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雪国はもちろんのこと、年に数度の積雪を経験するエリアの人たちにとって、もし「1年に1セットのタイヤ」で過ごせるとしたら、どれほどストレスは軽減で来るだろうか? そんな要望に答えるようにして登場したのが、夏タイヤと冬タイヤの性能を両立した「オールシーズンタイヤ」。一方で、その“全方位”ともいえる性能については“中途半端さ”のようなものが、つねにつきまとっていた。夏タイヤとしても、さらに肝心の冬タイヤとしても、少なからずパフォーマンスには“物足りなさ”というストレスを伴っていたのだ。しかし、そんな適応力にとってのネガティブ要素を“状況によってゴムが変化する”という新技術「アクティブトレッド」によって克服したダンロップ『シンクロウェザー』が登場。もしそれが事実であれば、まさにオールシーズンタイヤの理想形だが……。その実力を確認するために、冬のグランドツーリングへと走り出した。

初代『フェアレディZ(S30Z)』のデザイナーとして知られる松尾良彦さん(2020年没/享年86歳)と「旅の極意」について話したことがあった。すると松尾さんは「まず大前提として“夏は南へ、冬は北へ”だと思います。避暑・避寒とは真逆の考え方というか、それこそ旅の醍醐味だと思いますね」と言った。スッと納得できた。そこで「では『Z』にスタッドレスを履かせて真冬の宗谷岬を目指すなんてどうですか?」と話を振った。すると「もちろん雪道はいいんですが、ルートの半分以上はドライになるかもしれませんからね。そこでスタッドレスというのでは少々ストレスが……」と松尾さん。
確かにスタッドレスタイヤは「氷上」「深い圧雪」「長期間の低温環境」といった“冬だけ・厳冬のみ”に性能を全振りしたタイヤである。当然ながら気温が高い時期やドライ路面でドライ・ウェット性能や摩耗性能は犠牲になりやすくなる。役割も設計思想も夏用タイヤとは異なり、装着期間の見極めを誤ると「安全性も経済性も下がる」という弱点を持っている。これが松尾さんのグランドツーリングにとっての“不都合”だったわけだ。
実はこの松尾さんとのやりとりを思い出したのはダンロップ(住友ゴム工業)のオールシーズンタイヤ『シンクロウェザー』が登場し、話題になったことがきっかけだった。
このタイヤの開発のきっかけは「夏も冬も高い性能をマルチに発揮するタイヤを作ってみないか!」という「理想論とも言える開発指令だった」と、ダンロップのエンジニアから聞いていた。では、なぜ無理スジとも言える要求だったのか?
本来、「夏タイヤ」はドライ路面で最良の性能を発揮するようにゴムの材質を開発し、その上で、雨天での排水性の向上やロードノイズを抑え、雪道以外を快適に走行できるように仕上げてある。ところがドライ路面で実力を発揮するゴムは、外気温や路面温度が下がると硬くなり、路面とのコンタクト力(摩擦係数)が下がる。さらにタイヤのトレッド面(路面と接触する部分)に刻まれたトレッドパターン(溝・切り込み)は、積雪路や凍結路をガッチリと掴むような構造になっていない。だから雪道や凍結路ではチェーンなどの滑り止めを装着することが必須になる。ちなみにノーマルタイヤのままで雪道や凍結路を走行することは「沖縄県を除く46都道府県の条例」に反する行為となり、道路交通法違反として罰金も科される。
一方、冬道のスペシャリストである「スタッドレスタイヤ」は、積雪路や凍結路などを走行するために、ゴムの材質からトレッドパターンまで、冬の道のために開発された専用タイヤだ。圧雪路から凍結路まで、しっかりとコンタクト力を発揮するように、低温でも路面への密着に必要な柔軟さを失わないゴムを採用。さらに独特のトレッドパターンにすることで路面(雪面)との接地面積を増やしたり、深く、細かく刻まれた溝や切り込み(サイプ)で雪面や凍結面をひっかくようにして路面とのコンタクト力を向上させる設計になっている。雪国では「冬の必須アイテム」であり、11月下旬あたりから、4月初旬ぐらいまでの半年ほどは、スタッドレスタイヤを装着して過ごす。
ちなみに全域が「豪雪地帯」に指定されているのは「北海道・青森・岩手・秋田・山形・新潟・富山・石川・福井・鳥取」であり、こちらの方面への走行はタイヤチェーンなどの滑り止めを携行するか、スタッドレスタイヤなどの雪道に対応しているタイヤを装着することが求められる。報道などで突然の降雪で立ち往生する車両が頻繁に取り上げられているが、すべて違反行為なので留意したい。



さて雪道など、冬の道で威力を発揮するゴム素材や雪道専用のトレッドパターンだが、冬以外のドライ路面では、むしろ走行性能を落とすことになる。気温が上がるにつれて柔らかくなっていくゴムは剛性感が低くなり、コーナリングで腰砕け感やステアリング操作に対するレスポンスが悪くなる。さらに雪面をしっかりと掴むための独特のトレッドパターンは、雨天時の排水性が悪く、突然の豪雨などでハイドロプレーニング現象が起きやすくなったり、ブレーキング時の制動距離が伸びたりする。
前述の松尾さんが口にしたスタッドレスタイヤが抱えるドライ路面での懸念とは、こうしたウイークポイントのことだ。一般路はもちろん、ゲリラ豪雨時の高速走行では、とくに注意が必要で、速度も抑え気味に走ることが求められる。これではせっかくの『Z』の走りの楽しさも半減というわけだから、当然だろう。
しかし、そうした懸念に対して“通年使用できる”という特徴によって応えたのが「オールシーズンタイヤ」だった。最近では装着率を向上させてきていて「日本のタイヤ市場の動向」をみると、オールシーズンタイヤは2024年時点で前年比の売上が約11%増加している。つまり確実な成長を見せていて、2030年にかけての年平均成長率(CAGR)は約5%という予想もある。
一方でいくつかの弱点も指摘されていた。「夏タイヤとしては、やはりウェット性能に不安がある」とか「乗り心地が少し堅い」などなど。そして肝心の冬タイヤとしては「圧雪路はなんとかなるけど、氷上性能に不安」と言った評価だ。厳しい言い方をすれば全方位で“中途半端さ”がつきまとっていた。
そんな状況の中、24年の秋に「オールシーズンタイヤの概念を覆す」と、その特異性を主張してデビューしたのがダンロップの『シンクロウェザー』。従来のオールシーズンタイヤとは違い「夏タイヤとスタッドレスタイヤの両方の特性を高次元で融合させた」と謳っての登場だった。最大の特徴は、路面状況や温度に応じてゴムの性質が変化する「アクティブトレッド」技術。ウェット路面では水に反応してゴム表面が柔らかくなる“水スイッチ”が作動し、高い排水性とグリップ力を発揮。一方、低温時には“温度スイッチ”が働き、スタッドレスタイヤに近い剛性とグリップ特性へと変化する。
この「環境に同期して性能が変わる」という思想こそが『シンクロウェザー』の最大の売り。結果として冬用タイヤの国際基準である米国試験材料協会(ASTM)規格を満たしていることを証明した「スリーピーク・マウンテン・スノーフレークマーク(以下、スノーフレークマーク)」を獲得。もちろん日本でも冬タイヤ規制にも対応する。同時に国際的な氷上性能テストにおいて「氷上性能が確認できた証」となる「アイスグリップシンボル」が与えられた。これはオールシーズンタイヤの弱点と言われていた「氷上性能」において一定の合格点を得た証といえる。
まさに理想論を実現したオールシーズンタイヤということになるのだが、果たしてその実力は? 日本の冬道での走りを確認するために『シンクロウェザー』を装着し、北を目指した。






もしスタッドレスタイヤとオールシーズンタイヤで迷った場合には、自分の冬の過ごし方を分析してみる。例えば雪国や以下の3項目のエリア
【1】頻繁に3度以下になる地域
【2】凍結路面や圧雪が多い地域
【3】雪が積もりやすい地域
に居住しているとか、仕事やレジャーなどで、頻繁に積雪地域を走るようであれば「スタッドレスタイヤ」をお勧めする。
一方、雪国と呼ばれるエリアの隣接県や東京や名古屋、大阪、そして福岡などの大都市圏で、レジャーなどでそれなりに雪国に行く人。さらに箱根や関ヶ原などで目にする突然の降雪によるリスクを避けたいというなら『シンクロウェザー』でも対応できると思う。
(Part2 に続く)
AUTHOR
男性週刊誌、ライフスタイル誌、夕刊紙など一般誌を中心に、2輪から4輪まで“いかに乗り物のある生活を楽しむか”をテーマに、多くの情報を発信・提案を行う自動車ライター。著書「クルマ界歴史の証人」(講談社刊)。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。
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Writer: Atsushi Sato
Editor: Ryo Usami
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