深淵なるピート香の世界にいざなう、シングルモルト3選

芳しき“命の水”、ウイスキーの嗜みVol.4

独特の燻香の虜になる人も多い、ピート香のウイスキー。ピートとは、シダやコケ類、ヒースなどが堆積してできた泥炭で、15cm堆積するのに1,000年かかるといわれている。モルトウイスキーの原料となる大麦を水に浸し発芽させ、適度なところで発芽を止めるためにピートを焚いて乾燥させることで、スモーキーさをまとうのだ。こうして製麦された大麦麦芽のスモーキーさはppmというフェノール値で表される。20ppmの大麦麦芽で仕込んだモルトウイスキーを飲むと、はっきりとピート香を感じる人が多いだろう。悠久の時の恵みであるピート香をまとったウイスキー。その深淵な魅力を、のぞいてみよう―。

LIFESTYLE Sep 23,2024
深淵なるピート香の世界にいざなう、シングルモルト3選

ピート香の限界への挑戦。108.2ppmのスーパーヘビリーピーテッド『オクトモア 15.1 スコティッシュ・バーレイ』

オクトモア 15.1 スコティッシュ・バーレイの画像
『オクトモア 15.1 スコティッシュ・バーレイ』 700ml アルコール度数59.1% 希望小売価格22,000円(レミー コアントロー ジャパン 株式会社) 2024年9月25日発売

アイラ島にある蒸留所の中では珍しい、ノンピートのシングルモルトを主力とするブルックラディ蒸留所。2001年に再稼働後、新しいフレーバーを探求するために、ppm値を極限まで高めたウイスキー造りへの挑戦を始めた。そして、2008年にスーパーヘビリーピーテッドの『オクトモア 1』を初リリース。131ppmという大麦麦芽のフェノール値は、50ppmでヘビリーピーテッドとされていたウイスキー業界に、衝撃を与えた。

スモーク香は、大麦麦芽に水分が含まれている状態だと、良く吸着される。その為、ピート香のウイスキーの原料となる大麦麦芽を製麦する際は、乾燥の序盤のみピートを焚き、半乾きになったタイミングで無煙炭などに切り替え、約2日間で乾燥させることがほとんどだ。『オクトモア』の原料となる大麦麦芽は、ppm値を極限まで高めるために、全工程ピートで燻している。低温で時間をかけて燻すことでスモーキーさを高めており、乾燥に5日間かかることもあるという。

2024年9月25日に限定品としてリリースされる『オクトモア15シリーズ』は、麦の産地や熟成樽の違いで15.1、15.2、15.3という構成になっている。熟成期間は全て5年。『オクトモア 15シリーズ』で、まず試して頂きたいのは、バーボン樽のみで熟成し、極限まで高められたピート香をそのままに味わえる『オクトモア 15.1 スコティッシュ・バーレイ』だ。スコットランド産の大麦を用い、フェノール値は108.2ppmまで高めた。香りは、土っぽいスモーキーさの奥に、柑橘の爽やかな甘さをはっきりと感じられる。味わいは、バニラの甘さとスモーキーさが共鳴し、ベチバーのハーブティーを飲んでいるかのようだ。 熟成は全期間をアイラ島で行っており、潮風に育まれミネラル感をおびている。スモーキーさで押しきらず、甘味と塩味で重層感を出し、洗練された力強さを感じさせるのが『オクトモア』なのだ。

15.1、15.2、15.3の3つのエディションを飲み比べ、ピート香の表現の違いを探るのも愉しい。15.2はバーボン樽とワイン樽で熟成したのちに、コニャック樽で仕上げており、レモンタルトを深煎りのコーヒーで味わっているかのよう。15.3はアイラ島産の大麦を用い、フェノール値は『オクトモア』史上2番目に高い307.2ppm。熟成樽はバーボン樽とオロロソシェリー樽で、強烈なスモーキーさの奥に、ココナッツやブラックベリーの甘さが感じられる。

新しいおいしさを求めて、限界に挑戦する『オクトモア』。スモーキーさの先に見える景色に出会った時、挑戦する勇気がうまれてくるだろう。

ジャパニーズウイスキーならでは!ミズナラ樽が引き立てるピート香『厚岸シングルモルトジャパニーズウイスキー小暑』

厚岸シングルモルトジャパニーズウイスキー小暑の画像
『厚岸 小暑』 700ml アルコール度数55% 希望小売価格23,100円(堅展実業株式会社 厚岸蒸溜所)

ジャパニーズウイスキーにも、ピート香をハウススタイルとしている蒸留所がある。2016年10月に稼働した厚岸蒸溜所だ。代表を務める樋田恵一氏は、愛好家として20年ほどウイスキーに親しみ、特に、ピート香のウイスキーに魅せられていた。自社でウイスキーを造る決意をした際、湿原に囲まれたアイラ島に似た環境を求めて、北海道の南東部の厚岸町に辿り着く。海岸線から2キロほど上った土地に建つ厚岸蒸溜所は、厚岸湾と別寒辺牛湿原にはさまれており、海霧につつまれる日も多いという。近辺は厚岸霧多布昆布森国定公園に指定されている、自然豊かな環境だ。

そんな厚岸の自然に育まれたウイスキーを『二十四節気シリーズ』としてリリースしている。二十四節気とは1年を24等分にした暦で、それぞれの季節をウイスキーのコンセプトにしている。2020年の10月に第一弾をリリース、2024年の8月末には第十六弾となる『厚岸シングルモルトジャパニーズウイスキー小暑』がリリースされた。

小暑とは、梅雨が明け、本格的な夏の訪れを感じさせる季節をさす。チーフブレンダーを務める立崎勝幸氏は、『二十四節気シリーズ』のレシピを考える際、それぞれの季節の風景を思い浮かべてからブレンドしているという。『厚岸シングルモルトジャパニーズウイスキー小暑』は、夏祭りの夜の、心弾む様子と、賑やかさのあとに訪れる切なさをイメージしたという。

厚岸のウイスキーの特徴は、柑橘や枇杷、桃などのフルーツの甘さがピート香を引き立てているところだ。『厚岸シングルモルトジャパニーズウイスキー小暑』は、柑橘の爽やかな甘さから、スモーキーな余韻へとフレーバーの展開が愉しめる。トロっとしたテクスチャーで蜜のような甘みがあり、ヘビリーピーテッドながら、ピート香の初心者でも愉しめるフレーバーに仕上がっている。夏に海辺でバーベキューをしているような、潮っぽさを感じるスモーキーさは、厚岸湾から200mに位置する熟成庫で育まれているからだろう。

『厚岸シングルモルトジャパニーズウイスキー小暑』は、ジャパニーズウイスキーならではのピート香を表現するために、シェリー樽やワイン樽、ミズナラ樽といった多彩な樽で熟成したピート香のウイスキーをブレンドしている。ミズナラは通称ジャパニーズオークとも呼ばれ、日本でウイスキーの熟成樽として使われてきた。ミズナラ樽で熟成したウイスキーは、白檀のお香を焚いているような、甘いスモーキーさが特徴だ。

厚岸蒸溜所では、北海道の道有林の間伐で出たミズナラの原木を熟成樽に用いている。商業用に育てられた樹ではないので、真っ直ぐに成長しているとは限らず、樽材に活用できない部分もある。樹齢200年前後の原木1本から、450Lの樽が1樽しかできないそうだ。そんな、希少なミズナラ樽で熟成したピート香のウイスキーも、贅沢にブレンドされている。

厚岸蒸溜所では、間伐を有効活用するだけでなく、植樹活動にも参加し、生態系の保全に貢献している。社員が参加した令和6年の『厚岸町民の森植樹祭』では、1,000本ものミズナラが植樹された。

厚岸の自然に育まれ、厚岸の自然を育むジャパニーズウイスキーを味わい、雄大な自然を感じて欲しい。

フローラルなピート香とシェリー樽のハーモニー『ハイランドパーク 18年ヴァイキング・プライド』

ハイランドパーク 18年ヴァイキング・プライドの画像
『ハイランドパーク 18年 ヴァイキング・プライド』 700ml アルコール度数43% 希望小売価格23,100円(三陽物産株式会社)

バーベキューの煙や消毒薬、腐葉土やアスファルトなどに例えられることが多いピート香。ピートは採掘地によって堆積物が変わり、フレーバーも異ってくる。スコットランド北東部に位置するオークニー諸島で採掘されるピートは、約4,000年前のヒースの花が元となっており、焚くとフローラルな香りの煙が広がる。アイラ島やスコットランド本島のピートとは一味違うスモーキーさが特徴だ。

オークニー諸島メインランド島にあるハイランドパーク蒸留所では、職人の手による製麦を行っている。オークニー諸島特有のピートで焚きあげ、フローラルな香りをまとった大麦麦芽を作っているのだ。機械で製麦することもできるが、人の手で製麦するフロアモルティングを行っているのは、220年以上の伝統をほこるハイランドパーク蒸留所の矜持を感じさせる。数トンもの大麦を床一面に広げ定期的にシャベルですき返す工程は、体力を要するだけでなく、職人技も必要だ。そのため、スコットランドに約150カ所ある蒸留所のうち、フロアモルティングを行っているのは10カ所ほどしかない。仕込みに用いる大麦麦芽の20%を、フロアモルティングによりまかなっているハイランドパーク蒸留所のシングルモルトは、とても貴重なのである。

なかでも、『ハイランドパーク 18年 ヴァイキング・プライド』は、フローラルなピート香の魅力が詰まった1本だ。熟成樽は全てシェリー樽で、1stフィルのシェリー樽を多く用いている。シェリー酒の熟成に使った直後の樽で熟成することで、シェリー樽由来の赤い果実のようなフレーバーが濃厚にさずけられる。フローラルなスモーキーさが華やに昇華され、大ぶりの百合の花を思い起こさせる、エレガントなウイスキーになるのだ。

熟成庫が全てオークニー諸島メインランド島にあるのも、特筆すべき点だ。ハイランドパーク蒸留所はスコットランド最北部に位置する蒸留所の1つでもあり、周辺は強い海風が吹きすさぶ。荒涼とした自然に磨かれることで、エレガントなだけでなく力強さも感じるウイスキーになるのだろう。

かつてはヴァイキングが支配したというオークニー諸島。歴史の変遷を見守ってきたピート香を味わうと、今を生きる悩みも、癒される気がする―。


g KEYAKIZAKA

g KEYAKIZAKAの画像

世界中の高級ホテルに採用されている、イタリアのブランド『AK47』のファイヤーピット『Zero』。ラグジュアリーセレクトショップg KEYAKIZAKAにてご覧頂けます。希望小売価格1,408,000円~(Zero 1000サイズの本体のみ。素材・サイズにより変動致します。)※お取り扱い店舗では、火はつけられません。

東京都港区六本木6-10-2 六本木ヒルズ ヒルサイドB1F
営業時間:11:00~20:00
定休日:なし
https://g-roppongi.jp/

製品のお問い合わせ先

『AK47』日本総代理店  有限会社 Gate Japan
03-6805-1567
https://www.gatejapan.jp/


リーデル青山本店

ソムリエ シングル・モルト・ウィスキーの画像

ハンドメイドの『ソムリエ シングル・モルト・ウィスキー』。ひとつのグラスができあがるまで、25人もの熟練の職人によって丹誠込めて創られている。手仕事ならではのエレガントなフォルムが、シングルモルトウイスキーのフレーバーを引き出す。希望小売価格30,250円

東京都港区南青山1-1-1 青山ツインタワー東館1F
営業時間:月曜日~金曜日 12:00~19:00 土曜日、祝祭日 11:00~18:00
定休日:日曜日
03-3404-4456
https://www.riedel.co.jp/

お問い合わせ先
レミー コアントロー ジャパン 株式会社
https://www.remy-cointreau.com/en/japan/
三陽物産株式会社
06-6352-1591
https://sanyo-brands.jp/lp/highlandpark/
堅展実業株式会社 厚岸蒸溜所 お客様センター
0120-66-1650
http://akkeshi-distillery.com/

●掲載商品の価格はすべて、税込み価格です。

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