タブロイドマガジンAdvancedTimeをお手元に
先日開催されたパリメンズファッションウィークにて発表された、各メゾン&ブランドのコレクションから、AdvancedTimeが注目すべき動向をピックアップ。次の春夏の傾向を先んじて紹介する。
例年6月中~下旬に開催される、ミラノ&パリのメンズファッションウィーク。次の年の春夏コレクションが発表されるわけだが、まさにこれから夏を迎えようとする気候も相まって、秋冬コレクションのそれとはまた一味違った、独特な盛り上がりを見せる。もっとも今年はヨーロッパを襲う熱波の影響で、ショーの時間をずらしたりなど、いつもとは違ったハードな側面もあったようだ。2月の2026~’27年秋冬ファッションウィークに続き、2027年春夏ファッションウィークから、AdvancedTimeの読者向けに、ピックアップして紹介する。なお、2026~’27年秋冬の記事同様、発表された順番で紹介していく。


“SAINT LAURENT(サンローラン)”のクリエイティブ・ディレクター、アンソニー・ヴァカレロが2027年春夏コレクションで打ち出した男性像からは、ソリッドな印象とともに官能性が感じられた。ショーに併せて発行されたプレスリリースには、「魅惑」という単語が登場する。「誰もあなたを魅惑しようとしていない。そうする必要がないことが魅惑的だからだ」。このコレクションアイデアの前提にあるのは、人と人が惹き合う関係性と、それに伴う装いに関する私たちの原初的な衝動の肯定だろう。いつしか自ら上品に覆い、知性によって読み換えてきた本能の領域、または身体の存在感に、“サンローラン”は構築的なテーラリングと抑揚あるシルエットによって、輪郭をもたらしているようにも感じる。もっともこれは今季に限ったことではなく、ここ数シーズンこのメゾンで追求されてきたことだが、表現はさらに研ぎ澄まされていた。構築的で幅広な肩のラインを持つ3つボタンや1つボタンのジャケットは長めの丈で、それ自体は身体を強く印象づけるものではない。ただ、脚を美しく見せるシルエットのトラウザーズ、シャツやタイなどがなく肌が覗くVゾーンなども相まって、テーラードウエアならではの「男性らしさ」が際立ってくる。さらに今回、足元にはロングノーズで透ける素材を使ったシューズが合わせられていて、挑発的なラインがより明確に表現されている。他方でトラウザーズやニットは身体のラインにフィットしたシルエットも提案されていた。終盤提案されたゴールドカラーのテーラードウエアは、新たなドレスアップの可能性を提案するものといえるだろう。


今回もモンソー公園からほど近い、19世紀末の邸宅にあるシモーネ&チーノ・デル・ドゥーカ財団で開催された“BERLUTI(ベルルッティ)”2027年春夏コレクションのプレゼンテーション。今回のコレクションでは「庭園」をテーマに、ボタニカルなモチーフや色あいが、刺繍やプリント、または同メゾン独自の「パティーヌ(革の着色)」などで表現され、ウエアだけでなくバッグやレザーグッズなどまで幅広く展開されていた。こうしたアイテムは「足音だって、他のひとのとは違って聞こえるだろうさ」または「心で見なければ、よく見えない。肝心なことは目に見えないんだ」といった、サン=テグジュペリの『星の王子さま』の一節を引用しながら、同作から着想されたプロップとともにディスプレイされていた。ちなみに『星の王子さま』の作品世界は、年末にかけて発表される限定コレクションに繋がっていくという。またプレゼンテーションに併せて発表されたルックでは、ボタニカルなモチーフと、同メゾンのアイコニックなアイテムである「フォレスティエール」ジャケットなどとの組み合わせが際立っていた。ゆったりとしたシルエットのトラウザーズや膝丈のパンツと組み合わせているのは、アンラインドの「ロレンツォ」ローファーや、モカステッチのギャザーが印象的なスリップオン「パナッシュ」。エフォートレス感とオーガニックな雰囲気が入り混じった世界観が提示されていた。


今回のパリファッションウィークに大きく立ちはだかったのは、現在も猛威を奮っている暑さだった。“DIOR(ディオール)”はショーのスタートを9時に急遽変更した。そのせいもあってか、朝の光の中、より気怠げなモデルたちの佇まいが、脱力感があるコレクションのムードを倍加したようにも感じられた。“ディオール”2027サマーメンズコレクションは2026~’27年秋冬で取り上げられたポール・ポワレほどフォーカスはされていないものの、マルク・ボアン時代のドロップラペルのジャケットをもとにシフォン素材でつくられたジャケットなど、アーカイヴとの連関を感じさせるスタイルが数多く見られた。クラシックで英国的なテーラードウエアのエレメントも、あちこちに織り込まれている。フロックコートを思わせるダブルのロング丈ジャケット、ハウンズトゥース柄のファンシーツイード、ボウタイ、ピークドラペル&ダブルブレステッドのジャケット、スカーフなどが、ローライズ気味でクッション多めの5ポケット(=ジーンズ)パンツ、さらにはショートパンツなどと組み合わせて展開されていた。そうしたスタイリングは、エフォートレスというよりは、ノンシャラン(=無造作)な感覚を感じさせるものだった。また、ウォーンアウトされた加工を施したデニム生地のショールカラージャケットにブラックトラウザーズ、さらに「ほどけたボウタイ」風のビーズ&エンブロイダリーをあしらったシャツと、花柄エンブロイダリーを配したブラウンスエードチェルシーブーツを組み合わせたスタイルは、今回のコレクションの基調である、エレガンスとノンシャランの共存を、端的に表したルックのようにも感じられた。


今やパリファッションウィークの公式スケジュールの中でも、大きな存在感を示している日本のブランドとデザイナーたち。その一角に今季加わったのが、“SOSHIOTSUKI(ソウシオオツキ)”だった。昨シーズン、フィレンツェのピッティイマジネウォモにて、ショー形式で発表したコレクションが大きな話題となった同ブランド。舞台をパリに移して発表された2027年春夏コレクションでは、その世界観がより繊細なディテールとともに、整えられた印象だった。当初は「日本のサラリーマン」をテーマに服づくりをスタートしたという大月壮士。その感覚はTVドラマ『あぶない刑事』などを着想源にしながら、バブル時代のソフトスーツの着こなしを翻案していくような方向性に行き着いた。そしてフィレンツェでは往年の“ジョルジオ アルマーニ”を引き合いにしつつ、その「巧妙さ」と「新鮮さ」で評価されたのだった。では“ソウシオオツキ”が、アルマーニが70年代後半から80年代にかけて企図した、テーラードウエアの変革の流れを汲むのかといえば、「そうかもしれないが、そうとも限らない」という印象を受ける。確かに、帝王の手がけた服がそうだったように、テーラードは脱構築されつつ(文字通り構造が簡素化されて)、よりゆったりと、より柔らかにつくられている。往時よく言われた「シワの美」も、引き継いでいるように見える。他方で大月は、ブランドのサブタイトルに「JAPANESE TRADITIONS」と掲げている。その語はファッションにおける日本的因習、それをもたらす価値観を指しているのではないだろうか。例えばミリ単位でステッチ幅が決められたアイビースタイル、ベルボトムのデニムと70年代四畳半フォークの組み合わせ、または80年代に活躍した一世風靡セピアのようなスーツの着方。それらはいずれも欧米の装いを「日本的に受容しアレンジ」した結果、導かれたものといえる。アルマーニがもたらし、マーケットを席巻したソフトスーツは、それを着用しオフィス街や六本木を闊歩していた男たちの姿も込みで大月の目には捉えられているのではないか。その光景は日本という「ローカルな価値観」の結果であり、大月はそのこと自体を、現代の、ワールドワイドなファッションのフィールドで、具体化しようとしているように映る。そこに反骨を見るのは、深読みが過ぎるだろうか。今回はフットウェアで“アシックス”と“三陽山長”、コートで“三陽商会(サンヨーコート)”、レザーウエアで“ブラックミーンズ”といった、日本の担い手たちとコラボレーションを行っているが、それもまた日本的なものづくりを「持ち込む」試みなのかもしれない。


実は先月末に“サカイ”のショーを見て以来、ソウル・Ⅱ・ソウルが脳裏で鳴り響いている。80年代後半にUKミュージックシーンを席巻し、「グラウンドビート」として日本でもヒットしたこのサウンドシステムの音楽を、2027年春夏コレクションのランウェイで聴くことになるとは思いもよらなかった。そして、ソウル・Ⅱ・ソウルの音楽のリアル感、音楽とコレクションとの共鳴感に驚かされた。のちにブレイクビーツと呼ばれるリズムとレゲエ・フィルハーモニック・オーケストラによるストリングスの組み合わせは、異なる素材やディテールをマッシュアップするような“サカイ”の服の佇まいと相通じるように感じられる。さらに「Back to life」「Keep on moving」といった、もはやタイトルそのものがメッセージのような楽曲(というかソウル・Ⅱ・ソウルというグループ名からしてメッセージ性が強い)は、世界各地で為政者たちの横暴や管理社会の進行が見られる状況において、より切実な響きを帯びる。それはまたデザイナー阿部千登勢の心情も反映しているのではないか、と思わず勘繰ってしまう。このソウル・Ⅱ・ソウルとのコラボレーションはショーの音楽だけに限らず、ロンドンの「ジ・アフリカ・センター」で彼らが開催していた日曜夜のセッションのアーカイブ写真や彼らの象徴「Funki Dred」などを盛り込んだウエアとしても展開されている。さらに過去ジェイエムウエストンやナイキなどと印象的なコラボレーションを行った“サカイ”だが、本コレクションでは“ビルケンシュトック”と“ブルックスブラザース”とのコラボレーションアイテムを展開している。特に注目したいのはブレザーで、“サカイ”の「ハイブリダイゼーション(ハイブリッド化)」の手法を反映した、ノッチド&ピークドの二重ラペルやワークシャツとの組み合わせは、ブレザーのユニフォーム性に依拠しながらも、まさに「リミックス」された音楽のように、新鮮なバランス、現代的な存在感を生み出していた。
AUTHOR
『エスクァイア日本版』(エスクァイア マガジン ジャパン)編集部を経て、『メンズプレシャス』(小学館)などでメンズファッションやデザインプロダクト、カルチャー等の企画を担当。それらの傍ら、紳士靴の雑誌『LAST(ラスト)』を創刊し編集長を務める。現在は『Advanced Time』本紙とオンラインのほか、さまざまなメディアにて、ファッションやライフスタイル分野でエディターまたはライターとして活動している。
STAFF
Writer: Yukihiro Sugawara
TAGS
『AdvancedTime』は、自由でしなやかに生きるハイエンドな大人達におくる、スペシャルイシュー満載のメディア。
高感度なファッション、カルチャーに溺愛、未知の幅広い教養を求め、今までの人生で積んだ経験、知見を余裕をもって楽しみながら、進化するソーシャルに寄り添いたい。
何かに縛られていた時間から解き放たれつつある世代のライフスタイルを豊かに彩る『AdvancedTime』が発信する情報をさらに充実し、より速やかに、活用できる「AdvancedClub」会員組織を設けました。
「AdvancedClub」会員に登録すると、プレゼント応募情報の一覧、プレミアムな会員限定イベント、ブランドのエクスクルーシブアイテムの紹介など、特別なコンテンツ情報をメールマガジンでお届け致します。更に『AdvancedTime』のタブロイドマガジンのご案内もあり、送付手数料のみをご負担いただくことでお手元で『AdvancedTime』をお楽しみいただけます。
登録は無料です。
一緒に『AdvancedTime』を楽しみましょう!

vol.031

vol.030

vol.029

Special Issue.AdvancedTime×AQ

vol.028

vol.027

Special Issue.AdvancedTime×AQ

vol.026

vol.025

vol.024

vol.023

vol.022

vol.021

vol.020

vol.019

vol.018

vol.017

vol.016

vol.015

vol.014

vol.013

Special Issue.AdvancedTime×HARRY WINSTON

vol.012

vol.011

vol.010

Special Issue.AdvancedTime×GRAFF

vol.009

vol.008

vol.007

vol.006

vol.005

vol.004

vol.003

vol.002

Special Issue.01

vol.001

vol.000
奈良は日本列島の中心?住宅地に忽然と現れたレストランが極上な理由
魂を揺さぶるように歌って踊り舞うシャキーラ。自分がどんな人間なのかを世間に決めさせないで
天才の孤独感と周囲との軋轢。『悪の華』はボードレールの生涯を知ることで、その世界がグッと身近に
変わらないのは反骨精神と自由な遊び心。ジュエリーデザイナー井上寛崇が語る“Hirotaka”のこれまでとこれから
メンズファッションウィークで知る、2027年春夏注目のスタイルとは(パリ編)