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まもなく訪れるホリデーシーズン。久しぶりに家族で集ったり、親しい友人を招いて、ゆっくりと自宅で食事を愉しむ方も多いだろう。実は、ウイスキーは、そんなシーンにも寄り添ってくれる懐の深いお酒だ。ストレート、ロック、ハイボール…と様々な飲み方ができるので、料理の質感に合わせやすい。今回は、ミシュランガイドで2ツ星を獲得したこともある『STELLAR WORKS Restaurant & Bar』のエグゼクティブシェフ・入江誠氏と共に、ウイスキーのペアリングを考案。食材の香りやテクスチャーからロジカルに導き出した、スコッチのシングルモルトを3つ、自宅でも取り入れやすい飲み方でご紹介する。
『STELLAR WORKS Restaurant & Bar』で常連客のリピート率が高いという『からすみバタートースト』。隠し味に鮎魚醤を使うのが入江シェフのこだわりだ。からすみの塩味にコクが加わり、ニンニクをほんのり利かせたバターの濃厚な質感を受け止めてくれる。
合わせるのは『ブルックラディ 18年』のハイボール。炭酸を注ぐと、白い花を想わせる甘い香りと、熟した桃のような芳香が立ちのぼる。まずは、ハイボールをひと口。アプリコットやココナッツのジューシーな甘さが広がり、ブルックラディのハウススタイルでもあるフローラル&フルーティーなフレーバーを堪能できる。ブルックラディ蒸留所は、発酵工程にこだわりを持ち、ステンレスタンクに比べて管理の難しい木桶の発酵槽を用い、職人が発酵時間を見極めている。60~100時間と長い時間をかけて発酵することによって、乳酸菌発酵が活発になり、フルーティーなフレーバーが生れるのだ。
『からすみバタートースト』は、発酵により旨味が増したからすみと鮎魚醤が用いられている。ひと口食べると、口内に磯の香りがフワっと広がる。そして、再び、『ブルックラディ 18年』のハイボールを飲むと、ウイスキーのミネラル感がはじけ、海辺で波しぶきを浴びているような景色が思い浮かぶだろう。ブルックラディ蒸留所は、アイラ島の海辺に面して建てられているだけでなく、熟成庫も全てアイラ島内にある数少ない蒸留所のひとつだ。1881年に稼働したブルックラディ蒸留所は、1990年代には操業停止に追い込まれる。2001年に再稼働後は、“テロワール”を重視したウイスキー造りに取り組んできた。『ブルックラディ 18年』は、復興後に造られたウイスキーが18年間潮風で育まれ、心地良いミネラル感をおびた、ブルックラディ蒸留所の信念を体現したウイスキーなのだ。
『ブルックラディ 18年』は、フローラル&フルーティーなハウススタイルを存分に味わえるよう、バーボン樽で18年間熟成したウイスキーを約90%用いている。アクセントに用いられているのは、ソーテルヌワイン樽、ポートワイン樽でそれぞれ18年間熟成したウイスキー。これらが、黒スグリのような甘さをもたらし、フレーバーに奥行きを出している。余韻に感じる樽由来のタンニンが、トーストの香ばしさを引き立てている。
「口に広がる『からすみバタートースト』の塩味とバターの旨味が、『ブルックラディ 18年』のハイボールを合わせることで、磯とモルティーな香りが鼻に抜けていくのを感じて欲しい」と入江シェフ。
料理とウイスキー、それぞれの持つ旨味と塩味、潮気の共鳴からなるペアリングだ。
『STELLAR WORKS Restaurant & Bar』のシグニチャーディッシュとして親しまれている『小田原産塩レモンとホタテ貝のリゾット』。アサリの出汁を利かせたサフランのリゾットは、自家製の塩レモンの角切りが和えてあり、仕上げにはレモンピールがすりおろされ、クリーミーな食感と爽やかな香りが楽しめる。「舌と鼻、両方でレモンのフレーバーを愉しめるように工夫しました」と入江シェフ。見た目にも鮮やかで、シチリア島の海辺にいるような、陽気な気分にさせてくれる一皿だ。
ペアリングは、『グレングラント 15年』。グレングラント蒸留所は華やかなフレーバーのウイスキーの名産地として知られるスぺイサイド地方にある。スぺイサイド地方には、約50カ所の蒸留所があるが、原料となる大麦麦芽の粉砕からボトリングまでを同じ敷地内で行っているのはグレングラントだけだ。ネックの長いポットスチル(蒸留器)には初留器、再留器ともに精留器が取り付けられており、銅との接触面積が大きいことにより、エレガントでフルーティーなフレーバーが生れるといわれている。長年、イタリアでのシングルモルトの売上は、圧倒的No.1を誇る銘柄だ。
『グレングラント 15年』は100%、1stフィルのバーボン樽で熟成しており、グレングラントらしい青リンゴのようなフレッシュな香りと洋梨の芳醇な香りが愉しめる。リゾットのレモンの爽やかな香りとのハーモニーが心地良い。
『グレングラント 15年』は、ウイスキーを樽から出してボトリングする際に、澱を取り除くための冷却ろ過を行っていないのも特徴だ。そのため、オイリーな香味成分がふんだんにウイスキーに溶けこんでおり、クリーミーなテクスチャーが味わえる。「リゾットはバターとチーズで仕上げコクを出しています。『グレングラント 15年』とペアリングすると、よりリッチな味わいになりますね」と入江シェフ。『グレングラント 15年』のアプリコットジャムのような弾力のある甘味と、アーモンドミルクのようなスムースな甘味が、リゾットをより華やかにしてくれる。
余韻には、ブラッドオレンジのような渋味。リゾットに忍んでいるレモンピールの渋味と、表面をソテーしたホタテとのマリアージュが愉しめる。
アルコール度数50%と高度数なので、ペアリングする際には少量の加水かロックで。クリーミーな料理を華やかに味わいたい時には、『グレングラント 15年』がお勧めだ。
入江シェフは、月に数回だけオープンする幻のレストラン『ÉPICOUL』(エピクル)の厨房にも立つ。フランス料理にスパイスを取り入れたメニューの中で、特に好評なのが『スパイシーカレー』だ。たっぷりの玉ねぎとドライデーツを煮込み、スパイスで仕上げた欧風カレーは、甘口ながら大人の味わいだ。
そこに、『ザ・グレンリベット 14年』を数滴。『スパイシーカレー』に潜んでいたドライデーツの甘味が引き出され、カレーのルーで温められたウイスキーからはスミレの花のような高貴な香りが立ちのぼる。これは、『ザ・グレンリベット 14年』に、コニャックを熟成した樽で寝かせたウイスキーが用いられているからだ。ウイスキーの熟成というと、バーボンウイスキーかシェリー酒を熟成していた樽が一般的だったが、『ザ・グレンリベット 14年』は、主要なシングルモルトスコッチウイスキーブランドにおいて初めて、コニャック樽でのフィニッシュを施したウイスキーを一部に用いた。バーボン樽、シェリー樽でそれぞれ14年間熟成させたウイスキーを、コニャック樽で6カ月以上寝かせることで、妖艶な甘みをまとうのだ。
風味がより豊かになった『スパイシーカレー』と合わせて、『ザ・グレンリベット 14年』をストレートで飲みすすめると、繊細なリコリスの甘味、熟したレーズンやチョコレートのフレーバーが広がり、上質なコニャックを熟成していた樽が用いられているのが感じ取れる。熟成の仕上げに使われているコニャック樽は、タンニンの豊富なリム―ザンオークで作られているそうだ。数種類ものスパイスが贅沢に使われている『スパイシーカレー』の重層的な味わいとのマリアージュを堪能できる。
主要なシングルモルトスコッチウイスキーブランドにおいて初めて、コニャック樽でのフィニッシュを施したウイスキーを一部に用いたザ・グレンリベット。そのパイオニア精神は、200年前から引き継がれている。1700年代に入り、スコットランドでは、重税から逃れるためにライセンスを持たない蒸留所が増加していた。ウイスキーの密造が100年以上続く中、1824年に、グレンリベット蒸留所のジョージ・スミス氏は新酒税法のライセンスを最初に取得。グレンリベット蒸留所は、政府公認第1号蒸留所となり、スコッチウイスキーの健全な発展の礎を築いたのである。200年続くパイオニア精神によって生み出された、新しいおいしさをまとった『ザ・グレンリベット 14年』を数滴加えることで、食べ慣れたカレーも、艶やかに感じられるはずだ。
2025年1月25日(土)に、今回の記事でご紹介した3品を中心にしたウイスキーテイスティング会を『STELLAR WORKS Restaurant & Bar』で開催いたします。入江誠シェフと、記事を手掛けた馬越ありさの解説と共に味わえます。
20歳から日仏の著名なフランス料理店で修業を積み、料理長を務めた『ピエール・ガニェール・ア・東京』が2009年度のミシュランガイドで2ツ星を獲得。現在は『STELLAR WORKS Restaurant & Bar』のエグゼクティブシェフを務める。ウイスキー好きが高じて、お酒の製造工程で出た麦の搾りかすを用いたクッキーを作るなど、食材を活かした取り組みをしている。
STELLAR WORKS Restaurant & Bar
スタイリッシュなSTELLAR WORKSの家具が配された、地中海料理のレストラン。赤坂御所を囲む緑を眺められる開放的なテラス、個室としても利用できる重厚感あふれるバーも併設され、様々なシーンに対応してくれる。
東京都港区北青山1-2-3 青山ビルディング2F
レストラン営業時間:月曜日~金曜日・祝日17:30~22:00(L.O.21:00)、土曜日11:30~15:00(L.O.14:00)・17:30~22:00(L.O.21:00)
定休日:日曜日
料金:ディナーコース8,200円~(税込、別途サービス料10%)アラカルトにも対応している。
03-3423-2025
●掲載商品の価格はすべて、税込み価格です。
AUTHOR
慶應義塾大学を卒業後、アパレルのラグジュアリーブランドに総合職として入社。『東京カレンダーweb』にてライター・デビュー。エッセイスト&オーナーバーマンの島地勝彦氏に師事し、ウイスキーに魅了される。蒸留所の立ち上げに参画した経験と、ウイスキープロフェッショナルの資格を活かし、業界専門誌などに執筆する他、日本で唯一の蒸留酒の品評会・東京ウイスキー&スピリッツコンペティション(TWSC)の審査員も務める。
STAFF
Photos: Ayako Yokota
Writer: Arisa Magoshi
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