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美しいフィクションが幾重にも連なり、映像芸術の贅沢な深みにはまっていく。豪華すぎるキャストで話題のウェス・アンダーソン監督『アステロイド・シティ』。自分のカルチャー史が理性、感性、心地よさ、不可解さと刺激され、観終わったら誰かと話したくてたまらなくなる!
美しいフィクションが幾重にも連なり、映像芸術の贅沢な深みにはまっていく。ジェイソン・シュワルツマン、スカーレット・ヨハンソン、トム・ハンクス、マーゴット・ロビー、エイドリアン・ブロディ・・・豪華すぎるキャストで話題のウェス・アンダーソン監督『アステロイド・シティ』から刺激されるのは、理性、感性、心地よさ、不可解さ。観終わったら誰かと話したくてたまらなくなる!
この春に行われたばかりの愛好家たちによるイベント「ウェス・アンダーソンすぎる風景展 あなたのまわりは旅のヒントにあふれている」が早くも11月に「ウェス・アンダーソンすぎる風景展 in 渋谷」として、再開催決定。
多くの人が愛してやまないウェス・アンダーソンの世界観。満を持して、やってくる監督の新作映画『アステロイド・シティ』はアメリカ公開時の週末成績が監督史上最高記録を樹立、監督の最高傑作と呼び声が高い。果たして、日本ではどう受け入れられるのか。
1955年、アメリカ南西部の砂漠の街、アステロイド・シティ。隕石が落下してできた巨大なクレーターが最大の観光名所である街でジュニア宇宙科学賞の授賞式が行われることになった。人口わずか87人の街に招待されたのは、賞に選ばれた天才児5人とその家族たち。複雑な事情を抱えた彼らの気持ちはよそに授賞式が敢行されると、そこになんと宇宙人が。思わぬ大事件に人々は取り乱し、軍は宇宙人出現の事実を隠蔽しようと街を封鎖してしまう。子供たちは大人の目を掻い潜り、外部へ情報を伝えようと企てるが、果たして人々の運命はいかに!?
書き割りのようなセットのなかで繰り広げられる人間模様。小さな街にモーテル、ダイナー、ガソリンスタンド、電話ボックスなどが完璧な計算の元、均一に配置されている。建物だけでなく、岩や山、サボテンまでも作り物。気持ちいいほど、シンメトリーな世界こそ監督の特徴であり、CG用のグリーンスクリーンはほぼ使われていない。
プロダクション・デザインを手掛けたのは監督とは『ダージリン急行』以来のコンビであるアダム・ストックハウゼン。監督のもう一つの特色であるパステルカラーを基調とした色合いの美術が今回の舞台である50年代のファッション、インテリアに映える。
いつも以上に監督らしさを感じる力作。ヒロインである映画スターでシングルマザーのミッジ役スカーレット・ヨハンソンはまるで舞台劇のように感じていたとか。
それもそのはず、実は『アステロイド・シティ』はエドワード・ノートン演じる脚本家が手がけるお芝居の中のストーリーなのである。
オープニングはテレビ番組の収録風景から幕が開く。司会の案内でカメラが映し出すのは人気脚本家のコンラッド・アープの執筆風景。缶詰になって彼が取り掛かっているのがまさに『アステロイド・シティ』の脚本なのだ。
冒頭はモノクロ映像だが、『アステロイド・シティ』の物語はカラーに切り替わる。
監督の前作『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』が雑誌を捲るように楽しめるスタイルだったのに対し、今回は舞台を観劇しているような気分で作品の中に滑り込んでいく。
演劇とウェス・アンダーソンの縁は深く、監督は小学校4年生の時に劇の脚本を書き始めた。そして、初期作品『天才マックスの世界』の主人公のように演劇部で脚本と演出を手掛けるようになる。
『アステロイド・シティ』ではその『天才マックスの世界』で主人公マックスを演じていたジェイソン・シュワルツマンが再び主演を務めている。監督曰く、「この映画はジェイソンのために作られた。彼が演じたことのない役を作り、その役を中心に映画全体を構築していった」。
シュワルツマンが演じるのは売れない俳優ジョーンズ・ホール。劇中劇『アステロイド・シティ』では戦場カメラマンの父親役を担う。脚本家が俳優ホールに魅せられ、彼を主役に託すエピソードはウェス・アンダーソンの実体験といえるのではないだろうか。
原案はウェス監督と盟友ロマン・コッポラの共作。ロマンはジェイソンのいとこで、ソフィア・コッポラの兄。ちなみに『ロスト・イン・トランスレーション』でビル・マーレイをキャスティングしたがったソフィアに彼を紹介したのはウェス・アンダーソンだった。
ウェス・アンダーソンの看板俳優として知られるビル・マーレイなのだが、残念なことに今回は登場しない。撮影直前に新型コロナウイルスに感染、降板せざるを得なかったそうで、代役はウェス組初出演のスティーヴ・カレルが務めている。
彼だけでなく今回はいわゆるウェス組と言われるティルダ・スウィントン、エイドリアン・ブロディ、ウィレム・デフォー……に加え、初参戦の俳優が多数。
’80年代から活躍するマット・ディロン、『バービー』が話題のマーゴット・ロビー、そして名優トム・ハンクスとその妻リタ・ウィルソン。新旧映画スターが顔を揃えて描かれる、演劇の世界の舞台裏。
毎回、ドールハウスを覗き込んでいるような気分にさせるウェス・アンダーソン作品だが、今回は鏡のなかの鏡を見るよう。加えて創作する者の苦悩に触れ、ウェスの頭の中を覗いた気持ちにもなる。
脚本家が書けば書くほど、こんがらがってゆくストーリー。登場人物同様、役者も『アステロイド・シティ』から逃れられない。
「We can’t wake up, if we don’t fall asleep!」
本作を難解と感じる人もいれば、快挙と捉える人もいる。知れば知るほど、奥深いウェス・アンダーソン・ワールドはやっぱり、夢中にならずにいられない。
9月1日全国公開
9/1(金)公開|映画『アステロイド・シティ』公式—ウェス・アンダーソン監督最新作 (asteroidcity-movie.com)
2023年製作/104分/G/アメリカ
原題:Asteroid City
配給:パルコ
ウェス・アンダーソン/Wesley Wales Anderson 映画監督、映画プロデューサー、脚本家。アメリカ合衆国ヒュース
WRITER
髙山亜紀
映画ジャーナリスト。現在は、ELLE digital、花人日和、JPPRESSにて映画レビュー、映画コラムを連載中。単館からシネコン系まで幅広いジャンルの映画、日本、アジアのドラマをカバー。別名「日本橋の母」。
STAFF
Movie Journalist: Aki Takayama
Composition: Kyoko Seko
© 2023 Pop. 87 Productions LLC & Focus Features LLC. All Rights Reserved
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