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週刊プレイボーイの元編集長であり、現在はエッセイスト&オーナーバーマンの島地勝彦が語る『お洒落極道』。第11回はクロノグラフで圧倒的な知名度を誇るスイス時計ブランドのゼニスから、新作のパイロットウォッチを取り上げます。航空機には目のない島地さんはパイロットウォッチにも一家言あるそうで……。
西麻布にあるオーセンティックバー、サロン・ド・シマジは地下一階にあるのだが、天井が6mと高いのが売り物である。
その天井から第二次世界大戦で活躍した日本の零戦をはじめ、ドイツの戦闘機メッサーシュミット、ヒトラーご自慢の爆撃機ユンカース、イギリスの戦闘機スピットファイア、アメリカの戦闘機マスタングの模型が吊されている。ときにエアコンの風があたると戦闘機たちはまるで空を飛んでいるように動くのだ。それがなんともロマンチックなのである。バーの名作絵画や希少なヴィンテージボトルの隙間を縫って飛行するいつも想像をしている。
最近はパイロットウォッチがトレンドなのだと、担当の高橋から聞いた。クルマのドライバーと比べて飛行機のパイロットは極わずかしかいないだろうが、そのスタイルに憧れる気持ちはよくわかる。高橋が手配したゼニスの時計を見て、グルーブパターンに「PILOT」を刻まれる文字盤は飛行機のボディそのものだと思った。デザイン性を兼ねた堅牢さは今までにないパイロットウォッチの質実剛健さを表現している。
グルーブパターン、いわゆるリブモチーフといえば、スーツケースメーカーのリモワも同様だ。そのリモワがモチーフとした航空機を現代の技術で再び生産を開始したと聞いて驚いた。リモワのアルミ合金(ジェラルミン)製スーツケースには強度を増す“リブ”が備わっており、航空機を参考にしたものであった。レーザースキャナーを用いて機体を計測し忠実な再現に成功したが、現代の航空機の安全基準に則って改良したため「レプリカ機」となった。このレプリカ機は製造・販売までされているという。
航空機の機能性に注目したのはリモワだけではなかった。パイロットウォッチコレクションを展開するスイスの時計メーカー、ゼニスもそのひとつである。
ゼニスは1888年にフランス語で「Pilote」、1904年に英語で「Pilot」を商標登録し、文字盤に「PILOT」の文字を刻める唯一のブランドだ。特に英語での商標登録の際は、ライト兄弟が世界で初めて有人動力飛行を成功させた1903年12月17日の翌日に、ゼニス創業者のジョルジュ・ファーブル=ジャコは登録申請を行ったというからただならぬ慧眼の持ち主であった。きっと飛行機が世界中を飛び回り、その際にはパイロットウォッチが欠かせないアイテムになると予見したに違いなかった。
ゼニスはこれまでもパイロットウォッチコレクションを展開していたが、今年発表した新作パイロットウォッチは航空機の機体を彷彿とさせるデザインを取り入れた。ダイヤルに刻まれた平行線のリブは、ノスタルジーも感じさせる。リブデザインは堅牢さの象徴であるともに、美的な造形を獲得しており、ゼニスの目指すパイロットウォッチと合致した。
搭載されるのは、ゼニスが得意とするクロノグラフ・ムーブメント、エル・プリメロに、新たにビッグデイト表示を統合した新しいエル・プリメロである。6時位置のビッグデイト表示は電光掲示板をイメージして、100分の7秒でディスクが切り替わるようになっている。これは目の瞬きよりも早い速度だそうだ。
グルーブパターンの入ったダイヤルにスポーティな外装にまとめ上げたゼニスの最新のパイロットウォッチは、アクティブシーンこそふさわしい。しかしサロン・ド・シマジのような静かなバーでも使えるかもしれない。お酒を少し飲みすぎたなと思ったら、さりげなく時計を見てほしい。もしグルーブパターンの平行線が真っすぐに見えなくなったら、それは家に帰る合図となってくれるだろう。
毎時3万6000振動のフライバック付きクロノグラフ・ムーブメントCal.3652を搭載。ケースにはブラックマイクロブラスト仕上げのセミラック製を採用し、より軽量に仕上げた。ダイヤルには“1”と“10”の位を別の窓で表示するビッグデイトを搭載。このビッグデイトは瞬時に切り替わるため、強いバネを使用しているが、行き過ぎてダブルジャンプをしないためのセキュリティも備える。自動巻き。ブラックセラミックケース。ケースサイズ42.5mm。1,7270,000円。
大学卒業後、集英社に入社。「週刊プレイボーイ」編集部に配属され、1982年には同誌の編集長に就任し、100万部の雑誌へと育て上げた。その後「PLAYBOY」「Bart」の編集長を務める。柴田錬三郎、今東光、開高健、瀬戸内寂聴、塩野七生をはじめとした錚々たる作家たちと仕事を重ねてきた。「お洒落極道」「お洒落極道 最終編」(小学館)など著書多数。現在は西麻布にあるサロン・ド・シマジにて、バーカウンターの前に立つ。
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