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時計見本市の醍醐味は、今までに見たこともないような斬新なアイデアを採用した時計に出合えることだ。今年チェックすべきユニークウォッチとは。
ウォッチズ&ワンダーズは商業的な展示会であるが、新しいアイデアや機構の発表の場でもある。斬新な時計がまた別のアイデアを生み出すインスピレーションにも繋がっている。つまり所有欲を刺激するとともに、知的好奇心も刺激してくれるのだ。今年はコロナ禍に温めていたアイデアがあふれ出したような独創的な時計が相次いだ。取材班の目に留まったユニークウォッチを見ていこう。
まずは分針が2本に割れるパルミジャーニ・フルリエの新作からだ。
パルミジャーニ・フルリエは、2022年に時針が2本に割れるGMTウォッチを発表したが、今年は分針が2本に割れる世界初のユニークウォッチを発表した。
分針を2本重ねて備える機能は、ダイバーズウォッチの回転ベゼルでダイビングタイムを計測する機能に近い。ケースの左サイドにプッシュボタンを2つ備え、8時位置のプッシュボタンを押すと、ロジウムメッキされたゴールド製の分針の下からローズゴールド製の分針が5分単位で、10時位置のプッシュボタンを押すとローズゴールドの分針が1分単位で進む。このローズゴールド針は指定した時間にずっと停止していて、時間を刻み続ける分針との経過時間を計れるタイマーのような仕組みとなっている。3時位置のリューズトップのプッシャーを押すと、ゴールド針はロジウムメッキの分針と再び一体化する。ただし、防水性能は60mなので、ダイビング以外のタイム計測に使用したい。
ダイバーズウォッチのアウター回転ベゼルを、針一本と3つのプッシュボタンだけで表現するデザインに仕上げた。操作性にも優れ、ありそうでなかった世界初の複雑機構だ。バーリーコーン装飾のダイヤルは美しく、ベゼルにはブランドのシグニチャーでもあるプラチナを備え、重厚感を高めている。
次はモンブランのプッシュボタンのないクロノグラフだ。
クロノグラフメーカーのミネルバはモンブランの傘下に入って、エクスクルーシブなムーブメントを供給してきた。傘下に入っても、ミネルバの名前が残っている珍しいケースで、とてもリスペクトされていることがよくわかる。そのミネルバの時計製造165周年と初のリストウォッチクロノグラフムーブメント誕生100周年を祝った特別なクロノグラフが発表された。
通常のクロノグラフはスタート、ストップ、リセットの一連の操作を行うプッシュボタンを1つか2つ備えるが、ベゼルの回転だけでクロノグラフの一連の操作を行えるのが、このモデルだ。回転ベゼルの内部にはダイヤル表示を正しく対応するためノッチと呼ばれる“刻み”が備えられているが、この刻みの凸部がクロノグラフのプッシャーになっているという仕掛けだ。そのため回転ベゼルの1ノッチでクロノグラフがスタートし、2ノッチ目でストップ、3ノッチ目でリセットとなる。この回転ベゼルには逆回転防止機構が備わっているため、誤作動することはない。回転ベゼルは一周60ノッチが多いが、このモデルは30ノッチにすることで操作感も高めている。
ダイヤルは1940年代~1960年打のサンレイ仕上げのミネルバクロノグラフにインスパイアされたもので、グリーンカラーにスネイルタイプのタキメーター表示でヴィンテージ感を演出している。
今年のピアジェはジュエリーウォッチにとても力が入っていた。その中でメカニカルな魅力を放っていたのが、「ピアジェ ポロ パーペチュアルカレンダー オブシディアン」だ。ジュエリーとともに、ピアジェが得意とする薄型ウォッチの新作だ。
1960年に発表した自動巻きキャリバー12Pは当時の世界最薄を実現したことから、ピアジェは薄型ウォッチの名声を確立した。その後発表した薄型ムーブメントにパーペチュアルカレンダー機構を搭載したのが新開発の「キャリバー1255P」だ。パーペチュアルカレンダーは世界三大機構のひとつで、2100年まで日付を修正する必要がない。同時に日、曜日、月、閏年を表示するためのパーツが増え、ケースに厚みが生まれてしまう。しかし、ピアジェはムーブメントの厚さ4mm、ケースの厚みを含めても8.65mmという驚異的な薄いケースを実現。しかも永久カレンダーに加えてムーンフェイズ表示まで備えている。
ダイヤルは黒曜石の一種でガラス質のオブシディアンで独特な光彩を放つ質感を纏い、ベゼルにはディープブルーサファイアをセットされる。それらの存在感でケースの薄さを感じさせない。ピアジェにしかできない薄型永久カレンダーウォッチのジュエリーモデルだ。
ユリス・ナルダンの「フリーク」は2001年に登場した、時計の心臓部である脱進機そのものが回転する斬新なモデル。脱進機には当時最先端であったシリコン製を採用しており、メカニズム、デザイン、素材使いなどあらゆる面で時計業界に衝撃を与えた時計だ。
そんなDNAを受け継ぐ最新作が「フリーク ワン」だ。文字盤なし、針がなし、リューズなしで初代モデルを彷彿とさせる、オーセンティックなスタイルに仕上げた。回転ディスクの大きな矢印が時表示、回転する巨大な脱進機に取り付けられた矢印が分表示を示す。時刻合わせには6時位置のロックを解除し、ベゼルを回転させて時刻を調整できるようになっている。またゼンマイの巻き上げは、自動巻きローターに4つのブレードが備わっており、高い巻き上げ効率を発揮する。ダイナミックな機械式の動きを堪能できる、うってつけの時計だ。
ロジェ・デュブイはハイパーウォッチメーカーとして、メカニズムを見せびらかす必要があると公言する。この「モノヴォーテックス スプリットセコンド クロノグラフ」も、それを体現している時計だ。
このモデルは重力に抗いながら、同時に重力を利用する機構を搭載した超絶複雑時計。
まず12時位置に備えるのが、動力となるぜんまいを巻き上げる円筒状の自動巻きローターだ。一般的には回転運動で巻き上げるローターが多いが、このモデルは軸上にドリルのように回転してエネルギーに変換する。9時位置には120度に傾いたフライングトゥールビヨンを備え、平面で回転するよりも重量の影響を受けにくくしている。こうして重力を利用しつつ、一方でその影響を受けにくいするメカニズムを搭載しているというわけだ。しかもクロノグラフ秒針を2本備えるスプリットセコンドクロノグラフ機構も搭載する。
ケースはロジェ・デュブイが独自開発したハイパーテックMCF(ミネラル複合繊維)というシリカ素材を採用。カーボンより13%、セラミックより60%も軽く丈夫な素材で、何年もの開発で美しい赤い着色もできるようになったものだ。
STAFF
Writer: Katsumi Takahashi
Editor: Atsuyuki Kamiyama
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