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2022年の7月に竣工したばかりという「土管のゲストハウス」。本来は家具やプロダクト、アート作品などをアーカイブするための保管庫として計画されたという。発想自体は実にシンプルで分かりやすいものであった。そして案内された館内には言葉通り、作品群が整然と、しかし美術館のような趣のしつらえで並べられていた。その上で虚飾を排したことで実現した居心地の良さを活かしながら宿泊機能を与えたことで、魅力に溢れるゲストハウスとしても、成立しているのである。
静寂に包まれた敷地に入り、まず驚かされたのは「外部環境を積極的に屋内に引き込みたかった」との思いから、外構で使っているものと同じ砂利や植栽を、屋内の居間ともいえる空間にまで使用していたこと。砂利のままでは歩きにくいだろうと思われる箇所は、樹脂で硬化されていた。通常、敷き詰められた砂利の上から樹脂で覆って固めるとのこと。だが、その工法では「ツヤ感が悪目立ちをしてしまう」ことから、あらかじめ樹脂を塗った下地面に、後から砂利を敷き詰めることで自然感を演出できたという。
プロローグから驚かされながら、さらに強烈なインパクトを与えてくれた「箱形の外観」に目をやる。工場で共通のパーツを成形し、現場で組み立てる「プレキャスト工法」によるもの。この四角い土管ともいえる「口型のパーツ」は、トラックでの運搬を考慮し、それに対応できるような大きさと、ひとつ約12tという重量を決定したもの。完成させるまでには合計63個のパーツを使用しているという。
さらにパーツの機密性確保に留意しながら、重ね合わせるために用いたのが「プレストレス工法」。これはパーツを整列させた後にワイヤーで締め上げて連結する技術で、橋などの土木構造物で使用される工法。結果としてシームレスで平滑な表面仕上げとなり、高い機密性や耐久性を得ることが可能となった。
また開口部には金属製サッシを極力使わずに、襖や障子をはめ込むような要領で、大判の高透過ガラスを溝に差し込んで固定。大きなものは 1 辺の長さが 10m にも及ぶほどで、かなり大掛かりな工事になったようだ。そうした細部に至るまでのこだわりが、面の均一性をより向上させ、シンプルであるが故に完成した美しさを表現していたのだ。
nendoのスタッフに屋内外を案内され、かなり専門的な言葉を聞いているはずなのに、なぜか、その説明が抵抗なく入ってくる。そしてシンプルさの中に「想像を超える最先端」が潜んでいる事を理解できたつぎの瞬間、ようやく中庭で、まるで「土管のゲストハウス」と、寸分の違和感もなく佇んでいる新型レンジローバーに目をやるゆとりができた。無駄をそぎ落としたシンプルでスクエアなフォルムには、動かしようのないエレガンスが漂っていた。
これほどまで、開催場所にこだわった試乗会は珍しい。本来、リゾート地など美しいロケーションや、気兼ねなく走れる交通環境は、すべてが主役であるニューモデルのためにしつらえられるもの。ところがジャガーランドローバージャパンは、ともすれば建物の存在感の中にクルマの個性が溶け込んでしまうリスクをもいとわず、土管のゲストハウスに我々を招き、その空間でクルマを披露した。だが実際は、そんな懸念は杞憂に終わっている。むしろ両者の潔い決断にこそ、敬意を払いたくなるほどである。
ややもすれば人は、不安になるほどに何かを付け加え、エクスキューズをしたくなるもの。ところが目の前にある事実は、あっけないほどに簡素であり、まさに黙して語らず。それが強烈に気品というものを際立たせているのだ。建物もクルマも互いにそれぞれを引き立て、観るものに心地よい興奮さえ与えていた。そしてシンプルだからこそ、ごまかしの効かない本質が見えて来たからだろう。
穏やかにドアを開け、まるで高級クルーザーもかくや、と思えるようなキャビンでステアリングを握った。上質なレザーとウッド、そしてほどよく配されたアルミのアクセントが醸し出す、英国流のしつらえはさすがにランドローバーの仕事である。さらに見事なのはエクステリアの、あの簡素な空気感がしっかりとインテリアにも受け継がれていること。13.1インチのタッチスクリーンをダッシュボードのセンターに置き、それを基準にするかのように水平基調のシンプルなラインと面で構成されたインテリアは実にモダンだ。
白いレンジで軽井沢を、という個人的なテーマもあり、最高出力300馬力の3.0Lディーゼルエンジンを搭載した「D300」を選んだ。走り出しから市街地、そして高速道路へと走り込んでいっても、もはや過去のディーゼルエンジンのフィールはまったく感じない。マイルドハイブリッド(MHEV)化されたことで、エレガントな立ち振る舞いを見せるようになっていたのである。
そのエンジンのフィールを、より上品に感じさせているのは、新しく追加されたエアサスペンション。ソフトでゆったりとした動きでありながらコーナーではつねにフラットであろうとする感覚、そして浮遊感に満ちた高速の走りなどなど、その印象を同行の編集者が「まるで最新の豪華客船のごとく」と表現していた。その一言には十分な説得力があった。得心しながら市街地の細かな道に大きなボディを入れてみる。後輪もステアする、ランドローバー初の機構、4ホイール・ステアリング(4WS)と、スクエアで見切りのいいボディのお陰もあり、ストレスが本当に少ない。徐々に体に馴染んでくる。
「もう少し、いや出来ることならあと数日間、この世界に浸っていたい」。まさに後ろ髪を引かれながらクルマを降りた。
ふと軽井沢を題材にして堀辰雄が書いた小説「美しい村」が頭に浮かんだ。高原の別荘と牧歌的な風景、そして傷心の主人公と美しい少女との出会い。もし、そんな世界観にクルマを添えるとしたら、やはり真っ白なレンジがいいなぁ、と。どんなクルマにもふさわしく、そして大切にすべき風情があるものだと思った。
主要諸元 | |
エンジン | 直列6気筒ターボディーゼル2,993cc |
最高出力 | 221kw(300PS)/4,000rpm |
最大トルク | 650Nm/1,500~2,500rpm |
全長×全幅×全高 | 5,065×2,005×1,870mm |
車重 | 2,580〜2,700kg |
最小回転半径 | 6.1m |
駆動方式 | 4WD |
トランスミッション | 8速AT |
車両本体価格 | 20,310,000円~(税込み) |
AUTHOR
男性週刊誌、ライフスタイル誌、夕刊紙など一般誌を中心に、2輪から4輪まで“いかに乗り物のある生活を楽しむか”をテーマに、多くの情報を発信・提案を行う自動車ライター。著書「クルマ界歴史の証人」(講談社刊)。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。
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