ボウイはどのようにして、ボウイになったのか。

ボウイはどのようにして、ボウイになったのか、作品では彼の子ども時代まで遡っていく。

1947年にロンドンで生まれたボウイは厳格な親に子ども的な玩具は一切、与えられず、育てられた。年上の叔父から大きな影響を受けたボウイは少年には時期尚早なジャック・ケルアックの「路上」を勧められ、大いに刺激を受けている。

ボウイの語りを聞きながら、以前、インタビュー取材したボウイの息子、ダンカン・ジョーンズの話を思い出した。

「父は映画が好きで、幼い頃から、『時計じかけのオレンジ』『2001年宇宙の旅』といった、普通の親なら、子どもと一緒には見ないような映画もよく一緒に見ました」。

子ども扱いするのではなく、子どもも一人の大人として向き合う。甘やかされず育ったボウイだけに甘やかし方を知らなかったとも言えるが、思わぬ英才教育に息子はその後、映画監督になっている。

性、国や文化、宗教、そして年齢までもあらゆる規制、常識を取り払い、フリーだったボウイ。ミュージシャンとしてだけでなく、俳優活動も意欲的で、アート制作にも打ち込んだ。職業すら、自分で制限することなく、寝る間も惜しんで、その才能を遺憾なく発揮した。映画はどのボウイの姿も余すことなく、映し出す。

カテゴライズを超越し、変幻自在にありとあらゆる場所へ自分の居場所を求め続けるボウイの「年齢を経てこそ、浮力がつく」という言葉が印象に残る。「昔は良かった」と後ろ向きになる人がほとんどであるところをボウイは「年齢を重ねてこそ精力的に」という。確かに時間が無限に流れているような気がした若い頃と違い、残された時間がわずかとなれば、無為に過ごしている暇はない。経験は足枷ではなく、新たな一歩に背中を押してくれる有意義なものであれ。目から鱗である。

LGBTQ、人種差別、多様性、エイジレス……。今になってようやく、彼の考えが理解できる。最先端をいく異端児はどうやら人類の何十年も先を生きていたらしい。何にも縛られなかった伝説の異星人、ボウイの精神性は現代の私たちにこれからをどう生きるべきか、指南してくれる。 この作品はきっと、いつ誰が見ても、その時々でさまざまな発見があり、各々の人生の指標となるだろう。ボウイという広大な宇宙は死してなお、広がり続けていることを体感する。

「デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム」の画像
『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』
2023年3月24日(金)よりTOHOシネマズシャンテ他公開 IMAX®/Dolby Atmos同時公開
監督・脚本・編集・製作/ブレット・モーゲン
2022年製作 135分 PG12 ドイツ・アメリカ合作 
原題/Moonage Daydream
配給/パルコ ユニバーサル映画
オフィシャルサイト/https://dbmd.jp/
David Bowie ムーンエイジ・デイドリーム〜月世界の白昼夢〜 サウンドトラックの画像


デヴィッド・ボウイ/David Bowie ムーンエイジ・デイドリーム〜月世界の白昼夢〜 サウンドトラック
Moonage Daydream – Music from the film 発売中 ¥3,520(税込)/WPCR-18553/4
提供:ワーナーミュージック・ジャパン
PROFILE
ロックミュージシャン/俳優/ジェネラリスト David Bowie
ロックミュージシャン/俳優/ジェネラリスト
David Bowie

デヴィッド・ボウイ/David Robert Jones ロックミュージシャン、俳優、ジェネラリスト。ロンドン・ブリックストン出身。高校時代から音楽活動をスタートし、1963年にディビー・ジョーンズ&キング・ビーズでデビュー。デビッド・ボウイと改名し、66年からソロ活動を開始し、舞踏家リンゼイ・ケンプの影響でパントマイムも熱演。グラムロック全盛期を牽引し、「スペイス・オディティ」「ジギー・スターダスト」で世界を席巻した。SF映画「地球に落ちて来た男」(76)で俳優デビュー。「戦場のメリークリスマス」「ラビリンス 魔王の迷宮」86)に出演。16年1月、膵臓ガンのため69歳で死去。


WRITER
髙山亜紀

映画ジャーナリスト。現在は、ELLE digital、花人日和、JPPRESSにて映画レビュー、映画コラムを連載中。単館からシネコン系まで幅広いジャンルの映画、日本、アジアのドラマをカバー。別名「日本橋の母」。

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