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パルミジャーニ・フルリエが創業30周年を迎えた。それを記念し、同社が修復してきたスイス時計産業の遺産を展示する「メカニカル ワンダーズ 2026」を東京・六本木で開催。修復から始まったブランドの歴史を紐解きながら、展示された作品を紹介していこう。
パルミジャーニ・フルリエは現代の高級機械式時計を製造するマニュファクチュールである。一方で、現在も歴史的な時計を修復する部門を擁する稀有なブランドだ。それはブランドの原点が、古い時計をよみがえらせる修復にあるからだ。
創業者のミシェル・パルミジャーニは、1970年代から歴史的な置き時計や懐中時計、オートマタなどの修復に携わってきた。スイスのル・ロックル時計博物館の一室には、18世紀から19世紀にかけて制作された大小のオートマタが展示されている。そこにはサンド財団から寄贈された貴重なコレクションもあり、のちにそのコレクションの修復を任されたのがミシェルだった。まさに博物館級の時計の修復を依頼される凄腕だったわけである。その頃からミシェルは「神の手を持つ時計師」と呼ばれるようになる。
修復師として彼の名を広く知らしめたのが、天才時計師アブラアン=ルイ・ブレゲが製作した「シンパティック・クロック(同調時計)」の修復だった。この時計はブレゲが1800年前後にかけて製作した置き時計で、子機である懐中時計を台座にセットすると置き時計の時刻に自動的に同調し、ゼンマイまで巻きあげるという驚きのメカニズムを搭載していた。専門家でも構造がまったくわからず修復不能といわれたこの古時計を、およそ2000時間を費やして蘇らせたという。
修復とは、単に壊れた部品を交換して動くようにすることではない。作った時計師が何を意図し、なぜその構造や素材、加工法を選んだのか。時計を分解しながら思考を読み解いていかなければならない。安直なパーツ交換は、その時計が刻んできた時間の断絶を意味するからだ。ミシェルは修復を通じて「手を加える前に理解し、オリジナルを尊重しながら保全する」という姿勢を重視していた。
同時に修復は、ミシェルにとって時計製造を学ぶための最高の教科書になった。何世紀にもわたって、時計師たちが考案してきたムーブメントや複雑時計、装飾技法を、見るだけでなく分解し、構造を理解して、時には失われた技術まで探りながら学ぶことができたからだ。彼自身も「修復は知識の源」と語っており、過去の傑作から得た膨大な知識は、やがて自らの時計を作るための礎となっていった。
ミシェル・パルミジャーニは、1976年、生まれ育ったフルリエ近郊のクヴェに、周囲の反対を押し切って工房を開設。古時計の修復師として活動を始めた。
転機となったのは、現在スイスの製薬会社ノバルティスの前身のひとつである、サンド製薬グループのファミリーとの出会いだ。彼らは歴史的な懐中時計やオートマタを所有するコレクターでもあった。その中心となったのが、サンド家の三男であったモーリス=イブ・サンドが生前に収集した時計やオートマタのコレクションだった。1980年、コレクションの修復を担っていたル・ロックル時計博物館のエフレン・ジョバンが、自身の後継者としてミシェルをサンド家の一族に紹介する。サンド・ファミリーは長年にわたってミシェルの手腕を目の当たりにして、やがて自身のブランドを立ち上げることを強く勧めるようになる。こうしてサンド・ファミリー財団の支援を受け、彼の名前を冠し、地名を加えたパルミジャーニ・フルリエが1996年に誕生した。
かくして、修復師は時計ブランドの創業者となった。しかし修復の仕事は終わったわけではない。現在もムーブメント、ケース、文字盤などを手掛ける本格的なマニュファクチュールとして新品の機械式時計を製造しながら、歴史的な古時計やオートマタの修復を続け、そこから得た複雑時計のノウハウを新たな時計作りへと生かしている。つまり修復はブランド誕生以前の物語ではなく、現在の時計作りにもつながる、もうひとつの柱なのである。
「メカニカル ワンダーズ 2026」は、ブランド創業30周年を記念して開催された。ミシェルをはじめとする修復師たちが修復を手掛けてきた「モーリス・サンド・コレクション」のマスターピース6点と、パルミジャーニ・フルリエのカレントピースを並べて、過去から現代まで続く時計技術の連続性が見られる構成となっている。目玉ともいえる「モーリス・サンド・コレクション」は、19世紀初頭の作品を中心とし、時計だけでなく、機械仕掛けによって生物の動きや鳴き声まで再現するオートマタも見どころとなっている。パルミジャーニ・フルリエの30年間を振り返る展示会というよりも、修復から創造へとつながる、時計作りの原点を示す展示会といえよう。では、その中からハイライトの作品をご紹介しよう。

ゴールド製の胴体に、外皮の模様をエナメルで表現した蛙のオートマタ。背中はハーフパールで彩られ、目にはルビーが施されている。内部には機械式のメカニズムが組み込まれ、後部のレバーを操作すると、蛙の鳴き声を再現し、足を伸長させ体を前進させる。

11個の関節リングを側面にピボットネジで連結したゴールド製のかいこ。頭部にはブラックエナメルが施され、カボションカットのルビーの目が備わっている。こちらも内部には機械式の機構が備わったオートマタで、ゼンマイを巻き上げると、前の節と後ろの節が交互に動くことで、生きているように前に進む。

18Kイエローゴールド製のドーム型ケースに収められた懐中時計。時はケース上部の扇形の小窓に表示され、分はホワイトエナメルの5分刻みの目盛りで表示される。ムーブメントは、2つの輪列を備え、マルタ十字の巻き止め機構を備えた香箱を搭載する。オール・オア・ナッシング機構のクォーターリピーターも備える。

ゴールド製の香水瓶の外装には、エナメルペイントや、ギョーシェ掘りの上に透明エナメル、金箔装飾、ハーフパールが贅沢にあしらわれる。正面には3針の時計が鎮座する。ほかにも5つのベルを叩いて音を奏でるミュージカルムーブメントやミニチュアの田園風景が動き出すオートマタも備える。

歩行用のステッキの持ち手に、ミニチュアのシンギングバードのオートマタを内蔵した逸品。上部側面にあるスライドレバーを操作すると上のカバーが開いて小鳥が現れ、鳴き声とともに、旋回(首振り、体の回転)、くちばし、尾羽、翼が動く。多層構造の内部は、上部が駆動システム、下部が笛機構によって鳥のさえずりを生み出す風箱で構成される。

東京ミッドタウンにある21_21 DESIGN SIGHT ギャラリー3で、2026年9月19日(土)から24日(木)まで開催された。
STAFF
Writer: Katsumi Takahashi
Editor: Kyoko Seko
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