マセラティ『グランカブリオ・トロフェオ』が表現した品格あるオープンワールド

ブランドの歴史と哲学を背景にした『贅沢の本質』

「マセラティ」といえば、1914年に北イタリアのエミリア=ロマーニャ州(州都はボローニャ)にある小さな町、モデナで創業し、アルファ ロメオ(1910年設立)と並び称される名門。現在は、多国籍自動車製造会社「ステランティス N.V.」の傘下にあるイタリアの高級スポーツカーブランドとして知られる存在だ。創業以来、F1やスポーツカーレースなど、国内外のレースシーンで活躍すると同時にスポーツカーメーカーとしての知見を生かしてグランドツアラーなどを送り出してきた。その積み重ねてきた歴史の現在進行形を体現している1台が『グランカブリオ・トロフェオ』だ。マセラティならではの価値を構築し、未来へと受け継ぐために、どのような表現をこのオープンモデルに与えているのか? その答えを探すためにステアリングを握った。

LIFESTYLE Apr 21,2026
マセラティ『グランカブリオ・トロフェオ』が表現した品格あるオープンワールド

『グランカブリオ・トロフェオ』の画像
マセラティの伝統が作り出した「グランドツアラー」の上質な華やかさが醸し出すエレガンスを表現。
※撮影車両は2024年型

「見せるスーパーカー」ではなく「使えるスーパーカー」としての立ち位置

時は1970年代後半まで遡る。日本では漫画『サーキットの狼』(作:池沢さとし/現:池沢早人師)をきっかけに空前のスーパーカーブームが巻き起こっていた。少年たちはカメラを片手に町ゆくスーパーカーを追いかけ、テレビでは多くの特番が放映され、まさに一大社会現象だった。そこではランボルギーニ『カウンタック』、フェラーリ『512BB』、ポルシェ『911ターボ』、ランチア『ストラトス』、そして主人公の愛機ロータス『ヨーロッパ』などがセンターポジション的な扱いだったと思う。

そんな折、都内・環状七号線の渋滞の中にマセラティ『ボーラ』を見つけた。中型二輪にまたがっていた身軽さから、すぐに『ボーラ』の真後ろをしばらく付けることにした。おそらくドライバーは「奇妙なやつが後ろの付いたものだ」と迷惑だったかもしれない。だが、こちらとしては、スーパーカーとしての派手さを売りにする主人公たちとは一種違った“エレガントな佇まい”の『ボーラ』に目も心も吸い寄せられていたのだ。

確かにマセラティ初の量産ミドシップレイアウトの高性能スポーツカーという素顔もあったが、だからといって決して非日常の象徴ではなかった。『ボーラ』の主張は「長距離を快適に走り、日常でも使える現実性を有し、品格あるデザインと乗り味」を特徴として、独自の価値観を作り上げていた。つまり現在で言うところのラグジュアリーな“グランドツアラー(GT)”的な要素をもち、スペックではスーパーカーの範疇に入りつつも、そのキャラクターはより“成熟したGT”といった立ち位置だったのだ。

漫画の中での『ボーラ』の扱いはかなり地味であり、スーパーカーブームの中での立ち位置としてはバイプレーヤー的だったと思うが、実は“通好みの一台”として通っていて「知る人ぞ知る存在」として認識されていた。ジョルジェット・ジウジアーロ(イタルデザイン)が手がけたウェッジシェイプの美しさを持ちながら決して過剰な演出ではなく、どこか理知的で落ち着いた印象を与える佇まい。これは、派手さを競うスーパーカー群の中では異彩を放つものであり“通”が選ぶ一台とされることもうなずける。

その個性が、とてもエレガントにして心地よかった。以来、マセラティはつねに意識する存在であり、送り出されてくる個性には独特の魅力が潜んでいた。そして幸いにしてこの思想は、いつの時代もマセラティのクルマ作りの幹のひとつとして受け継がれ、現在の『グラントゥーリズモ』や『グランカブリオ』の存在も輝かせている。

『グランカブリオ・トロフェオ』の画像
クーペモデルの『グラントゥーリズモ』をベースにしたオープンモデル。ルーフが無いだけで華やかさが一気に増し、独自の表情を見せる。
運転席の画像
時速50km/hまで操作が可能なソフトトップを開け放つと、光と風が一気に上質なキャビンを支配する。
タイヤの画像
一見さりげなく見えるブレーキだがフロント6ピストン、リア4ピストンというブレンボのブレーキシステムがパフォーマンスの高さを証明している。

可愛らしさとエレガンスが同居するマセラティならでは仕上がり

ホワイトの塗料にブルーを一滴垂らしたような薄青(うすあお)のボディカラーをまとって佇んでいる『グランカブリオ・トロフェオ』。搭載されるのはF1由来のプレチャンバー燃焼技術を採用した3.0LのV型6気筒ツインターボであり、その最高出力は550psに達し、4WDシステムが組み合わされる。スペックだけを見れば紛うこと無きスーパースポーツだが、なぜか周囲を威圧するような表情ではない。オープン時は約14秒、クローズド時に約16秒で開閉可能なソフトトップを開け放ってはいるが、イタリアンらしい“派手さ”はなく、どちらかと言えば淑やかさと教養を併せ持ったレディ然とした表情。周辺には清々しさのような空気感が漂っていて、派手さと華やかさに明確な一線を引いてくれるオープンカーとも言える。

これこそプレミアムオープンモデルに必要な仕立てだ。決して“自己顕示の道具”としてルーフを開け放つのではなく、“嗜好の一部”としてオープンを楽しんでいるだけ、といったさり気なさが、派手な自己主張においては他の追従を許さないとも言えるイタリアンスポーツカーの中にあって、“通好み”の伝統にも通じる仕上がりになっているのかもしれない。

そして伝統ということで言えば“日常でも使える現実性”も備わり、「グランドツアラー」としての顔もしっかりと見せてくれる。例えば+2と思っていたリアシートは意外なほど快適なスペースを確保していて、上質な居住性を実現している。
550ps、最大トルク650N・mという大パワーは8速ATと4WDという駆動方式を介して路面へと伝えられる、その全天候型のパフォーマンスは、日常的な走りにおいては大きな安心感を生み出す。

だからといって油断していると少々怖い思いをする。ひとたび4つある「ドライブモード」のセレクトダイヤルをデフォルトの「GT」から、ワインディングを走る「スポーツ」や、サーキットでの使用を考慮している「コルサ」(一般路ではお勧めしない)に合わせてしまうと、高い緊張感を求められることになる。が、ボディ剛性はクーペモデルの『グラントゥーリズモ』に匹敵するほどのがっちり感を実現しているので、安定感のあるスポーツ走行を味わうことが出来る。そんなお転婆な一面に、エレガントでお淑やかな佇まいが合わさることになるのだから、どこまでも一緒に走りたくなる。まさにGTとしての面目躍如である。

フロントシートの画像
インテリアカラーは「アイス」と名付けられている仕様。フロントシートには首回りの温風が吹き出す機能が備わっている。ロングドライブも快適にこなせるシートは良好な座り心地。
リアシートの画像
+2といったレベル以上の居住性を実現しているリアシート。身長170cm前後の乗員なら窮屈さはあまり感じないと思う。
トランクの画像
ソフトトップの格納を考慮しながら、131~172Lという荷室容量を実現。2人乗車であればリアシートのスペースとともに十分な実用性を実現している。
エンジンの画像
「トロフェオ」(写真)には最高出力550ps、0-100km/h加速3.6秒というパフォーマンスのエンジンを搭載。この他にクーペモデルと同じく最高出力490psの仕様も用意されている。
4種のドライブモードを選択できるダイヤルの画像
4種のドライブモードを選択できるダイヤルはステアリングホイールのスポーク下部に備わっている。モードごとにエンジン、変速タイミング、エアサスの設定が変わる。
ソフトトップを閉めた状態の画像
日常的にはクローズドで走行することが多いことを考えると、オープン時以上に重要な意味をもつソフトトップを閉めた状態のスタイル。伸びやかで破綻がないサイドスタイルを実現している。

走りが体に馴染んできた後、駐車場に止めた『トロフェオ』を見つめていた。すると不意に、ある映画の主人公を思い出した。永遠の名作『ローマの休日』でオードリー・ヘプバーンが演じた「アン王女」だ。上品にして純粋な少女のような可愛らしさと淑女のようなエレガンスが同居しているアン王女は、永遠のマドンナとして今もって憧れの象徴的存在だ。ひょっとして『グランカブリオ・トロフェオ』もそんな存在なのかもしれない、と感じた瞬間だった。


主要諸元

マセラティ グランカブリオ トロフェオ
全長×全幅×全高4,966×1,957×1,365mm
ホイールベース2,929mm
車両重量1,970kg
駆動方式4輪駆動
エンジン水冷V型6気筒DOHCツインターボ 2,992cc
最高出力404kW(550ps)/6,500rpm
最大トルク650N・m/3,000rpm
車両本体価格2,915万円~(税込み/2026年モデル

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