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グループ内のポルシェと共同開発した新世代のEVプラットフォーム「PPE(プレミアム・プラットフォーム・エレクトリック)」を、アウディとして初採用した「Q6 e-tron」。そのサイズは全長4,770mm×全幅1,940mm×全高1695mmであり、ミドルサイズSUVという強力なライバルがひしめく市場に「次世代のモビリティをしっかりと見据えて開発した新感覚BEV」として参入してきた。ここでアウディならではのプレミアム体験を、どのような魅力をユーザーに披露してくれるのだろうか?

エネルギー転換(脱炭素化)に関する戦略的な分析をまとめた「ブルームバーグNEFリポート」によれば、2025年の世界におけるBEV(バッテリーEV)とPHEV(プラグインハイブリッド)の販売台数は、前年比で約25%増加していて、その台数は約2,200万台に達するという分析がある。この数字には当然、全世界のBEV販売のうち、約3分の2を占めるといわれる中国の数字が含まれることや、エンジンを搭載しているPHEVも含まれていることを承知しておくべきだ。
確かにリチウムイオン電池を始めとした生産コストやBEV導入コストは相対的に下がっている。そして補助金などのインセンティブのサポートもあり、欧州や中国のBEVメーカーは世界を牽引してきた。当然ながらメディアの論調も人々の嗜好も“BEV化”へと移りつつあった。
だが一方で、徐々にではあるが圧倒的正義であったはずのBEV化の成長ペースに鈍化の兆しが見えてきた。充電インフラにまつわる実用性の問題、補助金などのインセンティブの減額、そして「本質的な脱炭素化、カーボンニュートラルとはいかなるものなのか?」などと、色々な議論が行われている。結果としてEV化計画をリードしてきた欧州は、一部の国やメーカーの政策変更により、プランの延期や緩和の動きが見られる。
例えばEUは2035年以降も環境に配慮した合成燃料を使用する一部のエンジン車の販売を容認する方針に転換。イギリスはガソリン・ディーゼル車の新車販売禁止時期を2030年から35年へ、延期している。ドイツのプレミアムブランドなどではマーケットの事情に合わせつつ、ガソリン(48VマイルドHV)やPHEVも継続投入し、BEV以外の選択肢をしばらくは併売するところは多い。
別に反BEVを唱えているわけではない。だが地球環境を守るために“脱炭素には一刻の猶予もあってはいけない”といったような、ある種のバイアスが働いたことによって焦燥感が急激に頭をもたげてきたのかもしれない。その上で欧州や中国が一気にBEV化へと急加速し、同時に世の中も賞賛に似た言葉を送って後押しをしたハズだ。だが今、その世界的な潮流に変化が現れたわけだ。
「少し、急ぎすぎたのではないか?」。開発や普及に一定程度の時間を要するという現実を見逃しているわけではないだろうが、確実に進化するには現実をもう一度俯瞰する必要があるのではないだろうか?
こうした現状の只中にいると「セイコーグループ」の創業者であり、「東洋の時計王」と称された「服部金太郎」氏のある名言が浮かび、心の中で反芻している。
「急ぐな、休むな」。
あるとき服部氏は「簡単で要領を得たる教訓はないか」と聞かれたので「そこで僕は『急ぐな、休むな』と言った。急げば必ず休まなければならぬ。休まず進まんとすれば、急いではならぬ」と言ったという。まさに圧倒的真実だと思う。
この先、エンジンは、自らも燃焼効率等の性能を向上させながら、HEV(ハイブリッド)やPHEV(プラグインハイブリッド)のシステムの一部となり、そしていつかはモーターへとパワーソースの主役の座は移るだろう。だが、それはここ5年や10年では、やはり適わないという現実が見えている。だからこそ『急ぐな、休むな』という服部金太郎の言葉が重量感を持って響いてくる。

ではここに来て、少し方向転換をすることになった各メーカーだが、苦慮しつつも、その歩みを止めてはいない。ドイツのプレミアムブランドを見ても、メルセデス・ベンツの「EQ」シリーズやBMWの「i」シリーズはバリエーションを増やしつつ選択枝を充実させている。
そしてアウディはといえば、グループ内のポルシェと共同で新開発したEV専用のプレミアム・プラットフォーム・エレクトリック(以下、PPE)を市販車で初採用した意欲作の「Q6 e-tron」を2024年3月に発表。それから約1年後の2025年3月に日本にも上陸を果たしている。アウディならではの洗練されたクリーンなデザインとスポーティな走りのパフォーマンス、そして日常での使いやすさなどを融合させたBEVを送り出し、その魅力を確立している。この点においては国産メーカーも十分に状況を把握しつつ開発を進めていると信じている。
アウディにとって「e-tron」とは電動化の象徴的ブランド。そのラインナップを簡単に整理するとポルシェ・タイカンと共通プラットフォームを持つ電動スポーツGTの「e-tron GT」シリーズと「A6 e-tron」シリーズ。そして従来からあるEセグメントのSUV「Q8 e-tron」シリーズとコンパクトSUVの「Q4 e-tron」シリーズ、その間を埋めるようにしてPPEを採用したミドルサイズSUV「Q6 e-tron」シリーズが登場となったわけだ。これによりSUVやセダン、アバント(ワゴン)、クーペのような美しいデザインとハッチバックの実用性を兼ね備えたスポーツバック、さらにはハイパフォーマンスのスポーツといった領域をカバーするように“e-tron”の名を冠したモデルが用意されたことになる。
では「ポルシェ・マカン」と共通のプラットフォーム、PPEを採用して「アウディの新世代BEVの尖兵」となった「Q6 e-tron」とは、どんな個性を持ったBEVなのだろうか?
ボディのサイズを見ると全長4,770mm×全幅1,940mm×全高1695mmであり、当然ながらベースを同じくするポルシェ・マカン・エレクトリックと同クラス。他にもレクサスRZや日産アリア、メルセデス・ベンツEQC、BMWの新型iX3、テスラ・モデルYなどの人気モデルがひしめく激戦マーケット。その中でPPEを採用したという技術的なアドバンテージは正直なところ、一般ユーザーにはそれほど響かない可能性もある。
そこで「Q6 e-tron」ならではの、というかアウディならではの個性となり得るポイントを探してみる。まずは思い浮かぶのは“らしい佇まい”。これまで見慣れたアウディのエンジン車と比べるとフロントのオーバーハングが短くなったことと、BEVならではの長いホイールベース、そしてフロントフードも長めに見えることから、FR(後輪駆動)モデルのような伸びやかさを感じる。同じPPEをベースにしているポルシェ・マカン・エレクトリックの“フロントフードは低く短め”というフォルムとは明らかに意図が違うデザインだ。もちろんどちらが良い悪いではない。ポルシェは自らのスポーティなブランドイメージを大切にした事によって完成したデザインであり、アウディは「エレガントでスマート、都会的なデザイン」といったイメージに沿ったことで生まれたフォルムだと思う。
インテリアを含めた居住性や実用面をみると、広めの室内はゆったりとしていて圧迫感などはほとんど感じない。さらに十分なトランク容量(リヤシート折りたたみで拡張可)は使いやすく、SUVとしての日常使いでその実用性の高さを十分に感じ取ることができるだろう。また新素材を使ったシートや洗練された内装で“高級EV”的な雰囲気に溢れている。
そんな居心地の良さを感じつつ「Q6 e-tron quattro」をゆったりとスタートさせた。静かでスムーズさが際立つ走り出し、さらにトルクフルな加速感を持って流れに乗る。そのすべてが静かさとスムーズさと、同時に程よい力強さを終始感じながら流れるようなドライブが続く。もちろん路面の繋ぎ目などでは重量(2.4t)を支えるためにセッティングされたサスペンションの硬さを感じる場面もある。だが不快というレベルではなく、むしろ絶妙に味つけされたサスペンションと、新世代のPPEというプラットフォームのレベルの高さを感じるのだ。
そしてこのクワトロシステム(4WD)は低負荷時にFRで走行し、急加速などの高負荷時に前輪へと、モーターならではの瞬時のトルク配分が行われる。そのスムーズな切り替わりによって、スポーティな走行も実に穏やかな気分で走ることが可能だ。



BEVならではの静けさとトルク感と、SUVらしい安定感と実用性、そこから生まれる「プレミアム体験」を実現したと言えるほどの出来映えを示した「Q6 e-tron」。アウディが次世代のモビリティをしっかり見据えた上で「EVとSUVとプレミアム性」の融合を追求した本気のBEVだと言うことが理解できる。
こうして良く出来たBEVがあるとすれば、残る懸念はと言えば充電インフラの現実。だが、その点においてもアウディ正規販売店120拠点では、150kWの急速充電が可能。また今年の4月にオープンした「Audi charging station 厚木」では最大出力150kWの急速充電器2基4口を設置し、同時に4台の急速充電が可能となっている。
またアウディ、フォルクスワーゲン、ポルシェのEVオーナー向けに提供されている「プレミアムチャージングアライアンス(PCA)」では90kWから150kW級出力のCHAdeMO規格急速充電器が利用できる。さらにそのネットワークにローミングパートナーとしてレクサスが業務提携を行うことになり、互いのオーナーがそれぞれの充電施設を利用できるようになる。
こうして充電インフラの充実と高出力充電による充電時間の短縮があれば、BEVのネガティブ要素は軽減される。
それにしても、減速基調となどと言われながらも、欧州ブランドは今もBEVに対しての知見を日々積み重ねている。その最新の結果のひとつとして「AudiQ6 e-tron」という魅力的なBEVが存在していることが理解できた。そして今、「服部金太郎」氏の言葉を、もうひとつ思い出した。
「良品は必ず需要者の愛顧を得る」。




主要諸元 | アウディQ6 e-tronクワトロ アドバンスト |
| 全長×全幅×全高 | 4,770×1,940×1,695㎜ |
| 車両重量 | 2,450kg |
| 駆動方式 | 4WD |
| モーター | 交流誘導電動機(フロント)・交流同期電動機(リア) |
| フロントモーター最大トルク | 275N・m(28.0kgf・m) |
| リアモーター最大トルク | 580N・m(59.1kgf・m) |
| システム最高出力 | 387PS(285kW) |
| WLTCモード一充電航続距離 | 644km |
| 車両本体価格 | 998万円(税込み)~ |
AUTHOR
男性週刊誌、ライフスタイル誌、夕刊紙など一般誌を中心に、2輪から4輪まで“いかに乗り物のある生活を楽しむか”をテーマに、多くの情報を発信・提案を行う自動車ライター。著書「クルマ界歴史の証人」(講談社刊)。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。
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