今まで知らなかった白身の魚の味わいに開眼する「ねんじり亭」

旬なる美食の郷、富山市・岩瀬の口福と眼福Vol.4

富山県、岩瀬地区の人気店の記事を何回かに分けて掲載したが、シリーズ最後となる今回は2023年9月に開業した「ねんじり亭」をご紹介。魚津で長年人気の居酒屋だった店が、スタイルを変え、滋味を味わい尽くす店として、客人をもてなしている。

LIFESTYLE Sep 24,2024
今まで知らなかった白身の魚の味わいに開眼する「ねんじり亭」

富山県の魚津駅から程近く、「ねんじり亭」という居酒屋があった。

使うのは魚津前の魚のみ。昼間は鮮度抜群の魚を使った焼き魚定食を目当てに人が集まり、夜は客人たちが酒を飲みながら、地物の刺身や丁寧に仕込まれた一品料理など思い思いに好きなつまみを楽しむ店だった。

店主の目利きで仕入れたとびきりの魚料理が評判となり、地元の人のみならず、県外からも訪れる繁盛店となっていった。

三浦幸雄氏の画像
オーナーシェフ・三浦幸雄氏。

そんな人気店の店主、三浦幸雄氏が魚津の自身の店を閉店し、2023年に富山の岩瀬に移転。きっかけは岩瀬の町作りの中心人物「桝田酒造」の桝田隆一郎氏とのふとした会話からだった。

コロナ禍を経て、いろいろと思うところがあった三浦氏。30年以上友人関係だった桝田氏と話をして、いわば“阿吽の呼吸”でごく自然に“一緒に仕事をするのもいいかな”と移転を心に決めたという。

店の入り口の画像
美しい木の格子戸が店の入り口。

新店舗は、古民家を改装した美しい一軒家。魚津の店とは全く違う雰囲気で心機一転再スタートを切った。

看板はないが、木造の美しい佇まいの扉を開けると８席のカウンターが客人を迎える。居酒屋とはまったく違う、日本料理屋の凛とした空気が流れている。

6点盛りの画像
6点盛り（紅しぐれ、ホタルイカ、なすの揚げ浸し、サクラ、南蛮漬け、ブロッコリーの塩麹、ソイの卵）。

酒は「桝田酒造」満寿泉中心のラインナップ。まずはおすすめの酒を一合頼んで料理を待つと、最初にカラフルな季節を感じる前菜が登場する。なかには、ソイの卵など珍しい酒の魚も盛り込まれている。

岩瀬に移転しても、魚は長年親しんできた魚津港から。港を訪れ、自分の目利きで生きている魚を仕入れて自身で神経〆をするのは三浦氏のこだわりだ。

魚を斬りつける様子の画像
カウンターの目の前で、魚を斬りつける様子を見ることができる。

この店のクライマックスは、なんといってもこの前菜の後にやってくる地魚の刺身だろう。これを目当てに、全国から人がやってくる。

刺身といえばまぐろなども入る“刺盛り”を想像するかもしれないが、さにあらず。

魚津時代から三浦氏のスタイルは、種類ごとの魚の味わいの違いを知って欲しいとその日獲れたての地魚をずらりと10種類以上一枚板の上に盛り込むものだった。

ここではスタイルを変え、安田泰三氏の美しいガラスの器に一枚ずつ切られて登場する。

料理の画像
透き通るような美しい魚の身と、安田泰三氏のガラスが見事に調和。

この日、登場したのはなんと17種類！

 ざっとその魚種を書き出してみよう。

アジにヒラメ、ホウボウ、マトウダイ、クロダイ、マダイ、クロソイ、コブダイ、ブリ。キツネメバルにイソカサゴ、イシダイ、ウマヅラハギ、ウマヅラハギの肝、黒メバル、メダイ、トヤマエビ。

聞き馴染みのあるものから、どんな味か想像もつかないものまでが次々と登場する。地魚のため、白身の魚が中心だ。

三浦氏曰く「まずは、塩で食べて欲しい」とのことで、ガラス皿に添えられている塩で刺身を順番に食べてみると、なるほど、魚種の違いで食感、香り、旨みなどがまったく違うことに驚く。

キツネメバルの焼き物の画像
キツネメバルの焼き物。

白身の魚をこうして食べ比べられるのは、富山湾が育む魚種の豊富さ、そして獲ってすぐに〆るという鮮度の良さがあるからこそだ。

刺身がひと通り出たところで、焼き物や天ぷら、一品料理が登場するのだが、これもまたシンプルだが旨い。

この日の焼き物はキツネメバル。聞き慣れない魚だったがふっくらと焼き上げられた身は、筋肉質なしっかりとした歯応えもありつつ、脂が乗っている。

越中バイ熾火焼きの画像
鮨「越中バイ熾火焼き」。

続いて登場した、この日のてんぷらはゲンゲ。

ゲンゲとは水深200m以深に住む深海魚で、ゼラチン質の多いトロリとした食感の魚。偶然網にかかったときにしか出会えず、傷みやすく、産地以外で流通することはほぼないことから「幻魚」（ゲンゲ）と名付けられたという。まさに日本三大深湾の一つである富山湾ならではのご馳走だ。

魚を心から愛する三浦氏の話を聞きながら、実にバラエティに富んだ魚の数々に舌鼓を打つひとときは、ここでしか味わえない。「ねんじり亭」で食事をした後には、富山湾の海の恵がどれだけ豊かなのか感じることができるだろう。

STAFF

Writer: Misa Yamaji
Editor&Photo: Atsuyuki Kamiyama

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