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本阿弥光悦縁の京都・鷹峯は、京都タワーの高さとほぼ同じ標高に位置する。ここに広大な庭園を擁するアマン京都には、国内外から注目される日本料理「鷹庵」がある。京料理とは趣きを異にする、土地の素材を生かした料理の真髄に迫る。
京都・鷹峯の地は、17世紀に本阿弥光悦が芸術村を開き、世界のアートシーンに影響を与えた琳派の源流を築いた場所。ここに佇むアマン京都の日本料理「鷹庵」の総料理長を務めるのは、金沢の料亭「銭屋」の2代目主人でもある高木慎一朗さん。20代半ばからという遅い料理修業のスタートにもかかわらず、「銭屋」をミシュラン2つ星に導いた。
アマン京都の「鷹庵」で出迎えてくれた総料理長の高木慎一朗さんは、ずいぶんと背が高く、丸坊主でガッチリしていた。白衣を着ていなければ、少々近寄りがたいかもしれない。聞けば、大学時代には体育会に所属して剣道をしていたそうだ。
……ということは、料理人としての修業は大学卒業後となるのか。
「センター試験(共通テスト)の日は、どうしても行きたかったコンサートのチケット販売日。なかなか繋がらない予約の電話をして午後から行ったんで、一浪しています(笑)。料理修業を始めた時は、すでに24歳になっていましたね」
なかなかのヤンチャぶりである。そもそも、親が金沢でスタートさせた料亭「銭屋」を継ぐ気などなかったのだという。高校時代に留学を経験し、東京の大学に進学してからも、アメリカの土地を夢見て留学するつもりでいた。「銭屋」は、弟が継いでくれるから大丈夫。そう思っていたのに、あまりに早い父親の急死により、事態が変わった。
大学卒業後、望んだというより流れにのって、「京都吉兆」で修業をスタートさせる。自分より年下の先輩たちに囲まれた厨房での日々。約束だった2年間の修業を終えて金沢に戻り、「銭屋料理長」の肩書きを得てしまったとき。そうした立場で働く日々はどんな思いだったのだろうか。
「あの頃は、一番酒を飲んでいました」
やるせない思いの中でも日々厨房に立ち、包丁と鍋を握るうちに、料理人としての成長を自分でも感じていったという。一通りできるようになったと実感が湧いた2005年頃から、海外への憧れが再燃したそうだ。タイミングよく、海を渡って料理する仕事の話も舞い込むようになり、積極的に外国で日本料理を披露するようになる。
かくして、国際感覚を身につけた日本料理人としての評判を上げていった。
振り返れば、海外からの客が多いアマン京都の「鷹庵」総料理長に相応しい経験を積み、視野を広げてきたことになる。「鷹庵」での料理について、
「当然、金沢の“銭屋”とは全く違う料理です。“京料理”も作りません。やっているのは、この土地でなければならない料理。そうでないと意味がないでしょう」
ときっぱり。ここ「鷹庵」のある鷹峯は、本阿弥光悦が芸術村を築いた地だ。軸を持ちつつもさまざまな分野と手法に大胆にチャレンジした光悦の心を、高木さんは自分の料理になぞらえる。
「軸足は日本料理。これは絶対にぶれてはいけない。でももう片足は、大きな一歩を出してもいいと思っています。土地の味を大切にしながら、アクセントに洋の素材を使うことも、理由があれば厭わない」
差し出されたお椀に驚いた。柔らかく煮た京都の蕪の上に、柚子のせん切り。そこに出汁を張っただけという、これ以上ないほど削ぎ落とされたものである。昆布の風味と、水の味がする。この土地の柔らかな水の味。
同様の驚きは、煮物にもあった。出汁を含んだ海老芋と真っ赤な京人参、そして菊菜。土地で採れた素材そのものの味を出汁で引き出しただけのシンプルな一皿。口の中を覆うようにねっとりと柔らかな海老芋は、甘くて深い味わい。一生忘れないと言うほど印象的であった。
一方で、鯖の押し寿司には、鯖に馴染むように少し温度を上げたブルーチーズが少量のっていた。発酵食品としての役割を担うと同時に、青魚独特の旨みをグッと引き伸ばして、長い余韻を醸した。
焼き魚の鰆を口にしたときに感じた、ほのかな苦みとハーブの風味は、数滴のオリーブオイルが演出したものだった。柔らかで繊細な鰆に立体感を与えていた。
「僕は料理人ですからね、あれこれ話すより食べて感じていただくのが一番かと」
鷹峯の「鷹庵」の高木慎一朗の料理。季節を変えて訪れれば、また違った驚きと発見を食べ手に与えてくれるだろう。
STAFF
Writer: Chieko Asazuma
Editor: Indy Fujita
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