポール・スチュアート”のクリエイティヴィティ、リングヂャケットのクラフツマンシップ、そしてVBCの長い歴史に裏付けられた品質がひとつの製品として見事に融合しています。
長谷川:今回の特別モデルは「アングロアメリカンモデル」と題されていますが、その点について鴨志田さん、ご説明いただけますか?
鴨志田:細かくどこをどう直したということについては、僕の右腕として企画デザインを担当してくれた三陽商会の佐藤さんにご説明いただいた方が良いかもしれません。
長谷川:それでは佐藤さん、お願いいたします。三陽商会で企画デザインを担当されている佐藤さんです。
佐藤浩之:“ポール・スチュアート”デザイナーの佐藤です。本日はありがとうございます。いろんな解釈はあると思いますが、“リングヂャケット”さんのジャケットの特徴は、ナポリスタイルなのかなと、私としては思っています。その品質を前提としつつも、“ポール・スチュアート”のアングロアメリカンスタイル(ブリティッシュ・アメリカン)として表現するにあたり、もう少しブリティッシュナイズした方が良いではないかと考えました。“リングヂャケット”の美しい肩回りや、少し雨降り型の袖付けをマイルドにすることが今回のオーダーの要点になります。肩の傾斜をややなだらかにしてもう少しブリティッシュ寄りの肩傾斜に、雨降り型の袖の凹凸を少し抑えめにしました。それでも全体として“リングヂャケット”特有の柔らかさは非常に良く表現できています。ブリティッシュナイズしつつリングヂャケットの得意な要素を残し、“ポール・スチュアート”のアングロアメリカンテイストを落とし込んだのが今回のジャケットです。
長谷川:マークさんと鴨志田さんに、日本のテーラリングが、結構イタリアに迫ってきているのではという話をお伺いしたいと思ったのですが。テーラリングの歴史や、各国の特徴など踏まえて、いかがでしょうか。
鴨志田:それぞれの解釈は違うと思うけど、マークはどう見てる?
マーク:私が考えるイタリアのテーラリングと日本のテーラリングのいいところ、ということですね。テーラリングは英国から始まり、そこから発展して、イタリアのスタイル、アメリカのスタイルができてきたわけですが……“リングヂャケット”が作っている今回のジャケット、“ポール・スチュアート”のスタイルに寄せているところで私が面白いと思ったのは、“リングヂャケット”が作っているジャケットは元々アメリカのナチュラルショルダーに近いのではないかと感じています。一番の違いは、アメリカンスタイルにはスパラ・カミーチャ(雨振り袖)がない点ではないでしょうか。
ただ、それぞれの国で作られるものの品質に関して話をしだすと、余計な論争を生みそうなのでそれはやめておきましょう。私の、外国人としての視点から見て日本のテーラリングで興味深いのは、身体の各部のカーブに合わせたカット、それを日本人向けにしている点です。日本人のお客様がそうした日本で作られたジャケットを着られる際、イタリア製のジャケットよりも非常に自然にフィットするのではないでしょうか。“リングヂャケット”では長年の研究を重ねた結果、日本のお客様によりフィットしやすいものが作られるようになったのではないかと思います。
長谷川:今回のコラボレーションモデルで使用されているのは、 “VBC”の「4プライ スーパー120s」のもので、いま鴨志田さんも着用されているということで、生地についてブルーノさん教えてください。
ブルーノ:これは特別な組成になっています。通常4プライというと、21マイクロンウールのような太い糸を使った生地になります。それはとても英国的で伝統的な生地感で良いのですが、ややオールドスタイルな面もあります。そこで新しい4プライを作ろうとして誕生したのが今回の生地です。1つの糸を2プライで寄り合わせることで3D効果を生み出し、通常の21マイクロンウールに比べて柔らかでしなやかな糸を2プライ×2、縦糸と横糸で組み合わせることによって、とても空気感を備えた柔らかな表情を生み出しています。「イタリアン・アングロ・アメリカン・ファブリック」といえるでしょう。
鴨志田:見た目はスコティッシュ調で、それはイタリアのメーカーが作る生地ではあり得ることなのですが、触った時もスコティッシュな雰囲気なんです。たとえば“ジョンストンズ”だったり、英国名門の歴史ある生地メーカーと外見や触感は何ら変わらないんですけど、着ると本当に軽い。そのへんの技術の高さは、着てみることでよりわかります。ビエラでこうしたイングリッシュテイストの柄や色を作るメーカーは多いんですけど、やっぱりどこかイタリアっぽいんです。それは個性ともいえますが、“VBC”の良さっていうのは、いつも言うんですけど、愚直にブリティッシュぽさを追求しているところなんです。それでいてヴィエラのメーカーらしい着心地の良さも出す。“VBC”ってすごいなって思います。

鴨志田:ところで、少し話が逸れちゃいますが、最近気になって調べていることがあって……「グランドツアー」って聞いたことあります? 18世紀の……
長谷川:はい、英国の良家の子弟が、イタリアに旅行していたという。
鴨志田:英国貴族の卒業旅行みたいなものですけど、ヨーロッパを1年近くかけて旅するという。18世紀なので当然馬車だったりするわけですが、例えばロンドンからフランスに渡って、カレーから南仏に移動して、南仏から海岸沿いにイタリア入りして、ミラノに行き、ボローニャに入ってローマに向かって、ナポリへ。何のためにそういう旅をしたかというと、教養、文化や芸術を学びとるというのが当時の英国の貴族にとっては大事なことだったので、こぞって行ったらしいのです。そこで、何が言いたいかというと、もともと、ファッションも含めてアーティスティックなことは、大陸の方が圧倒的にセンスが良かったんです。(往年のグランドツアーで)それを学びとって、持ち帰っていたわけですが、いまだにイタリアの方がセンスがいいな、と感じることもありますね。英国の伝統的な柄やテイストをイタリアのしなやかな感性で表現する、そういった関係性は、実は昔も今も変わっていないとも思います。
ブルーノ:私の口からイタリア人の方が(英国人に比べて)センスがいいとはいえないわけですが(笑)、ひとつの事実としては、いまイタリアのファブリックメーカーが非常にいい製品を作っていて、そのクオリティで世界で評価されているわけですが、ブリティッシュファブリックは現状では世界から消えつつあります。イタリアはもともと英国から生地づくりを学んだわけですが、英国はいまだに100年以上前と同じ製造方法を続けていて、イタリアは常に改良を続けて、新しいやり方というのを探し続けて、今に至っているということです。
鴨志田:大陸の方がセンスがいいっていうやや乱暴な言い方をしましたけど、ルーツは英国ですし、変わらない良さも英国の個性なので、それはそれで大好きですし、尊敬もしています。
長谷川:その点について、ぜひマークさんにお伺いしたいですね。さっきから何か言いたげな微妙な顔していますが。この話題についてはどう思いますか。
マーク:以前(英国の)“ドレイクス”のオーナーだった者としては、英国のセンスについてや、英国の生地作りの問題点などを聞くと、ちょっと微妙な気持ちですが、お二人の仰ることはよく分かります。今回の生地は一見非常に英国的ですが、イタリアのイノベーティブな技術やセンスが大いに反映されてて、現代の生活に即した生地となっていて、軽くて着やすくて美しい生地です。ひとつブルーノに言いたいことがあるとすれば、“アーモリー”(編注:マーク氏が経営する香港とNY拠点のセレクトショップ)に今回の生地を先に売ってもらいたかったなと(笑)。もちろん冗談ですが。
長谷川:今回バックグラウンドの異なるお三方が集結しましたが、それぞれ、今後挑戦してみたいことなどをお聞かせください。
ブルーノ:私たちは同じ価値観を共有していますので、やりたいことはたくさんあります。そして“VBC”としてはいま大きな変化の時期にあり、従来の生地を継続する一方で、新しい生地を作っている最中です。そして鴨志田さんとマークさんにはいままでと違う、もっとマルチオケージョンな、様々な状況で着用できるファブリックをお勧めしたいと思っています。
鴨志田:現時点では次についてはまだノーアイデアです。今回の素晴らしい仕上がりにとても満足しているので、“VBC”のこういった優れた生地と“リングヂャケット”の仕立て技術を使った服づくりを、これからも継続していきたいですね。
マーク:私としては、本日は鴨志田さんの素晴らしいビジョンと“VBC”さんの素晴らしい生地、それをサポートしたいという気持ちで参りました。これからも楽しみにしております。
長谷川:みなさま、本日は長い時間ありがとうございました。
AUTHOR
『エスクァイア日本版』(エスクァイア マガジン ジャパン)編集部を経て、『メンズプレシャス』(小学館)などでメンズファッションやデザインプロダクト、カルチャー等の企画を担当。それらの傍ら、紳士靴の雑誌『LAST(ラスト)』を創刊し編集長を務める。現在は『Advanced Time』本紙とオンラインのほか、さまざまなメディアにて、ファッションやライフスタイル分野でエディターまたはライターとして活動している。
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Writer: Yukihiro Sugawara
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